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業の軌跡 〜悪魔は不老不死を渇望する〜 (未完結)  作者: 橘 涼
〜士官学校編〜
30/106

29 *R15

 マークス達に怪しげな研究者に話しかけられた事、その内容を伝えたら、一回お話してみると言っていた。


 こいつがレナート先生の元を離れるわけがない、そして非効率、無駄を嫌う。

 だとすれば、わざわざ話す理由は無いはずだ。


 周りに人が居ないし、こいつの事だから絶対良からぬ事を企んでるぞ。

 と思って訝しんで見ていれば、いきなりリンが背後から研究者を襲って気絶させた。


「なっ!?」


「おっとツバキ、静かにしろ。着いてきて」


 そう言われると、指輪せいか一言も喋れなくなる。

 何を考えているんだ、怪しかったがいくらなんでも殴って気絶はやり過ぎだろう。


 そのまま研究者を抱えながら、村には行かず森へ入り、奥深くへと進んでいく。

 不穏な空気だ。


 しばらく黙って着いていくと、洞窟が見えてきた。


「いやぁここも懐かしいね。リン、周りは大丈夫かい?」


「はい、ずっと確認しておりますが周りに人はいません」


 そのまま洞窟へと入っていく。


「うーん、誰か入ったような痕跡は無いなぁ、こんな所まで来るような物好きはいなかったか。あ、もうツバキは喋っていいよ」


「……なんのつもりだ」


「あの研究者について色々教えてくれただろう? それを功績という事で、目的とか諸々を教えようと思ってね」


 何故だろう、功績を認められ、知りたかったことを教えてくれるはずなのに、全然嬉しくない。

 寧ろ知ってしまっては引き返せないような、不吉な予感が目の前の男から漂っている。


 本当に諸々を教えるだけならば、研究者を気絶させる必要は無い。何か裏がある。

 黙ってマークスを睨みつけるが、いつもの貼り付けたような笑みで受け流される。


「……だったら何故その研究者を気絶させた」


「僕らは学校に来る前から二人で色々研究していてね、この人を使って研究内容を教えようかなって」


「人を使って?」




「お前……お前……ぐっ」


 胃から何かが込み上げてきそうになる。


 どうやらマークスの目的は不老不死になる事のようだ。


 とは言えまだ子供なので、一先ず死なないように医療魔法の練習をしたり、戦闘技術を身につけたり、知識を付ける為に様々な研究をしていたらしい。


 目的は良い、問題はその研究の内容だ。


 こいつは当然のように人間を殺している、それも奴隷ではなく同じ村の村人を、十二歳にして。


 狩りを教えてくれた師匠も殺した?

 魔物の核を人間に食わせてみる?

 殺した罪は魔物に擦り付けた?

 

 どう生きていたらそんな非人道的な事が出来るんだ。

 誰だって十二の子供が師匠を殺すだなんて思わないだろう。


 今も淡々と薬の調合について話しているが、何一つ頭に入ってこない。


「おいおい、説明してる途中に吐いたりしないでよ」


 口を押さえる私を見て、呆れたような素振りを見せる。

 生物学部に入っていなかったら絶対に吐いていた。



 私はこいつを見誤っていた。


 こいつは倫理観、価値観、道徳などを理解している。

 だからこそ普通の人を演じれるし、共感も出来る。


 それはつまり、人間が苦しむ事も分かっているはずだ。

 それを理解し共感した上で研究し、殺している。


 レナート先生のような好奇心に突き動かされているだけの人間とは比べ物にならない。化け物だ。


 こいつ、死にたくないなんて言っているが、実は悪魔で死なないんじゃなかろうか。


 私はこんな奴の奴隷になってしまったのか? あの貴族の方が全然マシだ。

 この指輪の魔法を解除できる方法は無いのか?


