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業の軌跡 〜悪魔は不老不死を渇望する〜 (未完結)  作者: 橘 涼
〜スミア王国編・前編〜
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 今度はビーター公がバイソン公の屋敷へ来訪して来た。


 近頃バイソン領付近の大密林で、白銀の乙女が鉱脈を発見した。

 お陰でこの屋敷も騒がしくなっており、どう扱うかの議論が為されている。来訪もその一環だろう。



 ナダール経由で白銀の乙女が鉱脈らしきものを見つけたという報告を受け、どのように扱うか色々検討したが……最終的に素直に公開することにした。


 あくまで僕の見立てだが、放置は無い。

 大密林の魔物や上位ヴァンパイアの存在の危険はあるが、余りにも得られる利益が大きい。

 パーチェ王国という買い手が居るなら尚更だ。


 かと言って莫大な利益をもたらす役職に、適当な人を就ける訳にはいかない。

 高位の貴族のような、信頼の置ける且つ優秀な人を鉱脈の管理に就かせるだろう。


 そして白銀の乙女は護衛や護送に雇われるだろう。

 そこで襲撃させて、密かにリンを送り脳改造を施して、手駒を確保してしまおうという算段だ。

 その手駒は地位が高いから、人を呼び出してもそこまで怪しまれない。芋づる式に手駒を増やして行けば良い。


 そろそろ就く人が決まってもおかしくは無い。

 上手く行けば高位の貴族に脳改造を施せて、大きな争いも無く国を乗っ取れるはずだ。


 果たして、誰が就くかな?




「えぇ? 僕とリンが?」


「あぁ、そうだ。君達に鉱脈の管理をして貰う」


 バイソン公とビーター公が面会している所に何故か僕とリンが呼び出されたので向かえば、バイソン公が僕らに鉱脈の管理を任せると言ってきた。


 インフラや財務を取り纏める地味な職務から、一つの産業の管理を担うという大きな職務に移る。

 一見すると大出世だが、どう考えても仕えて一年も経っていない若手の新人に任せるような内容では無い。


 何か企みがあるように思えて仕方ない。


「とても名誉な事で有難い限りですが、僕らのような若手の平民に任せて大丈夫なんでしょうか? 鉱脈の管理は相当重要な役目だと思うんですが……」


 とりあえず自然な反応をしつつも遠慮してみる。

 僕の動揺を誘う事で、何か反応を伺って場合もある。


「大密林にヴァンパイアが潜伏している可能性があるのは知っているだろう? その点を考慮して、優秀で且つヴァンパイアの討伐実績がある君達にやって貰う事にしたのだ」


 バイソン公は自身で決めたように言うが、その顔には僅かに悔恨の色が現れている。

 バイソン公としては不本意だったって事か?


 バイソン公でも決定を覆せなかったとなると、国王又は他二人の領主が決定したのだろう。

 フリスク公が何か動いたかもな。


 そう考えると、凄く受けたくない。

 というか鉱脈の管理に僕が就くと、先程立てた算段が無意味に終わるでは無いか。


 僕以外にも戦える文官は何人も居る。わざわざ若い平民である僕にやらせる必要は無い筈だ。


「僕以外にも、より相応しい御方が居られると思いますが……」


 何とか遠慮しようとするも、ずっとやり取りを黙って聞いていたビーター公が横からバイソン公の援護をする。


「バイソン公が君の事を優秀だと推していたんだよ。それにこれは決定事項だ、何を言おうとも覆らない」


 決定事項だと言い切られてしまった。

 こうなっては唯の平民である僕が公爵家に逆らえはしないので、受け入れるしか無くなる。


 下手に断れば、フリスク公が反逆の疑いとか言い掛かりをつけて僕を捕まえて来そうだ。


 最近僕の周りにはフリスク公の密偵らしき者が彷徨いており、一時期は家の中まで忍び込んできた。

 リンのお陰で気付いているので何事も無いかのように振舞えているが、中々恐ろしいものである。


 ビーター公が黙り込む僕を見て、納得してないと思ったのか話を付け加える。


「君は自身の事を若手の平民と言ったが、優秀で真面目に働くのならば、年齢や身分はどうでも良いのだ。別に悪事を企むつもりでも無かろう?」


 ビーター公は合理的な人と聞いていたが、まさか年齢や身分よりも能力を重視する程の人だとは。割り切ってるなぁ。

 ただその諭すような口調とは裏腹に、一瞬疑いの目を向けてきたのを見逃さなかった。


 うーん、疑惑の段階か……。

 逃げ道は無いし、一旦ここは素直に受け入れよう。


 いや待て、フリスク公に鉱脈の管理が杜撰だと難癖を付けられたら、権力的にどうしようも無くないか?


