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業の軌跡 〜悪魔は不老不死を渇望する〜 (未完結)  作者: 橘 涼
〜スミア王国編・前編〜
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 自由時間を過ごした翌日、再び馬車に乗って移動する。


 以前学校に入学する際に、国王に推薦をして貰った。

 そのため仕える際には、顔合わせをしないといけない。

 その為、馬車は国王がいる王城へと向かっている。


 要は謁見だ。


 果たして礼儀は大丈夫なのだろうか。

 学校で最低限の礼儀は学んだが、平民だったので本当に最低限だけだ。国王に会うことなんて想定されてない。

 それにリンは忌み子だしなぁ……。


 父さんは心配すんなと断言してくれたが、それでも不安である。出だしで躓き悪印象を持たれるのは御免だぞ。

 何をするにしても人に信頼されておいて損は無い。好印象を持たれるように上手く接したい所だ。


 窓から外を見れば、何やら壮大な城が見えてきた。

 ここに国王が居るのだろう。


 流石に国王の情報は、パーチェ王国の図書館やスミア王国の新聞にも書かれていなかった。

 比較的温厚か過激か、それだけでも話は変わってくる。


 民衆の話では比較的温厚そうで、こうして馬車を用意してくれているが、公私を分けている人で官吏としての僕らにも優しくしてくれるとは限らない。

 果たしてどんな人なのだろうか。




「彼がマークス、横の女性がリンです」


「うむ、面を上げよ」


 やはり平民が貴族社会の礼儀や話法など分からないだろうと言われて、事前に話す言葉や流れを教えて貰った。

 大半は周りが勝手に進めてくれるので、僕らは余計な事はせずに大人しくそれに従っている。


 顔を上げれば、正面には荘厳な椅子に座る一人の男。

 その隣に武器を持って立っている三人の男が居る。その内の一人は父さんだ。

 左右にも人が居り、皆がこちらを見ている。


 ちなみにツバキは馬車でお留守番だ、僕らのように仕える訳では無いから仕方ない。


「そなたらには、バイソン公に仕えてもらう」


「「はっ」」


 バイソン公……昨日行った都市の領主だ。


 領主の中で一番若いが、かなり優秀らしく立派に領地を治めている。次期国王候補とも噂されていた。


「マークスとリンを、バイソン公の文官に任命する」


「御任命頂き至極光栄で御座います」



 その後も周りが色々小難しい話をしていたが、僕らは黙って見ているだけで良かった。


 どうやら国王が僕らに気を遣って、単純な謁見にしてくれていたらしい。国王は比較的温厚で、人徳に恵まれている人に見える。

 ただ外交という交渉を行う国王に選ばれているから、甘いという訳では無いだろう。そこを履き違えてはいけない。


 お陰様で問題無く謁見は終わり、今は別室で宰相らしき人と詳しい打ち合わせをしている。


 ……それにしても城内を歩くと色んな人とすれ違うが、リンへの痛い視線があまり感じられない。

 珍獣を見るような妙な視線が集まりはするが、そこまで見下すような侮蔑の感情は感じない。


 学校では貴族が侮蔑所か、野卑な揶揄と嘲笑を浮かべられていたので、貴族はそんなもんだと勝手に思っていた。

 意外とそうでも無いのかな?


「すいません、リンの赤目は大丈夫なんですか?」


「あぁ、パーチェ王国から来られたんでしたね。この国では平民や忌み子であっても、有能であればそこまで不当な扱いはされないと思いますよ」


 淡々と話しているが、僅かに棘が感じられる。

 暗にパーチェ王国は、平民や忌み子に不当な扱いをすると言っているようなものだ。


 パーチェ王国の腐敗っぷりに思う所があるが、どんな形であれスミア王国を支えてくれているので、忌々しさを押し殺しているのだろう。

 流石に支援してくれる国を悪くは言えない。


 有能であれば良いかぁ。


 スミア王国は人材にも余裕が無いので、試験を用いて平民からどんどん登用していると聞いている。

 余裕が無い分、平民の重要性や有難みをよく理解できているのかもしれない。


 実際、平民である僕らにもこうして丁寧に対応してくれている。未知の仕事で不安が大きかったので助かる。


 というかパーチェ王国に余裕がありすぎるのだ。あそこは資源含め色々豊富すぎる。

 貴族間で派閥争いをしたり、平民を面白半分に弄んだり、呑気にして居られる程の余裕があるのだろう。

 腐敗するのも無理は無い。


 腐敗していても、余裕があるからこそ大国で長年の歴史があるし、デイン帝国を抑えられているのだ。



 そんな訳で文官としての仕事内容、国内の地理関係、バイソン領の特色等、色々な説明を受けた。

 バイソン領は海にも大密林にも面しており、栄えているがその分仕事は大変なのだとか。


 また、別の国からやってきたので新しく家を買わないといけない。

 父さんの家は王都にあり、バイソン領からは遠すぎる。

 

