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業の軌跡 〜悪魔は不老不死を渇望する〜 (未完結)  作者: 橘 涼
〜スミア王国編・前編〜
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「今日から共に働くフランコ公だ、宜しく頼む」


「マークスです。これから宜しくお願い致します」


 大密林の入り口に差し掛かる所で、これから上司のような存在となるフランコ公と合流し、挨拶をする。

 流石に他領の公爵家ともなると、言葉遣いに気を付けなくてはならない。難しいものだ。


 やはりフランコ公はフリスク公の弟なだけあって、容姿が似ている。

 この人も僕と同様で、文官なのに戦えるそうだ。


 今まではずっと密偵が付き纏う程度で、暗殺者は一度しか送られなかったが、突然フリスク公の弟が送られるとは大きく出たものだ。

 暗殺者は当然リンが返り討ちにした。


 少し前に各領主を国王が招集して居たので、その集まった際にフリスク公が何かしたのだろう。

 ただ隔離されるだけで捕まったり襲われたりする訳では無いので、まだ疑わしい段階といったところか。

 僕は疚しい事は何一つしていないからね。


 にしても公爵家の者という大物を送ってくるとは。

 下手に手を出せば極刑だってか?


「早速鉱脈の下見へ行くぞ」


「承知致しました」



 道中の魔物は僕とリンで討伐して鉱脈まで着いた。

 白銀の乙女を護衛に付けない辺り、怪しまれているのは確定事項と見て良いだろう。


 ふーむ、僕も鉱脈の様子は白銀の乙女からの報告で何となく聞いていたものの、実際に見るのは初めてだ。

 見た目は洞窟に近い、と言うかほぼ洞窟だ。

 中に入れば、湾曲した一本道が続いている。見通しがかなり悪い。


「これはある程度魔法で整備が必要だな。二人は士官学校に通っていたから魔法は使えるよな?」 


 フランコが鉱脈を冷静に分析しながら問いかけてくる。


「はい、それなりには使えます」


 魔法で光源を確保して、奥深くへと進んで行く。

 所々に露出した鉱石らしき物を見える。


 終始フランコには距離を取られ、警戒されているのが分かる。まぁそれ位は当然か。



 周囲の観察をしながらフランコ公に着いて行けば、奥の行き止まりまで辿り着いた。

 成程、この辺から周りを掘って鉱石を集めていく訳か。

 奥に行けば行くほど露出した鉱石も増えていた。


「さてリン、問題は無さそうかい?」


「特にありません、ご主人様」


「よし、行こう」


 僕が指示を出せば、リンが自身に俊敏の魔法を掛けて、音も無くフランコ公の元へ駆け寄る。


「何を言って――」


 フランコ公が駆け寄るリンを見て、即座に口を紡ぎ魔法を発動して迎撃しようとする。


 フランコ公はどうやら魔法使いのようだ。

 この鉱脈は狭い一本道。魔法を発動して遠距離攻撃をされれば、並の剣士は近づく術がない。

 だが、リンは並の剣士ではない。

 魔法を素早く躱して、その隙に距離を詰めて、フランコ公を押し倒した。


 俊敏の魔法が使える事を想定していなかったのか?

