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あんまり上手く書けてないので、気が向いたら何処かで修正するかも。
「ナダール、起きてるか?」
マークスの家で寛いでいると、扉の向こうからツバキの声が聞こえてきた。
「あぁ、起きてるぞ」
「そうか、他の手駒と顔合わせをするから来い」
「りょーかい」
数日前にマークスに従う事を決め、物騒な任務に駆り出される事を覚悟していたが、暫く待機を言い渡された。
どうやら俺以外にも"手駒"が居るらしく、何かあった時に協力したり、お互い敵だと勘違いし争ったりしないように、一度顔合わせをするそうだ。
人間を手駒呼ばわり、か……。
確かにマークスの異常な言動は、以前からあった。
ヴァンパイア討伐の際に、囮の役目をやらされる可能性は想定していた。俺一人では無力なのだから。
だが、それはあくまで狙われる役としての囮だ。
マークスの言う囮は、敢えて攻撃を受けて、そこを逆に掴んで固定する、というぶっ飛んだ内容だった。
確かに俺が犠牲になるという点にさえ目を瞑れば、最も理に叶っているだろう。
だがそれはもう、囮では無く肉壁なのでは?
そしてそれ以上に恐ろしかったのが、若さだ。
二人とも見た目が若々しく、どんなに見積もっても二十歳は超えてない。
その若さにして、他人を肉壁にすると言う発想が生まれるのが何よりも恐ろしかった。
それでも実力は確かで、修羅場を乗り越えてきたのだろうと思っていた。
それがまさか、こんな化け物だったとは。
今の所、ナダールが知る限りでのマークスの手駒はリンとツバキの二人。
二人共指輪を嵌めているが、マークスに嫌々従っているようには見えない。寧ろ協力的だ。
マークスに毒されたのか、元々そういう人だったのかは分からないが、同じく化け物なのは確かだろう。
これから会う手駒は、果たしてどんな化け物なのやら。
「ナダール、これから会う手駒ってどんな人だと思う?」
人目に付かないように洞窟で待ち合わせをしているらしく、向かう道中にマークスが話を振って来た。
「どんな人……かぁ……」
今から会う人について分かっている情報は、一人だけでは無い事とここ暫く遠出をしていた事だけだ。
情報が少ないのに何故こんな事を問いかけてくる?
何か狙いがあるのか、単なる気まぐれなのか。
分からねぇから素直に答えるしかねぇか。
「複数人で遠出だから……商人とか冒険者とかじゃねぇか?」
「うん、良い線行ってるよ。冒険者だね」
冒険者か。確かにマークス達も冒険者だから、繋がりやすかったりするのだろう。ではその中の誰だ?
低ランクの奴は手駒にせず実験に使っていた。
かと言ってBランクは目立つし、ギルドも管理をして……いや、リンが白銀の乙女と繋がりがあったな。
だが白銀の乙女は大の男嫌いだ。
お互いBランクのチームで意識はしていたが、俺達「緋色の剣」が全員男なせいか敵視されていた。
そんな白銀の乙女が、男であるマークスの手駒に成り下がる訳が無い。
少し前にリンとの関わりが減り、代わりに一人新しく入ったと耳にした。
恐らくリンを通して説得しようとしたが、取り付く島も無く断念したと言った所か。
Bランクを狙っていて断念したとなると、代わりを探すはず。Cランクのチームを二、三個程か?