 屋敷に住み込みで働く事も提案されたが、彼女が居ると言って断れば、納得して生活基盤を整える為のお金をくれた。

 有能な人材を手放さない為の出費は惜しまない、本当に小国ながらもよく出来た国だ。



 よーし、色々知れたけど百聞は一見にしかず、そのまま馬車を使ってバイソン領に行ってみよう。

 父さんとは、また暫くお別れだ。


 父さんとは親子らしい良い関係を築いている。

 何か困った事があれば、遠慮無く助けを求めさせて貰うとしよう。



――――――――――――――――――――



「ううむ……」


 とある屋敷の一室に、各地にいる息のかかった文官や密偵から届いた報告書に目を通し、唸る男が居た。


 その男の名はフリスク公。一つの伯爵家の代表として、領主を務めている。

 齢は四十歳程で、前任の父は数年前に亡くなった。

 ただ代替わりは十年前から行っていたので、父が亡くなってからも滞り無く領を治められている。


「どうされましたか? 兄上」


 フリスク公が唸る様子を見て、何があったのか問いかけるのはフリスク公の弟、フランコ公。

 フリスク公が唸る訳を話す。


「バイソン公の元に、ラースの息子が来たそうだ」


「おぉ、あのラースの息子さんですか。文官になられるんでしたっけ?」


「あぁ、文官として任命されたそうだ。しかしラースが言うには、戦闘もそれなりに出来るそうだ」


「文部両道ですか。私と同じですね」


 フランコ公は何処か嬉しそうだ。


 事務も戦闘も双方こなせる人材はこの国にとって非常に価値がある。

 実質武官と文官の二人が来たようなものなので、何かと融通が利いて人手不足を補える。


 それに、戦闘経験の無い文官と現場で戦う武官では、戦闘に対する認識の齟齬があり、連携が上手くいかない事がある。

 双方こなせる人材ならば、どちらも考慮して動く事が出来る。齟齬を無くすのに一役買ってくれるだろう。


 そんな人材は常に人手不足なスミア王国に来てくれたのは喜ばしい。喜ばしい事のはずなのだが……。


「では何故、そんな顔をされるんです?」


 フリスク公は気難しそうな暗い顔をしている。

 依然として唸ったままだ。


「白銀の乙女は知ってるな」


「あの三組目のBランク冒険者……ですか」


 スミア王国にはAランクの冒険者は居らず、Bランクも二組しか居なかった。

 そんな中三組目のBランクが現れて、魔物の間引きや討伐が捗ると、弟と共に喜んでいた過去がある。


「マークスの住んでいた地域がな、白銀の乙女が以前まで活動拠点にしていた地域と被るんだ」


「成程……。それはつまり、組んでいる可能性があると?」


「そういう事だな」


 この国に来る前に接触していてもおかしくない程に、二者の距離が近い。

 ここまで喜ばしい事例が立て続けに起きるのも、何処か違和感を感じさせる。


 マークスと白銀の乙女が手を組んでいると仮定すれば、戦力はかなりのものになる。


 実力者である武官が護衛をしているとはいえ、武官の真価は憲兵を統率する指揮能力にある。

 憲兵を呼び出す間もなくマークスと白銀の乙女に一気に攻められると、押し負けてしまう可能性もある。


 そうなればバイソン公を人質に脅したり、殺したりと好き勝手出来てしまう。


 ラースの息子がそんな事をするとは思えないが、警戒するに越したことはないだろう。



 それに国王陛下は人格者であり配下にも恵まれているが、逆に言えば、甘い処断を下すこともあるという事。

 人としては立派だが、一国を守る王として優秀かと言われると、その答えは否だ。


 ハッキリ言って甘すぎる。


 もしマークスが怪しい動きを見せても、陛下は長年騎士として仕えているラースの息子なので、あまり厳しく罰する事は無いだろう。


 マークスが国の為になるのか、害になるのか、陛下に変わって自身の目で見極めてやらねばならない。

 昔からそうして来たし、幸いにもフリスク公にはそれを可能にする"目"がある。


「もしも害になるようであれば、我々が処断するぞ」

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