21
とりあえず生物学部に入ることは決まったが、学部は最大で三つ入れる。ある程度授業が免除されているので、三つまで入れても時間に余裕はあるだろう。
色々な所を回っているが、生物学部ほど魅力的な所がない。
強いて挙げるなら薬学部や医療学部、魔法学部だろうか。
そういえば生物学部に入ると決めた時に、剣学部の先生に何度も考え直せと言われたな。
剣学部は強さには直結するのだが、今後常に剣を持ち歩くとは限らないし、不老不死には繋がらない。微妙だ。
また人が多いと、その分一人一人に掛ける時間は減る。
人数が少なめの学部の方が良いだろう。
話を戻すが、どの学部も他の生徒が入っているのでそのレベルに合わせた授業や研究になりそうなんだよね……
専攻と言っても所詮は授業の一環だ。
敢えて時間を余らせてその時間に鍛錬をするという手もある。迷ったな、リンに聞いてみよう。
「入った方がよろしいのではないでしょうか? 今は低水準ですが、専攻しているので三年生になる頃にはかなり高水準になっていると思われます」
あぁ、馬鹿だ俺。
三年間やるんだから今のレベルで判断しちゃいけないな。どうしても固定観念に囚われてしまう時があるので、そんな時に第三者の存在は非常に有難い。
そうか、ならばどこに入ろうか。リンの意見を考慮すると、やはり情報を仕入れにくい薬学と医療学だろうか。
魔法は最悪、片っ端から本や論文を漁れば何とかなる。
薬学なんかはそもそも興味を持つ人が居ないから、論文が図書館には置かれていない事がある。
よくよく考えるとリンは僕に聞かれない限り、あまり自分の意見を言うことがない。基本褒めるだけだ。
僕に捨てられるのを恐れて、不快にさせたり勝手に行動したりする事がないようにしているのだろう。
でもかなり賢いし、もっと積極的に考えを言って欲しいな。上手く改善させて行くか。
――――――――――――――――――――
「おい、お前がマークスだな」
「ええと、そうですが……」
いつものように教室で空き時間に本を読んでいたら、なんか偉そうな人に絡まれた。従者も居るし貴族だろう。
特に面識も無いし、問題は起こして居ないはずだ。
「聞いたぞ、生物学部に入るんだってな。あそこは辞めとけ、レナート先生に騙されてるぞ」
心配してる様な言葉使いだが、顔は完全に見下している。中途半端に正義感を抱いてる貴族か、面倒臭いな。
というかレナート先生も全く信頼されてないな。
「いえ、騙されてはいないと思いますよ」
「……正気か?」
話しかけてきた男は顔を顰めている。
「正気ですよ、何をやるかも知っています」
「貴様は首席だろう! 有望な人材をあんな所で腐らせる訳にはいかん! あそこは辞めて俺と剣学部に入れ!」
「お気持ちは有難いですが、遠慮しておきます」
「なんだとぉ!?」
やばい、明らかにキレている。短気すぎるだろ。
いや、この貴族社会では貴族が偉いって意識が根付いているからな、まだ十代前半だしこんなもんかな。
待て、剣以外にも槍、斧、弓など他にも武器はあるのに、何故この男は剣と断定している?
誰かが剣使いだと教えた? 心当たりのある人は……剣学部の先生か。
剣学部の先生がこいつを煽った可能性があるな、となるとどうするのが正解だ。
下手に逆らって手出しすると、相手が貴族だからかなり不味い。それが狙いか? うーむ、大人しく謝り続けるか。
「平民が貴族の誘いを断るのか!」
「はい、申し訳ございません」
そろそろ手が出そうだぞ、頭を下げながらもリンを強く睨んで、手を出すなと目で抑えておく。
守ろうとしていたのだろう、リンは少し身構えていた。
「平民の分際で!」
顔を殴られる、周りの生徒も騒ぎ出してきた。
向こうの従者は黙って見て見ぬ振りをしている。
蹴られ転んだところを踏みつけられる。それなりに痛いが、ナニカに呑まれる事に比べたら大したことは無い。
「なんの騒ぎだ!」
騒ぎを聞きつけた先生がやってきた。
うわ、例の剣学部の先生だ。
貴族は無傷なのに対し、僕はボロボロだ。
言いがかりは出来ないはず。
「先生! こいつが俺の誘いを断って! 頼――」
「あぁ分かった分かった、一回落ち着け。君は一度自分の教室に帰りなさい」
「でも! ……分かりました」
貴族はまだ怒っているのか渋々と去っていく。
先生も怪しいなぁ、とりあえず帰らせてくれたのは助かった。自身の身体に医療魔法を掛ける。
「マークス君、うちの生徒が申し訳ない。お詫びに――」
「いえ、結構です」
「……そうかい」
先生も渋々と傷を治した僕を一瞥して去っていった。
明らかな拒絶だ、これで諦めてもらえばいいんだが。
「……申し訳ございません、ご主人様……」
後ろでリンが小刻みに震えながら謝ってくる。
「いや、大丈夫だよ。相手は貴族だから手を出さないのが正解だ。あと呼び方はマークスさんね」
貴族に殴り蹴りされている間、ずっと後ろから殺意が飛んできていた。貴族にバレるとヒートアップし、リンにも目をつけられる恐れがある。かなりヒヤヒヤした。
殺意がバレなくて良かったが、飛ばしていたのは宜しくない。他人と関わらせないようにしてきた弊害が出てきたな、これは。
殺意を抑える事や感情周りの事を教える必要があるな。
よく見ると強く握りしめた手から血が流れている。
唇にも少し血が着いている、歯を食い縛り過ぎて唇を噛んだか?
……まぁリンなりに頑張ったんだろうな。
「頑張って抑えてくれたんだね、その傷治していいよ」
「本当にありがとうございます」
リンが自分に医療魔法を掛けて傷を治していく。
リンはお利口さんだなぁ、上手く言い聞かせてやれば、殺意や感情周りも上手くコントロール出来るだろう。




