43 *R15
R15は弱め
冒険者になって二年以上が経っただろうか、もう僕も十七歳になってしまった。
素質のお陰で病で早死することは無いとは思うが、この世界の平民の平均寿命は孤児を抜いても六十辺りとかなり低い。
せめてエルフの長寿の秘訣だけでも手にしたい。長生き出来れば、研究の時間にも余裕が持てるようになる。
ただエルフを確保する手段がない。デイン帝国にはあるかもしれないが、国の性質的になるべく関わりたくはない。
もしも僕の持つ技術を悟られたら、国の為に利用させられるだろう。
ただあれから二年間研究を進めたり、リンと色々な魔物を倒したりしたお陰で、かなり進捗はあった。
研究面に関しては、やはりツバキが有能だ。
要領が良く手先が器用なので、研究がかなりスムーズに進むようになった。
以前挙げた二つの研究に関しては、ほぼ完了したと言って良いだろう。
まずは脳改造。
半日手術に時間を要するが、感情や知能を残しつつも命令に従わせることが出来るようになった。
目覚めて最初に見た人を主人として認識し、忠誠心を植え付ける、と言ったものだ。
生まれたての動物が、初めに見た物を親として認識するようなものだろう。
これは非常に使える、二年費やした甲斐が有る程に。
が、デメリットとして素質が発動しなくなった。
研究者の出した本には、『当人の抱いた強い感情に関連した素質になる』という感情との関連性が示唆されていたので、感情を弄ると無くなるのかもしれない。
何とか素質を残そうと試行錯誤したが、素質自体が不可解な現状ではどうしようも無く断念した。
よくよく考えると、この世界にはまだ分かってないことが多いんだよね……。
なので素質を残しつつ手駒にしたいなら、上手く"説得"して指輪で契約を結ぶしかない。
脳改造は戦力よりも、単純な労働力の確保に向いていそうだ。
そして一度、誰かに脳改造を施して、手駒を試作してみる事にした。
なんと昨日、リンがBランクの冒険者を男女二人確保するという素晴らしい成果を上げてくれた。
目の前には気を失った男女が横たわっている。
あれから洞窟に何者か侵入する可能性を少しでも減らす為、周りには罠を張り巡らせた。
リンはそれを上手く利用して捕らえたらしい。
頭が回るねぇ。
そしてリン曰く、男の方は情報をペラペラと喋る馬鹿だそうだ。
脳改造にはもう一つのデメリットがあり、忠誠心が植え付けられるだけで賢くなる訳では無いのだ。
余りに馬鹿だと変な考えをして暴走する可能性がある。
行動力のある無能ほど厄介なものは無いのだ。
脳改造を施すのは女だけでいいかな。
男はこの後の実験に使わせてもらおう。
「よし、暫くしたらこの女は目覚めるが、上手く行かずに敵対する可能性もある。リンは横で護衛、ツバキは洞窟の奥に退避だ」
「あぁ、分かった」
念には念を入れておく。
ツバキは了承して、素早く奥へと退散していった。
「うーん……」
しばらくして、ようやく女が起きた。
起き上がってこちらを見る。
これで僕を主人として認識したはず。
「やぁ、自分の名前は言えるかい? どういう状況か分かるかい?」
「私は……エルナ。そこの忌み子に不意打ちをされて……」
不意打ちをされた記憶は残っている。
が、敵対し襲ってくる気配はない。
「えっと、貴方は……」
「僕の名前はマークスだよ」
「マークス、マークス、マークス……」
エルナは、僕の名前を頭に刻みつけるかのように何度も小さく連呼する。
リンが横から剣を構えつつ、エルナに声を掛ける。
「何か別のことを言ってみなさい」
そう言われたエルナは慌てて、何とか言葉を捻り出そうとする。
「えっと、えっと……マークスさんの言う事は、なんでも聞きます……?」
「うんうん、疑問形にしないで自信を持っていいよ。君の役目は僕の指示に従うことだ」
「なるほど……分かりました」
「そこの忌み子に不意打ちされたことは恨んでる?」
「いえ、特にこれといった感情は無いですね」
うーん、これは大体成功かな。
最初は向こうも困惑していたが、徐々に口調やトーンが落ち着いてきた。
ちゃんと記憶や人格は残っているので、何事も無かったかのように振る舞う事も可能だろう。
今の所特に問題は見られない。
次に忠誠心の強さを調べよう。
「エルナ、隣で寝ている男が誰か分かる?」
「オスカーです。コレと二人でチームを組んでいます」
「オスカーの事をどんな風に思ってる?」
「昔から好きだった人。冒険者の仲間だから告白はしていないけど、引退したらするつもりだった」
冒険者の仲間はお互いに命を預ける関係なので、男女間で恋愛感情が芽生えるのはそう変な事では無い。
だがその分面倒事やトラブルの元にもなりやすいと聞く。告白しないのはその為だろう。
まぁ付き合ってなくとも、恋愛感情を抱いてるなら十分だ。
「じゃあエルナ、オスカーを殺してみようか」
「えっ、はい……」
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「それで? 抵抗や拒絶も無く普通に殺せたの?」
「そうだね、かなり忠誠心は強そうだ」
「へぇ、想い人を殺せる程とは。素晴らしい研究だよこれは、素質が消えるのが面倒だけど」
オスカーの死体や手術の後片付けをしているリンとエルナを眺めながら、ツバキと事のあらましを振り返っている。
エルナはオスカーを躊躇無く殺せていた。それだけ僕に対する忠誠心が強く根付いているのだろう。
「私にも脳改造を施して良いんだぞ?」
ツバキが自身の頭を指で叩く。
そう言ってくれるのは嬉しいが、自ら志願する地点で忠誠心は十分にあるからそこまで効果は無さそうだ。
「ツバキはわざわざ素質を無くす必要はないでしょ。器用なのが素質のお陰だと、無くなった時に困る」
「それもそうか、素質なのか特技なのか分からないのは厄介だな」
まぁ何はともあれ、手駒の試作は成功だ。
念の為エルナは人目に付かないように洞窟に籠らせて、変な所が無いかじっくり調べておこう。




