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業の軌跡 〜悪魔は不老不死を渇望する〜 (未完結)  作者: 橘 涼
〜士官学校編〜
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 ツバキはごく普通の女の子だった。

 家族にも愛され、すくすくと育って行った。


 彼女は物語が好きだった。

 本に出てくるような、お姫様に憧れていた。



 ある日いつものように本を読みに家族で図書館に向かうと、同い歳くらいだろうか、ある子供の貴族に見初められた。


 一般的に平民が貴族に見初められるのは良い事とされている。貴族のお屋敷でメイドとして働けるようになるのだ。

 貴族も本番まで手を出せないとはいえ、気に入った女性を傍に置いておきたいのは性なのだ。


 屋敷暮らしなので他の人と結婚などは出来ないが、給金も高く、御屋敷での上等な生活を送ることが保証される。


 その貴族はツバキを屋敷で働くよう勧誘し、両親も少し寂しそうにしていたが優しく見送ってくれた。


 ツバキも恋愛小説の登場人物になった気分で、浮かれていた。

 貴族に見初められるなんて、もしかしたら許されない恋が始まったりするのだろうか……と。



 だが現実は違った。

 貴族の話題に疎いツバキは知らなかったが、その貴族は貴族社会の中でも問題児として有名な者だった。


 ツバキは合意も無しに胸や臀をまさぐられ、抵抗をすればすぐに逆上し、暴行を受ける。

 まだ若いのにも関わらず、娼婦のような扱いを受けた。

 それが許されてしまうのが貴族なのだ。平民のツバキにはどうしようも出来ない。


 彼女の本で抱いた理想は綺麗に打ち砕かれた。

 他に似たような被害者が何人も居て、共感出来る人が居たのが救いだろう。


 十三歳になる時、その貴族にツバキが賢いのは知らされていたので、一緒に学校に行けと言われた。

 落ちたら家族がどうなっても知らんぞ、という脅し付きで。


 ツバキには可愛い妹がいた。

 もしその事が貴族に知られたら、妹もろくな目に合わないだろう。家族はツバキの扱いを知らないので、喜んで妹も送り届けてしまうだろう。


 家族に目を付けられる訳にはいかない。

 必死に勉強し、なんとか受かることができた。


 学校に行ってからは、なるべく貴族に会わないようにした。生物学部に入ったものその一環だ。


 醜聞を気にしてか貴族も少し大人しくなった。

 他に良い玩具を見つけたのが実だが。


 学校や屋敷で呼び出されたら、大人しく身体を差し出せば良い。

 この貴族も成長するにつれてまともな人になるだろう、それまで耐え凌げば良い。妹を守ることが出来る。



「お前、可愛い妹が居るらしいじゃないか」


「え」


 バレた。どこかで耳にしたのだろうか。


「今は学校で忙しいが、卒業したら呼び出すのも良いかもしれんな。姉妹で貴族に仕えるんだ、嬉しいだろ」


 この人はどんな扱いをしても、貴族に仕えるのならば喜んでいると思い込んでいる。


 それから彼は妹を脅すことで、呆然としたり慌てたりする私の反応を楽しむようになった。


 妹に手出しさせるわけには……初めて全力で反抗しようと思ったが、その報復で妹が酷い扱いを受けてしまうかもしれない。


 どうすれば良いの……




「ツバキはさ、既に妹にも手を出してるとは思わない訳?」


「えっ……」


 突然よく話していたリンの前でも脅され、動揺して思わずマークスにも打ち明けてしまった。

 この人は平気な顔で人体を弄るような狂った者だと言うのに。


「あの貴族なら、わざわざ脅すだけ脅して手を出さないなんて事ないと思うけど」


「えっ……そんなこと……」


 狂人なのに至極最もなことを言う。

 あの貴族は最近大人しくなっている。

 それは醜聞を気にしたり性格が丸くなったからではなく、学校でない所で発散しているから?


 まさか妹が……


「ねぇツバキ、取引をしないかい?」


 嫌な想像をしてしまい、泣きそうな時に狂人がニコニコと貼り付けたような笑みを浮かべながら話しかけて来る。


 取引とはなんだろうか。

 こいつの事だから、あの貴族に引けを取らない位のろくでもない事のように思える。

 それでも妹が守れるのなら……


 私は軽率に頷いてしまった。



――――――――――――――――――――



 ぐぉぉ、身体が痛え、苦しい。

 あの女に毒を食わされたのか? いや、毒は入って居なかった。それに今は夜だ、あの女の差し入れを食ってからは時間は経っている。


 とにかく痛え。従者も驚いた顔をして右往左往している。役に立たねえな。


「家! とっとと家に帰らせろ! 医者がいる!」


 俺は意識を失った。




 ここはどこだろうか……ああそうか、俺は苦しくて倒れたんだった。目を開きたいが何だが目がすごく痒い。


「目が覚めたか? 全く、急に倒れたと聞いて慌てて医者に診てもらったのだぞ、迷惑を掛け――」

「おい! お前らは一回部屋から出ろ!」


「「はっ、はい!」」


 父上の声が途切れ、急に慌てて指示を出し始めた。

 バタバタと慌ててどこかへ行く足音が聞こえる。

 何があったんだ?


「お前の行動は貴族として目に余るものだった。それでも儂は改心するのを待ち続けていたが、まさか女神様から見捨てられてしまうとは……」


 何を言っているんだ? 女神から捨てられた? 忌み子のことを言っているのか?


「お前がこうなってしまった責任は育てた儂にもある。儂が責任を持ってお前を殺し、女神様に救済してもらおう。跡継ぎは優秀な弟がいるから問題は無い」


 は? 勝手に何を抜かしてやがる。

 なんで俺が死ぬことになってるんだ。


 ちくしょう、意味わかんねえ、俺は貴族なんだぞ……



 その日、一人の貴族の存在が抹消された。

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