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業の軌跡 〜悪魔は不老不死を渇望する〜 (未完結)  作者: 橘 涼
〜スミア王国編・前編〜
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絶賛書き方迷走中。

 ナダールは、マークスに指示された貴族の屋敷へ忍び込んみ、出来る限りの情報を集めて持ち帰り、それをマークスに報告する日々を送っていた。


 今日も無事に情報を集め終わり、マークスの家に向かう。


 ナダールは気配を殺しながら、マークスに指定されたリズムや強弱でドアを叩く。

 気配を殺せてもそこから出る音までは無くせないので、ドアの向こうに居る人物にはこの音が聞こえている筈だ。


「ナダールか、マークスはまだ仕事中だ。帰ってくるまで家で自由に寛いでいいぞ」


「それはどうも」


 ドアの鍵が開く音がすれば、夕飯を作っていたのかエプロンを着た麗しい女性が出迎えてくれる。


 その女性は、マークスの彼女であるツバキだ。

 こうして見ると優しく家庭的で、理想的な女性に見えるが、その実内面には狂気を孕んでいる。


 あのマークスに自ら付き従い、人体実験を嬉々として行うマッドサイエンティストだ。


 ただマークスは何を聞いても芝居がかった笑みを浮かべてはぐらかすし、リンは口答えするだけで問答無用で殺しに来る。

 ツバキは、話が通じて質問にも出来る限り答えてくれるので、比較的マシな方ではあるのだろう。


 そんなツバキに寛ぐと言われたが、特にやる事も無い。

 料理を作るツバキの背中に向かって話し掛ける。


「なぁ、ツバキは何でマークスに従ってるんだ?」


「うーん? 色々と理由はあるけど、根本は君と同じだよ。死にたくないからさ」


「死にたくないから、か……」


「そうさ、研究だって不老不死を実現させる為に頑張っているんだよ。実現はまだまだ先になりそうだけど」


 死にかけたあの時、俺は確かに死を恐れていた。

 死ぬのが怖くて、マークスの奴隷になった。

 だからマークスやツバキの考えは理解出来なくは無い。


 だが俺は、非人道的な行いに協力してまで生きるつもりは無かったのだ。話が違う。

 マークスがこんな化け物だと分かっていたら、断っていた……と思う。


 今の所任務は偵察だけで、マークスもこの国に来てからは大人しくしているが、そのうち暗殺や誘拐のような非人道的な任務も来てもおかしくない。


 協力したくないが、指輪で縛られ抵抗も自決も出来ない。

 自決する勇気など無いが。


「まぁナダールにも色々思う所があるんだろうが、生きていればいつか幸せになれるさ。行動も厳しく制限されている訳では無いし、白銀の乙女と仲良くやってるんだろう?」


 料理をしていたツバキが手を止めて振り返り、改まった声で語りかけてくる。


「幸せ、か……」


 結局の所マークスから解放されない限り、ナダールはマークスが作った檻に閉じ込められている状態なのだ。

 ツバキは、その檻の中でなら自由に動けるから、そこで幸せを探そうと言っている。

 果たしてマークスが作った檻の中に、幸せなんて物があるのだろうか……。



「ただいまーツバキ。おっ、ナダールも居るじゃん」


「おかえりマークス、夕飯はもう少し待っていてくれ」


 考え込んでいる所に、その主な原因であるマークスとリンが帰ってきた。


 思わず玄関を見てしまい、二人と目が合う。

 相変わらずマークスはニコニコ微笑んでいるし、リンは無表情で、二人共何を考えているのかさっぱり分からない。


「じゃあ夕飯が作り終わるまでナダール、色々報告をしようか」


 マークスは各地の貴族の情報を片っ端から集めて、何をする気なのだろうか。

 無意味な行動を嫌うので何か意味はあるはずだが、中々想像がつかない。

 少なくとも悪用されそうではある……が、俺に話さないという選択肢は残されていない。


「分かったよ。今回の貴族は――」



「うんうん、ご苦労だったね。それで次の任務もいつも通り情報収集なんだけど、その前に一つやって欲しい事がある。詳しくは明日伝えるから、解毒剤を飲んで休んどいてね」


 報告が終わればマークスがそう言い、横に座るリンが懐から妙な色の液体の入った瓶を取り出す。

 わざわざお手製の毒まで使って飲ませるとは慎重なこった。お陰で逃げ出せる気が全くしねぇ。




「それで、やって欲しい事とはなんだ?」


 翌日マークスに問いかければ、一枚の手紙を渡された。


「白銀の乙女が拠点にしてる家は分かるね? そこに行ってエルナにこの手紙を渡して欲しいんだ。その後暫くは白銀の乙女と談笑して休んでもいいよ。伝言兼休暇だね」


「渡すだけでいいんだな?」


「うん、きっと面白い反応が見れるよ」


「はぁ……」


 白銀の乙女と会える事は喜ばしいが、面白い反応と聞いて一気に憂鬱になる。

 どうせ碌でもない事なんだろう。そう文句を言いたくなるが、何とか溜息に鬱憤を込めて文句を押し留める。


「後は毒を飲んどいてね」


 そう言うとリンが懐から再び瓶を取り出す。

 変な色をしているが、もう飲み慣れてしまった。


「はいよ、じゃあ行ってくる」


 今はいち早くマークスの元から離れたい。

