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業の軌跡 〜悪魔は不老不死を渇望する〜 (未完結)  作者: 橘 涼
〜スミア王国編・前編〜
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前話で誤字報告を頂いたので修正致しました。

誠に感謝です。

「貴方がマークスを恐れている事は十二分に伝わりましたが、我々からすればマークスを敵と断定する明確な根拠が何一つ無いんですよ」


 やはりそうなってしまう。

 余りにも致命的過ぎる問題が残っている。


 現状根拠は自身の"目"しかないのだ。

 周囲を納得させるような物が何一つ無い。


 横からバイソン公が手を挙げる。


「すいません。私は素質についてあまり詳しく無いのですが……黒色だからと言って、敵だと確定した訳では無いのでは?」


「成程。確かに黒が異常性を示す色だとしても、マークスが若くしてこれ程までに優秀なのが、異常性の一つだと捉える事も出来ますね」


 ビーター公もマークスを擁護するような事を言う。


 成程、尤もな意見だ。

 だが、それは常識的な話である。

 マークスをそんな常識の範疇で語っていては駄目なのだ、アレはその範疇を超える存在なのだ。


「駄目だ! そんな認識では手遅れになってしまう!」


「フリス公を信用していない訳では無いですがね、此方としても証拠が無いと動けないんですよ」


「ならば何としてでも見つけてやる! 見つけるまで鉱脈は保留の方向で――」


「証拠が見つからないから、こうして私たちに助けて求めているのでは無いですか?」


「そ、そこは何とかする!」


「捏造は駄目ですからね。一度でも冤罪紛いの前例を作ってしまえば、パーチェ王国の二の舞を演ずる事になりますよ。それは貴方が一番分かっているはずです」


「むっ……」


「それに鉱脈の保留も駄目です。証拠が見つかる保証も無いのに待つだなんて、その間にどれだけの損失が生まれると思っているんですか」


 なんて事だ、余りにも正論過ぎる。


 ビーター公の言う事は何一つ間違っていない。

 だが、幾ら何でもマークスに肩入れし過ぎなように思える。


 ……いや、彼から見ても、私は鉱業の発展を阻害する国の敵なのか。


 白銀の乙女以外の二組のBランク冒険者は、大密林で活動する気は無いと名言している。

 ここで私の流れになって白銀の乙女を護衛に外せば、誰を護衛に付けるのかでややこしい流れになる。


 私の発言力を落として、護衛させるよう譲歩させたいのだろう。それが一番スムーズで国の為になるのだから。


 普段はビーター公の優秀さ、合理さが頼りになったのに、今回に限ってはそれが裏目に出ている。

 まさか周りが優秀過ぎて困る事になるとは。



 だが、最終的な判断を下すのは陛下だ。


「陛下は……どうお考えなのですか」


 陛下は一度ビーター公の問いに答えて以来は、ずっと我々の話し合いを黙って聞いている。

 可能性はかなり低いが、陛下がマークスを処刑すると言えば殺せるようになるのだ。


 皆、黙って陛下の言葉を待つ。


「うむ、流石に証拠も無く処断は出来ぬ。そこで、鉱脈の管理をマークスに任せるのはどうじゃ?」


「な、な、なっ……!? 何を仰るのですか陛下! 鉱脈を見つけたのはマークスの企みである可能性が高いと……」


 思わず立ち上がって抗議した所を、陛下に遮られる。


「待て、言いたい事は分かっておる。何か企みがあるかもしれないのに、みすみす明け渡すのは愚策だろうだと」


「そ、そこまでは思っていませんが……」


 陛下に怒鳴るように抗議してしまった事に気づき、血の気が引いていく。

 幸いな事に陛下は気にしていないようだ。

 陛下の温厚さに感謝しかない。


「まぁ聞け、マークスらを鉱脈に"隔離"するのだ。生活用具を此方で用事して、鉱脈で住み込みで働かせよう。マークスにはヴァンパイアと戦える強さがあるから、護衛は必要無くなる。白銀の乙女には物資の護送だけをさせれば良い」


「な、なるほど……」


 言われてみれば、一理あるように思える。


 マークスを鉱脈に送れば、護衛は必要無くなる。

 大密林に潜むであろう上位ヴァンパイアが、マークスを殺してくれる可能性だってある。


 それに、鉱脈内では出来る事が限られるからマークスは中々動けなくなるだろう。

 鉱脈内で何か企む可能性が残ってはいるが、逆にその企みを掴んでしまえばそれが証拠になる。


 ただ鉱脈内のマークスの動向を把握出来るかが不安だ。

 白銀の乙女から物資を受け取る際にマークスの様子を聞くことは出来るが、信用ならない。



「国王陛下、彼らがいくら優秀だとしても、若手の平民に一つの産業を任せるとなると、周りが納得しません」


 ビーター公が横から鋭い指摘をする。


 バイソン公の官吏はマークスらの優秀さを知っているのでまだ納得するかもしれないが、私やビーター公に仕える官吏からすれば、到底納得出来るものでは無いだろう。

 特に貴族の官吏から猛反発される未来が見える。


「うむ、フリスク公も鉱脈に放置するようで不安だろう。そこで、フランコ公をマークスの制御と監視を兼ねて鉱脈に送るのはどうだ?」


 ……む? フランコだと?

 今陛下はフランコをアレの元に送ると言ったのか?


「なるほど、フリスク公の弟殿が居れば、周りは納得するでしょうな」


「ふ、ふふふざけるな! 大切な弟をアレの元に送り込むなど出来るか!」


「兄上! 落ち着いてください!」


 思わず動乱してしまい、背後に立つ弟に宥められる。


「そもそも言い出したのは兄上なのですから、それ位はするべきでしょう。それに伯爵家に危害を加えれば即処刑出来ます。マークスも迂闊に手出しはして来ないでしょう」


「フランコ……」


 やはり皆、常識の範囲内で語っている

 マークスならば容易に危害を加えかねんのだ。下手をすれば、フランコが殺される可能性だってある。


 それでもフランコならば、実力者で地位もあるし裏切る事は絶対に無い。公爵家の一員なので、何か手出しをすれば罪は相当重くなる。処刑も可能だろう。

 

「先程の不適切な発言は聞かなかった事にしよう、それだけマークスを恐れているという事が良く分かった。儂の案を実行するかの最終的な判断は、当事者であるフリスク公に委ねる。どうするかね?」


「陛下……」


 感情のコントロールが出来ていない。

 事前にあれだけフランコに警告されていたと言うのに、私はなんて不甲斐無いんだ。

 一度冷静になれ。



 フリスク公は目を瞑り、心を落ち着かせて考える。


 弟の意見を聞く必要は無い。

 彼は納得していたし、国の為になるのならばマークスの元へ進んで行ってくれるだろう。

 これは私が判断する事案だ。


 弟とマークスら鉱脈に隔離する。


 それで得られる利は、マークスの動向を弟が常に監視、制御出来る事、マークスがこちら側の都市では殆ど動けなくなる事。

 それを完璧に出来るのならば文句は何一つ無い。


 だがマークスが動いた場合、まず犠牲になるのは弟だ。

 弟を犠牲にマークスを殺せるが、大密林にある鉱脈では即座に向かう事が出来ない。

 別の国や大密林の奥深くに逃げられる可能性もある。


 弟の命一つで国を守れると考えれば悪くは無いが、それでも弟は大事な家族なのだ。

 家族を失う覚悟が私にはあるのかどうか。


 …………。



 どれ程時間が経っただろうか。

 フリスク公は覚悟を決めて、目を強く見開いた。


「陛下の案をお願い致します。頼んだぞ、我が弟よ」

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