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業の軌跡 〜悪魔は不老不死を渇望する〜 (未完結)  作者: 橘 涼
〜スミア王国編・前編〜
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「クソっ! 奴に先手を取られた!」


 フリスク公が、机に力を込めて怒鳴り拳を叩きつける。

 机に置かれていた紅茶が零れそうになる。


「まぁまぁ、一旦落ち着いてください」


 そんなフリスク公を宥めるのは弟のフランコ公。

 フリスク公が最も信頼を寄せている者で、彼の特別な素質を唯一知る者でもある。

 そんな弟が宥めても、フリスク公は唾が飛びそうな勢いでまくし立てる。


「落ち着いていられるか! 下手をすれば国が滅びるかもしれんのだぞ! あれは人の形をした悪魔だ!」


 あの後、数日掛けて心を落ち着かせ、何とか帰って来る事が出来た。

 だが、あのマークスらしき者の姿、見るだけで精神がズタズタに壊されそうな程のおぞましさが頭から離れない。


 あれは空想上にしか存在しないような、国を滅ぼせる程の悪魔や厄災の類が顕現化した存在だ。

 非常に不味い、そう私の勘が言っている。


「はぁ、悪魔ですか……。それは何度も聞きましたよ」


 直ぐに弟にも事情を話し、マークスの危険性を伝えたが、余り伝わっているようには思えない。


 言葉で伝えるにはどうしても限界がある。

 畜生、見える景色を誰かと共有出来れば良かった。

 優秀な素質だと思って居たが、肝心な時に役に立たん。

 何でこんな中途半端な素質を持ったんだ私は。


 自身の素質に怒りをぶつける事で、心が落ち着かせる。


「そうだ。あれは本当に不味い」


「分かってますよ……。それで、どうするんですか?」


 いや、悪魔が人の形をして仕事をしていたと言う荒唐無稽な私の言い分を信じて、真面目に考えてくれる弟が居るだけでも有難い事だろう。


 私自身そこまで頭が切れる訳では無いが、弟のように周りには優秀な人材が多く居るのだ。

 私は恵まれて居ることを自覚して、冷静にならなければ。


「うむ、とにかく今は奴を処刑しなくては」


「処刑ですか……。流石に大きな証拠が出てこないと、厳しいですよね」


 悪事の証拠を突きつけて処断する際には、罪の重さによって刑罰が異なる。


 本当に微々たる物ならば罰金で済むが、大抵は十数年の禁錮、私財全没収からの数十年の懲役辺りになる。

 そして莫大な横領や殺人、クーデターのような罪が重いものならば、死刑となり処刑される。


 ただマークスは禁錮や懲役程度では駄目だ。

 結局いつかは解放されてしまうし、檻の中だろうと生かして居るだけで国が滅ぶ。アレはそう言う存在だ。


 出来れば処刑。妥協するとしても、国外追放だ。

 他の国に押し付ければ、少なくともスミア王国が滅びる事は無い。


 そんな訳で、密偵や手の者を総動員させてマークスの行動を見張らせているが、中々怪しい様子が見られない。


 過去の情報も調べれば、生物学部に所属しレナート教授の教え子だったと言うことが分かった。

 家で人体実験をしているのでは、と家の中まで密偵を送ったが、小麦粉を使った実験をしているだけだった。

 パンでも作ろうとしているのか、ふざけるな。


 物証が何一つ見当たらないとなると、何か罪をでっち上げるか、暗殺するしか無い。


 前者は罰金や禁錮程度ならば出来なくはないと思うが、処刑する程の大きな罪を被せるのは難しい。

 逆にその企みがバレると、私が窮地に陥ってしまう。


 私が居なくなればバイソン公はアレを信頼しきっているので、好き放題されてしまう。

 余りにもリスクが高過ぎる。


 では後者は?

 後者はもう実行した。失敗に終わったが。


 よく良く考えれば、向こうはヴァンパイアを倒す程の猛者なのだ。

 不意打ちならば何とかなるかもしれないが、不意打ちに失敗して正面からの戦闘にもつれ込むと勝ち目は薄いだろう。

 現に一人暗殺者を送り込んだが、帰って来ない。


 となるとやはり、正攻法しかない。

 何か証拠を掴んで国と敵対させる。流石のマークスでも騎士が相手になれば、勝ち目は薄いはず。


 必死に掴もうとしているが、中々尻尾を見せてくれない。

 寧ろ真面目で優秀なので、周りからも一目置かれている程だ。


 何処かで動いているか、動いて無くともいつかは痺れを切らして動きだす筈なんだ。

 アレが何もせず大人しくしている筈が無い。



「クソッ! 鉱脈を見つけるだなんて、何を企んでやがる!」


 そうこうしている間に、大密林で上位ヴァンパイアを捜索していたはずの白銀の乙女が、鉱脈を見つけてしまった。


 鉱脈らしき物を発見したと冒険者ギルドに報告され、それが国に伝えられると、即座に調査隊が送り込まれた。

 調査の結果、確かに鉄を中心とした金属が採れる鉱脈だと判明した。


 白銀の乙女がマークスと繋がっている証拠は無いが、繋がっていると見なしている。

 あのヴァンパイア騒動だって、白銀の乙女がヴァンパイアを都市まで誘導した可能性だってある。


 まさかバイソン公が白銀の乙女の支援をする事まで計算して? 有り得るな。

 

 そんな彼女らが発見した鉱脈、何があるか分かったものでは無い。


「それは考え過ぎではありませんか、兄上。偶然捜索中に鉱脈を見つけた可能性も……」


「違う! お前はアレを見た事が無いからそう呑気な事が言えるのだ! その甘い認識を今すぐ捨てろ! アレはヤバい!」


 鉱脈の発見も、何かに利用する気なのかもしれない。

 明らかに先手を取られた。


 後手に回った今、悠長にはして居られない。

 何か手を打たなければ、いつの間にか手遅れになっている可能性もある。



 ――コンコン


 再び憤って来た所に、今度はノックによってフリスク公の胸の奥が冷やされて行く。

 フランコ公はそれを見て、感情的になり暴走はしてはいないと少しホッとする。


「とりあえず、言葉遣いには気をつけて下さいね、兄上」


「あぁ、分かった……。入れ」


 扉を開き入って来たのは、長年仕えてきた文官。

 色が変わっていない事に一安心する。


「失礼します、国王陛下からの招集命令が出されました。各領主と、鉱脈の扱いについて話されるそうです」


「報告感謝する。直ぐに向かおう、支度をしておいてくれ」


「分かりました、では失礼しました」


 文官が、普段は報告の後に些か雑談を挟んでいるが、今回は何も言わずそそくさと退室していく。

 執務室に居た兄弟二人の、真剣な雰囲気を感じ取ってくれたのだろう。その気遣いが疲れた心に染みる。



 鉱脈の発見は、この国では非常に大きな意味がある。

 林業と漁業に加えて、新たに鉱業という一つの産業が生まれるのだ。丁重に扱う必要がある。

 陛下からの招集はその為だろう。


「よし、この話し合いで何か手を打つしかない。どう動くか向かいながら考えるぞ」


「分かりましたら、ある程度はリラックスして言葉遣いに気をつけて下さいね。あまり感情的になると、説得力を失いますよ」


 弟が冷静に、尤もな事を言う。

 先程までの私の言動は、公爵家の貴族として聞くに堪えないものだった。


 マークスの事になるとあのおぞましさに対する恐怖故か、上手く感情をコントロール出来なくなる。

 その自覚はあるが、どうしようもないのだ。


「分かってる、善処はする」


「本当に頼みましたよ……」

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