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前話で誤字報告を頂いたので修正致しました。
誠に感謝です。
「貴方がマークスを恐れている事は十二分に伝わりましたが、我々からすればマークスを敵と断定する明確な根拠が何一つ無いんですよ」
やはりそうなってしまう。
余りにも致命的過ぎる問題が残っている。
現状根拠は自身の"目"しかないのだ。
周囲を納得させるような物が何一つ無い。
横からバイソン公が手を挙げる。
「すいません。私は素質についてあまり詳しく無いのですが……黒色だからと言って、敵だと確定した訳では無いのでは?」
「成程。確かに黒が異常性を示す色だとしても、マークスが若くしてこれ程までに優秀なのが、異常性の一つだと捉える事も出来ますね」
ビーター公もマークスを擁護するような事を言う。
成程、尤もな意見だ。
だが、それは常識的な話である。
マークスをそんな常識の範疇で語っていては駄目なのだ、アレはその範疇を超える存在なのだ。
「駄目だ! そんな認識では手遅れになってしまう!」
「フリス公を信用していない訳では無いですがね、此方としても証拠が無いと動けないんですよ」
「ならば何としてでも見つけてやる! 見つけるまで鉱脈は保留の方向で――」
「証拠が見つからないから、こうして私たちに助けて求めているのでは無いですか?」
「そ、そこは何とかする!」
「捏造は駄目ですからね。一度でも冤罪紛いの前例を作ってしまえば、パーチェ王国の二の舞を演ずる事になりますよ。それは貴方が一番分かっているはずです」
「むっ……」
「それに鉱脈の保留も駄目です。証拠が見つかる保証も無いのに待つだなんて、その間にどれだけの損失が生まれると思っているんですか」
なんて事だ、余りにも正論過ぎる。
ビーター公の言う事は何一つ間違っていない。
だが、幾ら何でもマークスに肩入れし過ぎなように思える。
……いや、彼から見ても、私は鉱業の発展を阻害する国の敵なのか。
白銀の乙女以外の二組のBランク冒険者は、大密林で活動する気は無いと名言している。
ここで私の流れになって白銀の乙女を護衛に外せば、誰を護衛に付けるのかでややこしい流れになる。
私の発言力を落として、護衛させるよう譲歩させたいのだろう。それが一番スムーズで国の為になるのだから。
普段はビーター公の優秀さ、合理さが頼りになったのに、今回に限ってはそれが裏目に出ている。
まさか周りが優秀過ぎて困る事になるとは。
だが、最終的な判断を下すのは陛下だ。
「陛下は……どうお考えなのですか」
陛下は一度ビーター公の問いに答えて以来は、ずっと我々の話し合いを黙って聞いている。
可能性はかなり低いが、陛下がマークスを処刑すると言えば殺せるようになるのだ。
皆、黙って陛下の言葉を待つ。
「うむ、流石に証拠も無く処断は出来ぬ。そこで、鉱脈の管理をマークスに任せるのはどうじゃ?」
「な、な、なっ……!? 何を仰るのですか陛下! 鉱脈を見つけたのはマークスの企みである可能性が高いと……」
思わず立ち上がって抗議した所を、陛下に遮られる。
「待て、言いたい事は分かっておる。何か企みがあるかもしれないのに、みすみす明け渡すのは愚策だろうだと」
「そ、そこまでは思っていませんが……」
陛下に怒鳴るように抗議してしまった事に気づき、血の気が引いていく。
幸いな事に陛下は気にしていないようだ。
陛下の温厚さに感謝しかない。
「まぁ聞け、マークスらを鉱脈に"隔離"するのだ。生活用具を此方で用事して、鉱脈で住み込みで働かせよう。マークスにはヴァンパイアと戦える強さがあるから、護衛は必要無くなる。白銀の乙女には物資の護送だけをさせれば良い」
「な、なるほど……」
言われてみれば、一理あるように思える。
マークスを鉱脈に送れば、護衛は必要無くなる。
大密林に潜むであろう上位ヴァンパイアが、マークスを殺してくれる可能性だってある。
それに、鉱脈内では出来る事が限られるからマークスは中々動けなくなるだろう。
鉱脈内で何か企む可能性が残ってはいるが、逆にその企みを掴んでしまえばそれが証拠になる。
ただ鉱脈内のマークスの動向を把握出来るかが不安だ。
白銀の乙女から物資を受け取る際にマークスの様子を聞くことは出来るが、信用ならない。
「国王陛下、彼らがいくら優秀だとしても、若手の平民に一つの産業を任せるとなると、周りが納得しません」
ビーター公が横から鋭い指摘をする。
バイソン公の官吏はマークスらの優秀さを知っているのでまだ納得するかもしれないが、私やビーター公に仕える官吏からすれば、到底納得出来るものでは無いだろう。
特に貴族の官吏から猛反発される未来が見える。
「うむ、フリスク公も鉱脈に放置するようで不安だろう。そこで、フランコ公をマークスの制御と監視を兼ねて鉱脈に送るのはどうだ?」
……む? フランコだと?
今陛下はフランコをアレの元に送ると言ったのか?
「なるほど、フリスク公の弟殿が居れば、周りは納得するでしょうな」
「ふ、ふふふざけるな! 大切な弟をアレの元に送り込むなど出来るか!」
「兄上! 落ち着いてください!」
思わず動乱してしまい、背後に立つ弟に宥められる。
「そもそも言い出したのは兄上なのですから、それ位はするべきでしょう。それに伯爵家に危害を加えれば即処刑出来ます。マークスも迂闊に手出しはして来ないでしょう」
「フランコ……」
やはり皆、常識の範囲内で語っている
マークスならば容易に危害を加えかねんのだ。下手をすれば、フランコが殺される可能性だってある。
それでもフランコならば、実力者で地位もあるし裏切る事は絶対に無い。公爵家の一員なので、何か手出しをすれば罪は相当重くなる。処刑も可能だろう。
「先程の不適切な発言は聞かなかった事にしよう、それだけマークスを恐れているという事が良く分かった。儂の案を実行するかの最終的な判断は、当事者であるフリスク公に委ねる。どうするかね?」
「陛下……」
感情のコントロールが出来ていない。
事前にあれだけフランコに警告されていたと言うのに、私はなんて不甲斐無いんだ。
一度冷静になれ。
フリスク公は目を瞑り、心を落ち着かせて考える。
弟の意見を聞く必要は無い。
彼は納得していたし、国の為になるのならばマークスの元へ進んで行ってくれるだろう。
これは私が判断する事案だ。
弟とマークスら鉱脈に隔離する。
それで得られる利は、マークスの動向を弟が常に監視、制御出来る事、マークスがこちら側の都市では殆ど動けなくなる事。
それを完璧に出来るのならば文句は何一つ無い。
だがマークスが動いた場合、まず犠牲になるのは弟だ。
弟を犠牲にマークスを殺せるが、大密林にある鉱脈では即座に向かう事が出来ない。
別の国や大密林の奥深くに逃げられる可能性もある。
弟の命一つで国を守れると考えれば悪くは無いが、それでも弟は大事な家族なのだ。
家族を失う覚悟が私にはあるのかどうか。
…………。
どれ程時間が経っただろうか。
フリスク公は覚悟を決めて、目を強く見開いた。
「陛下の案をお願い致します。頼んだぞ、我が弟よ」




