12 *R15
俺は今、マーシャさんにお願いされて、朝方からマークスの拠点の周りを探索している。
気配を殺しているのである程度は安全だが、油断は出来ない。魔物に気づかれないよう息を潜めて慎重に行動する。
――どうしてこうなったかね。
それはある日の夜、いつものようにマーシャさんにマークスの様子を伝えに来たら、いつも素敵な笑顔を浮かべているマーシャさんが、珍しく険しい顔をしていた。
「ジェイさん、マークスのことで何か隠してることはない?」
「え?」
やべぇ、俺なんかやらかした?
でも心当たりがないぞ。
「いや……ちゃんと言われた通りに適度に着いて行って、研究の様子を見て、そのまま伝えてるぞ? 当然こっそり行くのもやってる」
マーシャさんが俺の目をじっと見つめてくる。
な、なんか圧を感じるぞ、でも嘘はついてないし後ろめたいこともしてない。目を逸らす訳にはいかねぇ。
………。
「そう……信じるわ。ジェイさん、恐らくマークスがあなたに隠れて何かをやっているわ、こんなのを渡されたんだもの」
なんでぇこれは……指輪か?
「魔法具よ」
「魔法具ぅ!?」
マークスのやつ、なんてもん渡してんだ。かなり作るのが難しいはずだぞ。
そんなものを作ってる様子は見たことがない。
「……買ったんじゃねぇのか?」
「商人に魔法が込められてない普通の指輪を幾つか買ってたのよ」
やべぇ、もしかして俺騙された?
いくら天才のマークスと言えども、魔法具を簡単に作れるとは思えない。い、いや、まだ騙されたとは限らない。
「サプライズプレゼントをしたくてこっそりやってただけじゃねぇか? そんな騙すって言う程のもんではないと思うが……」
「念には念よ、あの子のことだから、隠れて変な事をしてそうじゃない?」
……ごもっともですわ。何も言い返せない。
実際マークスは変人だ。
それでもなんだかんだ二年間一緒に狩りをしてきた仲間だ。マークスのことは信頼してるので、探るようなことするのは気が向かないんだがなぁ……
「お願い、私じゃ行けないの。お金は払うわ」
マーシャさんの声が震えている。
息子を疑うようなことをしているが、心配故の行動なのだろう……子供が居ねぇ俺には分からんが、俺も親父に大事にされてきた。これが親ってもんか。
「金は要らねえよ、俺に任せとけ」
――そうだ、ちゃんと調べなければ
マークスの頭脳や行動力、好奇心は並外れていて、天才だと思わされるが、危うくもある。
気になることのためならなんでもやりそうな、狂気と言い表せばいいのか? どこか頭のネジが外れているような……恐ろしいものを感じさせるときがある。
マークスはまだまだ子供だ、大人である俺らがちゃんと正しい道を示してやらねぇとな。
……おや、この岩っころ怪しくねえか?
上手く隠されているが、岩が不自然に斬られているところがある。どかしてみようか。
「おいおい……」
岩っころをどかしてみれば、怪しげな洞窟がある。
ちゃんと岩が積み上げられていて、意図的に隠していたのが分かる……分かってしまう。
マークスは俺を騙していたのか? ショックだな。
マークスは先程、反対方向へ狩りに出かけていた。今のうちに何をしてるか調べとこうかね。
なんだよこれは。
洞窟の奥まで行くと、そこは地獄絵図だった。
動物や魔物の死骸や死骸だった何か――胸辺りが切り開かれていてピクリとも動かない抜け殻がある。
潰されていない核もあり、禍々しいオーラが全身に突き刺さる。クソっ、あれだけ潰せって言ったのに。
岩で出来た机の上には小型の魔物が入っているケージがある。怪しげな粉も撒かれており、魔物に食わせた痕跡がある。紙にはよく分からん計算も書かれている。
子供の研究なんて可愛いもんじゃねぇ。
やってる事が想像もつかない、したくもない。
あいつは確かに天才かもしれねえ、だが狂ってやがる。
そもそも俺に見せてた研究だってそうだ。魔物をただ殺すのと、切り開いて解剖し、弄るのとでは全然違う。
あんな気味悪いものをわざわざ調べようだなんて、普通は思わない。
皆は魔物を人類の敵として見ている、だがマークスは、魔物もただの実験の対象として見ているのだろう。
おそらくマークスには善悪の判断がねぇ。
こいつの興味が人間に向かったらどうなる……?
人の命を弄ぶ悪魔が生まれてしまう。幸いここに人間らしきものは見当たらない。今ならまだ間に合うはずだ。
すぐに村に帰ってマーシャさんに報告、いや警告をして何とかしてもらわねぇと。
ここに居ることがマークスにバレるとヤバい。ラース、お前の息子は何――
「おや、ジェイさん。そこで何をしているんですか?」
後ろから声が聞こえる。マークスの声だろうか。
だがいつもの子供らしい明るい声とは違い、どこか冷たく感じる。冷や汗が止まらねぇ。
振り返れねぇ、足が動かねぇ。
俺は恐れているのか? 子供であるマークスを。
ケージの中の魔物が反応して、静かな洞窟に金属音だけが鳴り響く。
身体が震える、どうした俺、マークスが話しかけて来てるだけだろう。
「い、いやちょっとね……マークスが心配でな……」
何とか誤魔化さねぇと不味いと、俺の中の本能が警鐘をガンガン鳴らしている。
「そうですか、心配してくれてありがとうございます」
なんとか誤魔化せるか? しかし声は冷たいままだ。
「……?」
胸に違和感を感じる。
下を向き胸元を見れば、何やら尖ったものが胸から顔を出しており、そこから赤い液体が流れ出ている。
遅れて痛みがやってくる、とんでもなく痛い。
「ジェイさん、今までお世話になりました」
後ろからマークスの声が聞こえる。
胸を抑えても、流れ出る液体は止まらない。
徐々に身体に力が入らなくなり、地面に崩れ落ちる。
段々眠くなってきた。
……もう手遅れだったのか。
ラース、マーシャ、お前らは何を生み出したんだ……