 とっとと飲み干して、振り返らず外へ出る。

 白銀の乙女と談笑して心を癒そう。




『――そろそろ良い感じになってくれるといいなぁ』



――――――――――――――――――――



「ナダール! いらっしゃい! 休みを貰えたの?」


「まぁ、そんな所だな」


 とある家のドアをマークスの家と同じようにノックすれば、白銀の乙女の一人が明るい笑顔で出迎えてくれる。

 その人と共に家の中に入れば、白銀の乙女の皆が笑顔で歓迎してくれる。


 ただ一部の女性は男に対する嫌悪感を隠しきれず、笑顔が引き攣っている。

 マークスが笑顔で対応するように命令したらしい。要らん気遣いをしやがって。


 俺は素の態度でも構わないと言ったんだが、マークス様からの命令なので、と固辞されてしまった。


 かつての白銀の乙女は男なだけで敵視して来たのに、今やマークスの一声だけで、男に謙るようになってしまった。

 そこまで性格が変わってしまう程の事を、マークスにされたと思うと憐れでならない。


 ただ全員が全員、俺の事を毛嫌いしている訳では無い。


 俺の事を性別関係なく普通の常識人として見てくれて、本心から優しく接してくれる者も居る。

 先程出迎えてくれた女性がそうだ。


 こうして会う度に、雑談に花を咲かせている。

 周りとの接触は最低限に命じられている為、こうして常識人同士で接する機会は中々無く、気が休まるそうだ。

 俺としても、数少ない楽しい時間だ。


 ただ一つ問題があるとすれば――


「どうしたの? 今日のナダール、元気無いよ?」


「そ、そうか?」


 ――マークスの名前をなるべく出してはいけない事だ。


 女性が隣に座って顔を覗き込んできて、反応に困る。


 エルナを除いた全員が、マークスに対して強い恐怖を抱いており、名前を出すだけで震え出す始末だ。


 マークスからの手紙も出来ることなら渡したくはない。

 だが命令されているので、渡さないという選択肢は無い。

 どうやって渡そうか……。


「ナダール、手紙あるでしょ?」


「エルナ……」


 エルナは俺の葛藤を知った様子も無く、手紙を渡すよう催促してくる。


 こいつは元々王都を拠点とするBランクの冒険者だったらしいが、今やマークスの狂信者だ。

 マークスの指示で白銀の乙女に七人目の仲間として加わり、リーダー格としてチームを纏めている。


 マークスめ、事前に手紙でのやり取りする事を伝えてたのか。これではどうしようも無い。

 ナダールは心の中で悪態をつきつつも、素直に手紙を渡す。


「……これだ」


「ありがとうね、ふむふむ……。はい、みんな注目! マークス様からの伝言だよ」


 エルナがマークスの名前を挙げた瞬間、周りに居た六人がビクッと反応する。

 全員が怯えたような目つきでエルナを見て、続く言葉に強ばった表情で耳を傾けている。


「今後は国が冒険者の活動を支援してくれるので、それに乗っかって大密林の探索をしろ。そして多少無茶をしてでも何かを見つけろ。三ヶ月以内に収穫が何一つ無ければ、誰かが六番と同じ運命を辿る事になる。だそうだ」


 反応は劇的だった。


 泣き出して他の女性と抱き合う者、何かに怯えてガタガタ震えながら背中を丸くする者、発狂する者までいる。

 隣に座っていた女性も、嘔吐物が口から出て床に撒き散らしてしまった。


 そんな中読み上げたエルナだけは、面白そうにケラケラと笑う。


「アハハ、ご主人様の言ってた通り面白い反応だね! でも掃除が大変だなぁ」


 狂信者め、そう言いたいが今はそれ所では無い。


「おい、ごば……あんた、大丈夫か!」


 隣の女性は普段は五番と呼ばれており、動揺して五番と言い掛けたが、そんな人を番号で呼ぶような真似はしたくない。彼女だって人間だ。

 ただ名前を教えてくれないので、どう呼べば良いか分からず困っている。


 とりあえず黙って背中をさする。

 何故こんな事になった?


 間違いなく『六番と同じ運命を辿る』の部分が原因だ。

 視線を当の六番と呼ばれていた人に向ければ、発狂した人でエルナに無理矢理気絶させられていた。

 失禁もしたのか股間を濡らして横たわっている。


『きっと面白い反応が見れるよ』


 やはり面白くも何とも無く、碌でもないものだった。


 白銀の乙女は、マークスに恩がある俺とは違い純粋な恐怖で従っている。

 逆らう気概さえ湧かず、思い出すだけでここまで反応してしまう程のトラウマを植え付けられたのだろう。

 あの悪魔め、一体何をしたんだ。


 心の中でマークスに対する恨み言を唱えていると、背中をさすっていた隣の女性の呼吸が整ってきた。


「ナダール、ありがとう。少し落ち着いたわ」


「そうか」


 何をされたのか気になるが、想像しただけでここまでになるのだ。話させるのは余りにも酷だろう。


「ねぇナダール、いつものようにお話をして?」


 女性が上目遣いで懇願してくる。

 そうだ。嫌な事は、楽しい話で忘れるのが一番だ。

 女性の為にも、ここは楽しい話で盛り上げよう。


「分かった! 実はこの前王都に出掛けんだよ、それでな――」

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