 いや、恐らく僕ら二人は剣士だと思い込んでいて居たのだろう。冒険者時代は剣士で通ってたからな。

 にしても、何だか詰めが甘いなぁ。



 フランコ公は上からリンに抑えつけられ、憎たらしげにこちらを睨みつけてくるが、焦っているようには見えない。

 フリスク公が丸腰でフランコ公を送るわけが無い。何かしらの奥の手があるのだろう。


「フランコ、何か隠しているよね?」


「さぁな。貴様、こんな事をして何を企んでいる」


「通信の魔法具なら魔法で無効化してあるよ」


「はっ?」


 図星だったようだ。

 フランコ公は呆気ない声を漏らしてしまう。

 そんな反応したらバレちゃうのに、やはり詰めが甘い。


「通信の魔法具を使って、フリスク公に色々伝えるつもりだったのかな?」


「無効化だと……? それは貴族しか知らない魔法具だぞ。何処でそんな技術を手に入れた」


 フランコ公は困惑しながらも、めげずに僕から情報を引き出そうとする。

 ここは乗ってあげよう。


「貴族以外にも、知ってる所があるでしょ」


「冒険者ギルドか……!」


「頭が回るねぇ。この国の官吏は皆賢くて嫌になっちゃう」



 そう、冒険者として活動している時、明らかに他の都市の冒険者ギルドとの情報伝達が早いと感じていた。


 何か世に公開されていない技術を使っていたのだろう。

 そう睨んではいたが、冒険者ギルドを敵に回すと不味いので中々調べる事は出来なかった。


 だが、ナダールを手に入れたお陰で、素質を使って冒険者ギルドへと偵察に行かせることが出来た。


 その結果、前世の電話のような魔法具があり、それを使って情報伝達をしている事が分かった。

 ナダールにはそれを一つ盗んで貰い、スミア王国に引越しする前にツバキ達と研究や解析を行っていたのだ。


 まだ需要が無いのでしていないが、その気になれば量産だってできるようになっている。


 スミア王国に来てからも、ナダールに様々な貴族の屋敷に偵察に行かせた結果、所々に同じ魔法具が見つかった。


 これが貴族と冒険者ギルドでしか見つからないという事は、現地点で最も強力な情報伝達手段なのだろう。

 封じてやれば、情報戦は怖くない。


 リンがフランコ公の懐をまさぐり魔法具を取り出せば、魔法具が上手く起動していない事が分かる。

 フランコ公もそれを見て、ガックリと項垂れてしまう。



「ナダール、そろそろ姿を出して良いですよ」


 唐突にリンが、虚空に向かって喋り出す。

 リンの視線の先から何者かが姿を現す。

 現れたのは、黒ずくめの人間を一人抱えつつ鞄を提げたナダールだった。


「マークス、一人いたぜ。ほらよ」


 抱える人間は気を失っており、ナダールがそう言って地面に優しく置く。


「へぇ、やはり密偵も居たかぁ」


「にしても気配を全然殺し切れてなかったぜ。お偉い貴族様のお抱えだと言うのに、この程度なのか?」


「まぁ、そんなもんじゃない? じゃあナダールは鞄を置いて入口を見張っておいて」


「はいはい、分かりましたよ」


 ナダールは鞄を雑に置いて入口へ引き返していく。

 密偵とは違って酷い扱いだ。

 僕とはなるべく関わりたくないらしい、随分と嫌われたものだ。


 そしてフランコは変わらず項垂れていて表情は分からないが、僅かに身体が震えている。


「貴様、そこまでして何が狙いだ……っ!」


「さぁね? リン、気絶させていいよ」


「分かりました、ご主人様」


 リンがフランコ公の首を絞め落とす。

 まだ何かしらの奥の手があるかもしれないので、後はフランコ公から直接聞く事にしよう。



――――――――――――――――――――



「他に奥の手はない?」


「ありません」


「他に人が来る予定はある?」


「ありません」


「じゃあビーター公がどうして僕を疑っているのかとか、色々情報を喋ってもらおうか、フランコ」


「分かりました、マークス様」


「あ、喋り方は普段に寄せといてね」


「あぁ、分かった」


 よしよし、問題は無さそうだ。

 ナダールが確保した密偵にも脳改造を施して、両者に何事も無かったかのように振る舞わせる。



 普通に仕事をしていても、フランコが何か捏造をして僕に何か罪を擦り付けてくる可能性があった。

 余りにも上層部の動きが分からないのもあって、多少無茶をしてでも先手を取ろうと、フランコを手駒にする事にしたのだ。


 最悪情報を頂くだけ頂いて、不味いことがあれば別の国に逃げれば良い。

 研究は進めれなくなるが、死ぬよりは余程マシだ。


「へぇ、人の性格や心境が分かる素質ねぇ」

 

「あぁ、そのフリスク公の目には、マークスがおぞましい化け物に映ったらしい」


「えぇ……」


 そんなのどうしろって言うんだ。

 一応予想は大体当たってたって事か。素質は可能性が無限大だから、考慮したらキリが無いんだよな……。


 それでフリスク公は僕が国を滅ぼす厄災だと勘違いして、血眼になって僕を処刑しようとしているらしい。

 僕は国を滅ぼすつもりなんて無いし、普通の人間だと言うのに、なんて迷惑な輩なんだ。

 殺してやりたいな、無理だけど。


 僕の異常性は国王や他の領主にも伝わっているが、確証は無いので僕の事を警戒している程度だと。

 真面目に働いてきて本当に良かった、やはり信頼は大事な物だ。



 それにしても、リスク覚悟でフランコを手駒にして本当に良かった。

 公爵家の者なだけあって、情報を沢山持っている。

 リスクに見合ったリターンが得られて喜ばしい限りだ。


 後は脳改造を施した事さえ露見しなければ、証拠は何も残らず、フリスク公がどんなに騒ごうとも国と敵対して処刑される事は無い。


 暗殺者を送り込んだようにフリスク公が個人で動くならば別だが、フランコがこっちに寝返っているし個人の力はそこまでなので、何とでもなるだろう。

 捏造する予定も無かったらしいし、フリスク公の根が真面目過ぎるのかもしれない。


 今日は二人には何事も無かったかのように帰らせて、フリスク公の動向を伺おうか。

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