「――でまぁ要は、ツバキは手先が器用だし、手術とかの協力をして欲しいなって」


 ふざけるな、誰がお前なんかに協力するか。

 誰かこいつを何とかしてくれ。

 指輪があるから命令すれば良いものを、わざわざそんな事を聞くだなんて私を怒らせてるのか?


「ツバキは賢いから、なんでこのタイミングで打ち明けたか分かってくれるだろう?」


 タイミング?

 こんな事を打ち明けるのにタイミングなど……


 いや待て? 嘘だろ?


 ツバキの賢い頭に一つの嫌な考えが浮かび、怒りで燃えたぎっていた心が急速に冷めていく。

 家族と食べた料理だったモノが、口から吐き出される。


「家族を……人質?」


「流石はツバキ、よく分かってるじゃないか。協力的になってくれないと……ね?」


 顔はいつものように微笑んでいるが、いつもの貼り付けたような笑みではなく、邪悪な笑みに変わっている。


 私は馬鹿だ。

 こいつの目的や本性を知らずに、迂闊に親に紹介してしまった。貴族とのトラブルのせいで、特に妹が弱みだとも知られている。顔も家の場所もしっかり覚えただろう。


 何とか引越し……指輪で場所言えと命令されて終わりだ。

 何とか逃れる術を探るが、思い当たらない。

 無理だ、この悪魔から逃れられる未来が見えない。


 家族を守るためにはどうしたら良い。

 こいつは良くも悪くも、行動が一貫している。


 目的の為に動く人で、非効率を嫌う人だ。

 私が変な事をしなければ、わざわざ家族に目が行くことは無いはず。


 ……だかもし逆らったりなどしたら?


 脳裏に、マークスに実験台にされ、泣き喚く私たち家族の姿が浮かび上がる。


 きっとマークスは泣きも笑いもしない。淡々と容赦無く人体を、不老不死の為と言って弄るのだろう。


 家族だけでなく私だって同じだ。

 彼は私に価値を見いだしているから契約したのだ。不要になれば、貴族のように抹消されるのだろう。

 見逃してくれるはずがない。

 そんな最期は嫌だ。


「マ、マークスさんの指示に従います。身体もご自由にお使い下さい。どうか家族……せめて妹だけは……」


 プライドなど微塵も無い、地面に這いつくばって懇願する。

 この悪魔の従順なペットになるしか無い。


「うんうん、分かってくれて嬉しいよ。ツバキはお利口さんだね」


「あ、ありがとうございます」


 とにかく、この男に従っていればいいんだ。


「とりあえず手始めに、そこの研究者を殺そうか」


「え」


 思わず顔を上げる。

 マークスは変わらず邪悪な笑みを浮かべながらも、私を試しているかのような冷たい視線を向ける。

 私を人間だと見なしていない、そんな視線だ。


 横を見れば、身体中が傷だらけになり、核を食わされ薬を飲まされ、意識が朦朧としている研究者が居る。

 数時間前は平然と話していたのに、悪魔に好き勝手に弄られ、今ではもう廃人寸前だ。


 どこから出てきたのか、短剣が足元に転がってくる。

 それを見ただけで、目が眩んでくる。


 私は人殺しになるの?

 殺さなければ、私も不要と見なされてこうなってしまうのだろうか?


 初めはただ貴族から家族を守ろうとしただけだ。

 なのに、どうしてこんな事になっているの?

 家族を守ろうとしたのが間違いだったの?


 何も分からない。

 どこで私の人生は狂ってしまったんだ……






「グエッ」


 研究者の呻き声が聞こえる。

 不思議な事に、刺す時に躊躇は無かった。

 特にこれといった情も湧かず、涙も流れない。


 家族の事も頭に無い。

 私が生きる為に殺す、それだけだ。


 私が元々壊れていたのか、あの貴族に壊されたのか、マークスに壊されたのかは分からない。


 ただ、心臓を突き破った感触が手に残り、私の中で何かが壊れる音が聞こえた。

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