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「いやぁ、マークスさんは天才ですよ、もうここまでのレベルの手術が出来るようになるとは。本来はここまで来るのに一年以上はかかるんですけどね」
あれから半年ほど経過した。
毎日身体は鍛え直していき、薬学や医療学への造詣も深めている。
中でも力を入れていた生物学はかなりのペースで深まっており、臓器の傷を縫う程度の手術が出来るようになった。
先生からもお褒めの言葉を頂いた。
医療魔法は傷を治したり出来るものの、臓器などの体内に掛けようとすると、治せるには治せるが、後遺症が残ってしまうことが多い。
完璧に治すには手術が必要だと、なるほどなるほど。
「見るのと実際にやるのとでは違いますからね、大体の人は手が震えて上手くいかないんですよ。でもマークスさんにはそういうのもない、流石ですね!」
「え、えぇ、ありがとうございます」
それ褒めてるの?
まぁ順調には進んでいる。
これを薬学、医療学と平行して三年間やればどんな傷でも治せるようになる気がする。素質と合わさって一撃で致命傷を負わない限りは少なくとも死ぬことは無くなるだろう。
そしてツバキは、相変わらず冷淡な態度を取ってくるが、リンとはそれなりに親しくなったように思える。
リンは僕以外に対してはこれと言った感情すら殆ど抱かないから、コミュニケーションに少し難がある事が分かった。偶に会話が噛み合っていない。
まぁそうなる事は知っていたので、何とかツバキと話してコミュニケーション能力を身につけて頂きたい。
ただツバキは運動はてんてダメだか、かなり賢いし器用だ。入学試験では筆記は相当高くて受かったのだろう。
レナート先生との研究も乗り気では無いが、知識はしっかりと吸収している。手術の腕も確かだ。
うーむ、出来れば手駒にしたいが、付け入る隙が見当たらない。リンに頑張って貰うしかないかなぁ。
指輪の契約の要素を排除出来ればいいんだが、研究を見られると不味い。
寮暮しの現状誰にも探られないような所がない。
それに今は勉強や運動で一杯一杯なのもある。
ツバキは保留で、まずあの貴族を何とかしよう。
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寮の食堂に僕とリン、ツバキが揃っている。
最近ツバキからリンを食事に誘うようになったのだ。
最初は何で僕も着いてくるのかと厄介払いされそうになったが、リンが頑張って説得してくれた。
ツバキも渋々了承してくれて、今では三人で食事をするのが日常風景になっている。
だが、今日はいつもの食事とは一味違った。
食事していた所に、あの問題児貴族がやって来た。
また殴られるのか、食堂まで来るとはなぁ。
「おいお前! 生物学部に入っているそうじゃないか! どういう事だ!」
「あ……えっと……その……」
また僕を殴りに来たかと思いきや、ツバキに話しかけている。いつもは冷淡な態度のツバキが、明らかに狼狽している。こんなツバキは初めて見た。
知り合いなのか?
突然貴族が大きな声で捲し立てるものだから、当然周りからも何だ何だと興味の視線が集まる。
居心地が悪くなったのか、チッと僕ら以外には気づかれないように小さな舌打ちをする。
貴族がツバキの耳元で何かを囁く。おいおい、ツバキのやつ何言われてんだ、冷や汗かいてるぞ。
怯えるツバキを見て、貴族は満足そうに立ち去っていく。
うーんなんだこれは。
急展開過ぎて着いて行けんぞ。
「あれは知り合いなのですか?」
アイコンタクトを送り、リンが話しかける。
ツバキは俯いて黙りだ。
うーん、あの貴族に目を付けられたら、ろくな事にならないのは分かっている。ツバキも同様か。
しばらく二人でツバキを見つめていると、俯きながらボソボソと話し出した。
「脅されているの――」
どうやらあれはツバキの住む村の領主の息子らしく、ツバキの見た目が彼に気に入られてしまった。
メイドという名目で家族と引き離され、本番は無いものの性欲や暴力の捌け口として使われた。
以前貴族が平民と過ちを犯す事はタブーと言ったが、それは逆に、本番以外なら何をやっても大丈夫ということになる。
階級社会のこの世界じゃ、貴族はそれ程の事をしても許されてしまうのだろうなぁ。中々闇である。
最近妹の存在がバレて、面白半分に脅しのネタにされているのだとか。
なるほどねぇ、ツバキもあの貴族の被害者の一人って訳か。十三歳で家族を人質に犯されるのは辛いだろうなぁ。
打ち明けたツバキは、今にも泣きそうだ。
うーん、これはなにかに使えそうだ。
ツバキを慰めるリンを横目に頭を回す。
やはりツバキが可哀想だから、助けてやらないとな。
僕なりのやり方で。
「ツバキはさ、あの貴族が既に妹にも手を出してるとは思わない訳?」
「えっ……」
「あの貴族なら、わざわざ脅すだけ脅して手を出さないなんて事ないと思うけど」
「えっ……そんなこと……」
こいつは家族が大事に想っていそうだから、いい感じに恐怖を煽ってやろう。
ツバキの頭の中に嫌な考えが浮かんだのか、泣いてしまった。おお可哀想に。
きっとツバキは動揺しているのだろう、僕らに喋ったのがその証拠だ。
丁度僕もあの貴族が邪魔だったんだよねぇ。
「ねぇツバキ、取引をしないかい?」




