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業の軌跡 〜悪魔は不老不死を渇望する〜 (未完結)  作者: 橘 涼
〜スミア王国編・前編〜
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58 *R15

 都市で働くのは大変だ。世の中はそんなに甘くない。


 私はもう時期二十歳になると言うのに、寂れた村で畑仕事を繰り返す日々で、本のような恋愛や冒険もない。

 そんな田舎暮らしに嫌気が刺して、都市で暮らすと言って村を飛び出た。


 私は村で一番可愛かったと思う、だから都市に行ってもきっと何とかなると思っていた。


 だけど結局、能力が無いと誰も雇ってはくれない。

 娼館なんかはこちらからお断りだ。


 何とか頑張って探した結果、レストランの店員として雇って貰えた。

 ただ給料はそこそこで、宿を借りるのとお洒落をするので精一杯だ。家や娯楽なんて買う余裕が無い。


「はぁー、都市で暮らすのも中々大変だなぁ」


 ただ、レストランは繁盛していてお客さんも沢山来る。

 食事を届けてやれば、色んな人が優しい笑顔でお礼を言ってくれる、とても癒される空間だ。

 他の店員さんも優しくしてくれるし、かっこいい人とも話せるし、案外この状況も悪くないかもしれない。


「そうなんですか、毎度毎度お疲れ様です」


 こうして反応してくれるのはリンという女性。

 歳も近くて、最近他の国からここへやって来たらしい。

 似たような境遇で勝手に親近感を持っており、こうして会う度に話や愚痴を聞いてもらっている。


「リンさんもお仕事大変じゃないですか?」


「えぇ、大変ですが、やり甲斐があって楽しいですよ」


「そうかー! 私と同じだね!」


 リンは常に無表情で何を考えているのか分からないけど、話せばちゃんと反応してくれるし慣れてしまった。

 仕事の内容など自分の事をあまり話したがらないが、たまにかっこいい男の人を連れてきている。

 本人は何も言ってくれないが、きっと彼氏なのだろう。

 羨ましいなぁ。


 よし、私も頑張って働くぞ!




「あれ、リンさんそろそろ閉店の時間ですよ? なんでそんな所にいるんですか?」


 今日の仕事を終えて、バックヤードに帰る支度をしようと向かえば、そこにはリンが居た。

 リンの足元を見れば、店長が横たわっている。


「え?」


 リンから店長に視線を逸らせば、リンがいつの間にか消えて、背後に立ったのか後ろから肩をガッシリと押さえつけられる。

 振り払おうにも、女性とは思えない程の力が込められており動かすことすら叶わない。


 肩に痛みが走る。

 何とか首だけを動かして振り返れば、リンが濁った赤い瞳をこちらに向けながら、肩に口を当てている。

 噛まれている?


 痛みはすぐに無くなった、寧ろ気持ち良くなってくる。

 ただ、肩から何かが吸われている感触がある。

 血や肉、魂のような、自分自身を形成するものをズルズル吸い取られていくような、不気味な感触がする。

 本能が警告を発している、このままでは不味いと。


「リンさん……そろそろ辞めてくれないかな……」


 気持ち良い、快楽に流されそうになる。

 それでも警告は煩く鳴り響き、全身から冷たい汗が止まらない。

 私の中の何かが吸い取られている。


「ちょっと辞めて! 洒落にならないってば!」


 必死に抜け出そうとしても、リンは依然として肩を強く押さており、抜け出さない。

 全身が冷え渡って、胸の動悸は激しくなる。

 意識を失ったら私が私で無くなる、そんな予感がする。


「リン! リン!」


 どんなに言葉を投げかけても、リンは止まらない。

 何だか、眠く……。



「ふぅ、ご主人様程ではありませんが、やはり若い女性の血は美味しいですね。処女なのが関係あるのでしょうか」


「ぁ……あ……?」


 私は誰だっけ? 何でここにいるんだっけ?