「無論変な事をする気は御座いません。しかしながら一つ質問がございまして、鉱脈の管理に関しての責任は全て私が請け負うのですか?」


「そこは大丈夫だ。君達二人の他に、フリスク公の弟であるフランコ公が就く。彼が責任を持って働くので、二人はその指揮下に入って補佐をしてやってくれ」


 あぁ、流石に周囲を納得させる為にそれ位はするのか。


 だがフランコ公が就く事を最初に言わなかったという事 は、間違い無く僕の反応を伺って居たな。

 うーん、フリスク公が僕に関する事をビーター公と共有をしたのかもしれない。


 まぁフランコ公が責任を受け持ってくれるし、ビーター公も疑いの段階なのでまだ何とかなるだろう。

 後手に回ったから状況は余り宜しくないが。


「成程、理解致しました」


「うむ、では細かい所を説明するぞ」



 どうやらパーチェ王国と提携を結ぶそうだ。


 鉱脈で労働力となる奴隷や専門家といった人材をパーチェ王国が用意する代わりに、採れた金属を優先的に売る。

 二国間の関係が、より強固なものになるだろう。


 そして僕、リン、フランコの三人で、その人材を上手く管理して鉱脈を掘らせる。

 三人だけとは、人材不足が顕著に表れてるなぁ。


 採れた金属や我々の食料等の物資は、バイソン公が支援する冒険者の白銀の乙女が護送する。


「そして書類の受け取り、提出の際はこの屋敷に来て良いが、基本は鉱脈内で寝泊まりして貰う」


「未開拓の鉱脈で、寝泊まりをですか?」


「あぁ、最初は少し生き苦しいかもしれんが、生活用品や改装に必要な物は用意する。奴隷に掘らせたり魔法を使ったりして、フランコと住みやすい環境にして貰って構わない」


「な、なるほど……」


 事実上は大出世だが、これではまるで隔離じゃないか。

 ナダールを除いた手駒全員を、フランコ公という爆弾を残して鉱脈に隔離された。


 フランコ公は公爵家の者が居ることで周りを納得させ面目を保つつ、僕の監視を担っているのだろう。


「あぁ、それと明日から動いて貰うからな。フランコ公は既にバイソン領に到着している。明日には顔合わせをして、鉱脈の下見に向かって貰おう」


「承知致しました、精一杯頑張らせて頂きます」


 急過ぎて抗議したいが、口答えは出来ない。

 舌打ちを堪えて、お得意の笑顔の仮面を被って返答する。


 畜生、僕が何も出来ないように、敢えてギリギリに伝えたな。

 兎に角、今はこれからどう挽回するかを考えなければ。



――――――――――――――――――――



「それでは、失礼します」


 鉱脈で働く事を伝えられたマークスとリンが、一礼をして退室していく。


「怪しい所は無かったな」


 扉が完全に閉まったのを確認し、そう呟くビーター公。

 それを聞いてバイソン公は眉間に皺を寄せる。


 バイソン公には、どうしてもマークスがフリスク公の言うような邪悪な敵には見えなかったのだ。


 まだ関わって一年も無いが、彼らがもたらしてくれた実績は計り知れない。

 彼らが加わっただけで仕事が格段に楽になり、ヴァンパイアを二体も討伐してくれた。


 そんな国の為に尽くしてくれる人が、国を滅ぼすような事 をするだろうか。

 ラースの息子なので怪しい身分と言う訳でも無いし、滅ぼす理由も見当たらない。


 バイソン公には、どうしてもマークスがフリスク公の言うような邪悪な敵には見えなかったのだ。



 だが目前に座り、悠々と菓子を食すビーター公は違う。

 フリスク公の言い分を丸々信じ切っている訳では無いが、マークスの事もかなり警戒している。


 国王の元での話し合いの後、マークスに鉱脈で働くことを伝えるに当たって、フリスク公に同行するか伺ったが……。


『私は行かん! 見るだけでも気が狂いそうだと言うのに、話す事など出来る訳が無かろう!』


 マークスの事をまるで化け物の様に恐れていた。

 それを見たビーター公が、マークスに興味があると言って代わりに同行してくれたという訳だ。


「……ビーター公はマークスの事を敵だと思われているのでしょうか?」


「確信はしていない、が疑ってはいる。フリスク公は少々乱心しているように見えたが、私怨や感情的に出鱈目を言うような人でも無い。警戒しておくに越したことはないだろう」


「成程……。私も何か動くべきでしょうか?」


「いや、フリスク公やフランコ公が上手く動いてくれるだろう。貴方に必要なのは、警戒心だ。接触の機会を減らし、マークスと二人きりになるのは避けろ」


「分かりました……。気を付けます」

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