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47 *R15

「じゃあ一番、指輪を嵌めるかい?」


「嵌めます! 嵌めるから許して!」


 三日目の朝、早くも一人折れた。


 一番が怯えたように懇願してくるが、僕ではなく二番に許しを乞いているように見える。


 昨日猿轡を外して放置したので、ずっと呪詛を吐かれていたのだろう。

 明らかに錯乱している。


 だが錯乱していようと、一度契約を結んでしまえばこちらのものだ。

 一番と契約を結び、そのまま二番とも結ぶ。


 もう少し恐怖心を植え付けておきたいが、錯乱している様なので、一度正気に戻してから再び植え付けよう。


 そうだ。敢えてこの二人に、良い食事を出したり外に出したりと厚遇を受けさせてやるか。

 それを見たら他の人達も揺らぐかもしれない。


 ずっと人肉を食わされ続けているのだから、普通の食事でさえも大層魅力的に映るはずだ。



 ツバキお手製の美味しそうな料理を出してやれば、皆の目前なのにも関わらずガツガツと食べ始めた。

 周りに配慮する余裕が無い程に飢えていたのだろう。


「わ、私もお願いします……」


 涙を流しながら嬉しそうに食事する風景を見せつけられ、また一人、また一人と折れていった。


 仲間が折れてしまったのならば、私も折れても責められない。そう思ったりしたのだろうか。

 人間の心とは想像以上に脆いものである。




 さて、四日目にはもう五人折れた訳だが、最後の一人である六番が中々折れる気配が無い。

 手足を切り落とされる痛みに順化してしまったのか余り反応しなくなったし、趣向を変える必要があるな。


 洞窟の外の森で考え込む僕に、リンと指輪を嵌めた五人が付き従っている。


 五人は食事を摂らせ日光を浴びさせて正気に戻してみたが、正気の状態でも、恨みよりも恐怖の感情の方が勝っているらしい。

 今もこうして後ろで怯えたように僕の様子を伺っており、変に逆らう様子は見受けられない。


 ただそのうち恐怖を忘れて、必死に逆らって来そうなんだよな。

 指輪で制御は出来るはずだが、万が一の事もある。


 後ろを振り向けば、ビクッと反応してくる。

 だがそれっきりだ、やはり恐怖心が弱い。

 六番も中々折れないし、そうだな……。


「じゃあ皆、六番が中々契約してくれないから、皆で六番に"説得"をしようか!」


「せっ……とく?」


「うん、僕がやったような事を君達の手でやるんだ。色々制限を掛けるけど、頑張ってね?」



――――――――――――――――――――



「やめて! やめてよ!」


 男の言われるがままに恐る恐る外へ出て行った五人が、外から戻ってきたかと思えば、突然リンのような無表情になって私に暴行を加え始めた。


 静止を求めても、助けを求めても、止まることなく暴行を加え続ける。


 特に顔を狙われ、鼻や唇から血が止まらない。



 気が付けば手には短剣が持たれており、切られた。

 仲間だった人達に。


 手足、鼻、耳、指……あらゆる所を切られ、時々切り取られた部位をそのまま口に押し込まれる。


 何回も吐き、失禁もした。

 地面には血と尿と嘔吐物が混ざりあった、異臭を放つ水たまりが出来ている。


「やめ、てっ、ぐふっ、ぶほっ」


 口を開こうとすれば即座に顔を殴られ、喋る事すら許してくれない。

 仲間達が氷のような冷たい目で私を見てくる。

 君達もあの男に、狂わされてしまったの……?




 攻撃が止まった。

 だがもう何も考えれない、考えたくもない。

 男に何かされるならまだしも、長年命を預けて来た仲間だった人達にこんな酷い仕打ちをされるなどあんまりだ。


 身体の痛覚どころか、感覚すら残っていない。

 瞼を閉じる力も無く、視線は宙をぼんやりと漂う。


 視線の先に一人の男が映った。


「そろそろ従う気になった?」


「…………」


「流石にもう少し医療魔法を掛けとくか」


 身体の痛みが僅かに引いて、口が動かせるようになる。


「従う気になった? 返事しろよ」


「し、したが……?」


 早く答えろよ、そう言って身体を短剣で突き刺して来て、意識が朦朧としていた私に刺激を与える。

 あまりの痛みにハッキリと目が覚める。


「しっ、したがぃ! 従います!」


「本当に?」


「本当です! 従うので許してください!」


 仲間からの攻撃は、身体以上に心が痛かった。

 私の心はもう耐えられない。

 これ以上やられると、心が壊れてしまう。


 男の声を聴き逃して機嫌を損ねないように、必死に耳を傾ける。

 どうか、どうか、許してください。


「ふぅん……。もう少し続けようか、やれ」


 耳に残酷な言葉が入り、再び横から殴られ脳が揺れる。



 あぁ、私はもう終わりだ。


 この男に、いや悪魔に逆らうべきでは無かったのだ。

 耐えられると思っていた私が馬鹿だった。


 自分の最期を悟り、深い後悔と絶望に襲われて、私は自ら意識を深い闇に落とした。

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