 何も思い出せない。


 一つだけ分かる事は、私が今猛烈に喉が渇いているという事。喉の奥が疼く。


「喉が乾いてきたでしょう? 街を歩けば美味しい飲み物が沢山ある、遠慮なく飲みなさい」


 喉が渇いて仕方ない。

 それは本当? じゃあ飲んでくるね。


 外に出れば、暗いはずなのに遠くまでよく見える。

 夜の街を歩く人々から、香ばしい匂いが漂ってくる。あの人の言ってた事は本当だったんだ。


 あれ、あの人は誰だっけ? まぁいいや。


 早速香ばしい匂いが強い人間に飛び掛かって、首元に噛み付く。

 鋭くなった歯が、肉を引きちぎって奥まで入り込む。

 歯に吸い付くようなねっとりとした感触があるが、その感触さえも心地よい。

 人間は叫んで振り払おうとするが、痛くも痒くもない。


 そのまま中にある血を吸い取っていく。

 うん、やっぱり凄い美味しい。


 身体を引き裂けばもっと早く飲めるかな?

 首根っこを掴んで引き抜こうとしたが、皮膚が裂ける程度で肉までは裂けなかった。

 そこまでの力は無いらしい。


 うーん、まぁいいか!

 幸い人間はまだまだ沢山いる。

 もっと飲ませて、美味しい血を飲ませて。


「もっと……血……」



――――――――――――――――――――



「ヴァンパイアが出ただと!?」


 夜の静かな屋敷にバイソン公の声が響き渡る。


 憲兵が慌ただしい様子で屋敷に来たのでバイソン公が何があったか聞いてみれば、都市にヴァンパイアが複数体出没して暴れ回っていると報告された。


 都市に魔物が出現した場合、武官に憲兵を統率させて討伐する事になっている。

 すぐに屋敷に居る武官を討伐に向かうよう指示を出す。


 そして討伐に行けない文官も、ただ見てるだけではなく対策や少しでも出来ることをしなくてはならない。

 高ランクの冒険者の動向を確認するが、この都市を拠点にする唯一のBランクの冒険者、白銀の乙女は大密林に遠征中だ。


 騒ぎを聞きつけたのか、近所に住む官吏達が屋敷に集まってくる。中にはマークスとリンの姿もある。


「バイソン伯、今戻りました。この騒ぎはなんですか」


「マークス達か、都市にヴァンパイアが現れたらしい」


「ヴァンパイア!? 僕らも討伐に行きます!」


「む……待て……」


 バイソン公は慌てて外へ出ようとするマークス達を手で止め、思案する。


 マークス達は文官として登用されているが、武官にもなれる程の実力者だと本人と父上から教えられている。

 だが武官では無いので、憲兵との顔合わせや統率の練習、訓練をして居ない。

 彼では上手く統率出来ないだろう、そこまでの考えに至った時にマークスが口を開く。


「言いたい事は分かります。ですが、僕とリンならば二人だけでも対処できます」


 バイソン公は唸る。思考を読まれた事はこの際置いといて、今は二人を出すかどうかだ。


 個人行動は危険が大きい。

 人材に余裕の無い我が国では、官吏が一人失う事は大きな痛手になる。

 だからこそ、武官には憲兵を引き連れさせて単独行動を避けてもらうようにしているのだ。

 本来ならば引き留めるべきだが、今こうしている間にも民はヴァンパイアに殺されているかもしれない。


 ヴァンパイアの数が正確に掴めていない今は、少しでも多くの人手が欲しい。

 マークス表情を見る限りでは、変に見栄を張って豪語している訳では無さそうだ。


「分かった、頼んだぞ」


 二人を見届けることしか出来ず、バイソン公は思わず唇を噛み締める。

 だが黙って見届ける訳にはいかない。領主はどんな状況だろうと民の為に動かなければならない。


「武官が己の役目を全うしている! 我々文官も動くぞ!」

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