リンは相当強いと噂されていたので、それなりに勧誘もされているだろう。それを逆に利用した可能性はある。
横目でマークスをチラリと見れば、考え込む俺を笑顔で見守っている。
「Cランクのチームを二、三個程。どうだ?」
「へぇ、もう着くし正解は見てからのお楽しみって事で」
自信はそれなりにあったのだが、答えてもマークス表情は揺らがずに受け流された。
相変わらず考えてる事が分からねぇ主人様だ。
「ナダール、誰か分かる?」
「白銀の乙女……? いや、そんなまさか……」
洞窟に行けば、白銀の乙女らしき女性が七人居る。
だが、全員がマークスが来た瞬間に土下座をして服従の意を示している。
あの誇り高き白銀の乙女は何処に行ったんだ……。
「白銀の乙女はね、僕に忠誠を誓っているんだ」
そう言うとマークスが、平伏する一人の女性の美しい髪を土足で踏みつけて、くしゃくしゃにする。
俺の知る白銀の乙女ならば、そんな事をされれば死の物狂いで殺しに来るだろう。
「その通りです、マークス様」
だが踏まれた女性は、抵抗すらせずに肯定の言葉を述べる。その声は僅かに震えている。
これじゃ、まるで奴隷じゃないか。
白銀の乙女は確かに俺らを敵視していた。
だがそれはあくまで俺達が全員男だからであって、他のチームも同様だった。
だからそこまで気にならなかった。
寧ろ女性だけでよくここまで来れたなと、尊敬していた。
そんな白銀の乙女が男に謙る姿など見たくなかった。
「顔を上げていいよ」
そう言うと一斉に顔を上げ、笑顔を向けてくるが、強ばっていて無理して作っている笑顔だと分かる。
何をしたんだ? そう聞きたくなるが、マークスの事だから碌でも無い返答が返ってくるだろう。
何とか心に押し留める。
「この人は『緋色の剣』のナダール、君達と同様に僕の手駒になったから、何かあったら協力するように」
視線がこちらに集まるが、目に力が無い。
辞めろ、仲間をあの世に置いてマークスの手駒に成り下がった俺を、そんな目で見ないでくれ。
「ナダールも、これからは仲間だから仲良くしようね?」
「あ、あぁ、分かった……」
自分の心にモヤモヤとしたものが鬱積して行き、マークスにそう返すことしか出来なかった。
――――――――――――――――――――
ナダールと白銀の乙女の顔合わせも済ませたので、ナダールも任務に駆り出そう。
ただナダールは先程の手駒は誰なのかという質問に、かなり良い線まで行っていた。
ナダールは自分の事を馬鹿だと言っているが、学ぶ機会が無く知識が足りないだけで、考える力はそれなりにある。
下手に抜け道を作ると気付かれて逃げられるだろう。
情報が大事なこの世界で、密偵ができるナダールは非常に有用だ。万が一にも逃げないように徹底する。
「ナダール、これを飲め」
変な色をした液体の入った瓶を渡してやると、露骨に嫌そうな表情をする。
それでも命令には逆らえないので、渋々飲み始める。
「飲んだぞ、これは何だ?」
「ツバキお手製の毒でね、一ヶ月以内に解毒しないと死ぬのさ」
「……ちゃんと解毒しに帰ってこいって事か?」
「そういう事。あと一つ言っておくと、研究職の人にどんだけ頑張って貰っても、一ヶ月で解毒剤は作れないからね」
「それはご丁寧にどうも……」
これは嘘だ。そんな都合の良い毒は作っていない。
だが、そんな毒に詳しい訳でもないナダールには分からないだろう。これで万が一指輪が外れても、帰ってくる。
これはリンが考えた策だ。
更にはツバキの考えた策も実行している。
白銀の乙女に会わせたのは顔合わせでもあるが、これから度々接する機会を与えて、仲良くさせる為だ。
同情心が湧けば一人で逃げにくくなるし、あわよくば好きな人が出来てくれると有難い。
ナダールは「緋色の剣」での墓を立てるような言動から察するに情が深い人だ。
想い人を俺の元に置いて逃げ出す事は出来ないだろう。
一時期家族を大事に想っていたツバキだからこそ、思いつけた策だ。有難く使わせて貰おう。
「マークス?」
おっと、話が逸れていた。
「ええと、それじゃあナダールには任務を与えよう。偵察に行って欲しい所があってね――」
「一体お前さんは何を企んで……分かった分かった。黙って従うからリンは剣を抜かないでくれ」
「貴方はご主人様の手駒なのですから、手駒らしく黙って従って下さい」
「リン、そこまでしなくていいよ。まぁそんな訳で、宜しく頼むよ」
リンには厳しい言葉や脅しで、鞭の役割を果たして貰い、僕がそれを宥めつつ褒美を与えて、飴の役割を果たす。
これで僕に対する不満も多少は減るだろう。
憎悪の対象がリンに向かってくれればなぁと。
「はいよ……」
集めにくい情報はナダールに任せて、僕らはそろそろ本格的にスミア王国の情報を集めようか。




