14
「どうすればいいのかしら……」
夜、リビングに一人でマークスの母親――マーシャは机の上で頭を抱えている。
「マークス……」
今でも村を襲った魔物に立ち向かう息子の姿が目に焼き付いている。
立派だった。どこかラースに似た雰囲気を感じさせた。
でもどこか危うくて、目を離したらすぐに居なくなってしまいそうな気がしてならない。
マークスは幼少期からおかしな子ではあった。
他の子供たちは仲良く外で元気に遊んでいるのに、マークスは本を読んだり狩りをしたりと、一人で淡々と何かを学んでいる。
ただ好奇心や行動力は並の子供以上にあった。
忌み子を勝手に買ってきたこともある。今では仲良しになっていて、受け入れているが、その行動力に危機感も覚えた。
彼の好奇心は純粋すぎるように思える。善悪、危険か否かを気にしていない、価値観が歪んでいる。
もしその好奇心が危険なものや非人道的なものに向かってしまったら? 彼は躊躇わずにそのフィールドに足を突っ込んでしまうだろう。
過ちを犯してからでは遅いのだ。マークスには自由な道を歩んで欲しいと思っているが、間違った方向に行かないように見てあげなきゃいけない。
マークスは私の大事な一人息子なのだ。
今までは私やジェイで、監視や制御をしてきた。
だけどジェイが居なくなり、今ではマークスは村の誰よりも強い。
それはつまり、マークスを制御してくれる存在が居なくなってしまったということだ。
夫のラースがいるにはいるが、働いて私たちの生活を支えてくれているため、こちらに留めることは出来ない。
それに彼はどこか楽観的だ。マークスは賢いから問題ないと放任している。
マークスが隠れて何かをやっている予感がしたのでジェイに頼んだけど、荷が重かったのかしら……
まだ死んだと確定した訳では無いが、望み薄だ。マークスとリン、二人がかりであれ程苦戦していたのだ。
マークスのことを探っている間に森の奥深くで、強力な魔物を呼び込んでしまったのだろうか。
――何かおかしくないかしら?
魔物はやけに村の近くに居た。ジェイがそこまで逃げて捕まったのだとしたら、もっと音が出てもおかしくない。
ジェイは長年狩人をやっているベテランだ、村の近くに危険な魔物が居たのなら、何かしらの手段で村に知らせるような気がする。
たまたま村人に気づいてこちらに来たの?
マークスとリンは何も知らない様子で、普通に帰って来ていた。たまたま遭遇しなかったの?
マークス、あなたが何かをしたの?
いや、私の息子なのよ。疑うのは良くないのは分かっている。マークスはそんなことする人じゃない。
そう自分に言い聞かせるが、どうしても何かが心の奥底で引っかかってしまう。
マークスは十二歳で魔法具を作れる程のの頭脳の持ち主だ。だけど既にその頭脳を悪いことに使っていたら? 既に過ちを犯しているとしたら?
悪いことばかり想像してしまう。
でもマークスは村のために戦ってくれたという事実もある。魔法具だって、身を守る為にくれたものだ。
何が正解なのか分からない。
こっそりマークスの寝顔を見に行く。やはり疲れたのかぐっすり眠っている。こうして見ると普通の子供だ。
もしジェイに何かした夜にここまでぐっすり眠れるのならば、それはもう化け物だ。
そうね、マークスがそんな事する訳ないじゃない……
でもマークスは将来どうなるのだろうか。
言ってる事とやっている事がズレてるように思える。
「マークス……あなたは何を考えているの……」
――――――――――――――――――――
さて、あれから拠点に戻ったが、特に問題は無かった。
リンの索敵がここまで優秀だとは思ってもいなかった。
母さんが冒険者を雇って調べさせても、気づけるので先手が取れる。向こうが気づかなければ良し、気づいたら殺す、殺せないほど強かったら逃げる。それでいいだろう。
さて、どさくさに紛れて捕まえた二人をどうしようか。
「安心してください、大人しくしてくれれば簡単な食事や水は毎日用意してあげますよ」
「んー! んー!」
「村では死んだことになってますから叫んでも意味ないですよ」
「んー! んー!」
村人がおどろおどろしい物を見るような目を向けながら、拘束から抜け出そうとジタバタする。
話が通じないなぁ。猿轡を着けてるのが不満なのか?
洞窟内だから叫ばれても声は外までは届かないが、響いてうるさい。飢えてきたら大人しくなるか。
まぁ誘拐されたら誰だって怖いもんな。
現状では人間は貴重なのだ。簡単に殺すようなことをしては勿体ない。なるべく多くのデータを集めたい。
ジェイは解剖して、身体の中身が元の世界との差異が無いか調べることにしよう。
仮にもお世話になった身だ、有効活用してあげなければ。
よーし、研究するぞ。




