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16話 真実

先生は入口近くに掛けられていたランタンを手にし、マッチで火を灯した。俺たちの周りだけが少し明るくなった。部屋の奥の方はよく見えないけれど、そこら中にビーカー片などが散乱し、机や床には埃が積もっていた。俺たちが教卓の方へ進むたびにホコリが舞い上がり鼻がムズムズした。


部屋全体は暗かった。それは窓という窓に暗幕が取り付けられているからということがわかった。


「校長からこの部屋を好きにしていいって言われてるの。まだほとんど整理できてないんだけれどね」

俺はその言葉に血の気が引いていくのがわかった。

「校長の愛人までやらされてるんですか?!まさか、あのキリッとした壮年のおじさまが?!」

「えっと、、、坊や?」

「オッターだけでなく、そんな」

俺はパニックになっていた。愛人契約などでもしていなければ部屋などもらえるはずがない、そう思い込んでしまった俺の耳には先生の言葉は届いていなかった。

「坊や、話を」

「まさか、校長だけでなく学園長ともそういう契約になってるとか?あぁ、なんてことだ」

俺は大きく頭を抱えた。


「ストップ、リット!」

先生の強めな一言で俺は我に返った。

「え、あ、はい」

「学園長とも校長ともそんな関係じゃないわ。勝手に18禁な展開にしないでちょうだい」

「すみません。あぁ、よかった」

俺は胸を撫で下ろした。

先生はふぅとため息をついたのだった。



俺たちは先生が教卓の近くに用意してくれたボロボロの木椅子に腰掛けた。

椅子は少しでも動くたびにキィと音を立てた。


教卓に置いたランタンの火は静かに俺たちを照らしていた。



向かい合った位置にいる先生は緊張しているようで、少しだけソワソワとしていた。始業式のときよりも緊張しているようにみえた。先生は一度大きく深呼吸すると、徐ろに話し始めた。

「貴方の覚悟次第だけれど、秘密を教えるわ。他言は無用よ。仲良しのフォルカー坊っちゃんにも、そしてメーヴェの人たちにも」

先生の言葉に俺ははっきりと頷いた。

「聞いたら普通の生活には戻れないかもしれない。貴方の人生にも影響があるかもしれないわ」

「それでも構いません。僕は知りたい。あなたは何者なんですか?」

俺はまっすぐに先生を見た。先生もまた俺をじっと見つめていた。


精霊様でなければ、先生は何者なのだろうか。



「わかったわ。お教えしましょう。坊や、目を瞑らずに見て」

そう言うと先生は呼吸を整え左手を高く上げた。そして言葉を発し、指を鳴らした。

『フォイアー』

それはリズニア語ではなくうまく聞き取れなかった。

パチンという小気味いい音が室内に響いた瞬間、部屋の壁の高いところに設置されていたいくつもの蝋燭に一斉に明かりが灯り、部屋全体がぼうっと薄明るくなった。


「そうか、その可能性のほうが現実的でしたね。精霊様よりも」

俺は部屋中の蝋燭のオレンジ色の炎を見渡しながらそう言った。頭の中は思っていたよりもずっと冷静だった。




先生は、魔法が使えるらしい。




魔法は本来であれば魔族のみが使える特殊なもので、空気中に含まれる魔素を魔力に変換して発動させるのだという。

魔族の特徴は金色の瞳をしていることらしい。

俺は魔族はおろか、魔法にすら出会ったことはなかった。いや、それは今や人族であれば普通のことであった。


「引かないの?」

「いや、まぁ、純粋にすごいなって。これが魔法ですか」

俺自身、思っていたよりも冷静であることに驚いていた。初等部の頃の俺ならば確実に逃げ出していたと思う。


「ええ。もっと喚くかと思ってたのに、順応しすぎじゃない?」

「ほら、精霊様だと思ってたくらいですし。心の準備はできてたっていうか、何というか」

俺はそう言いながら後頭部をかいた。先程の黒歴史が頭の中を駆け巡り恥ずかしくなったのだ。

先生はそんな俺の様子に気づいたようでふふっと笑った。

「ごめんなさいね、精霊様じゃなくて。坊やが逃げ出してしまったらどうしようって考えていたけれど杞憂だったわ」

先生は安堵したようだった。先生のそんな顔は久しぶりに見たので俺もほっとした。

「これが、あなたの3つ目の秘密だったんですね。他2つはあの会話からわかってしまったのですが」

「そうね。これよりも1つ目と2つ目が知られてしまったほうが恥ずかしいのだけれどね」

「それはまぁ、そうですね。どれも驚きすぎて何も言えないです」

「坊やは私を脅したりしない?あんなところ見られて恥ずかしいっていうのもあって、少し距離を置いてたの」

先生は少し目をそらせた。暗いからよくわからないけれど、少しだけ頬が赤い気もした。

「ないですね。僕が男色だったりしたらそういう展開もあったのかもしれませんけど。バラされたくなければ俺のものになれ、的なね」

「よかった」

先生はほっと胸をなでおろしていた。

「それにもしもあなたに気があったとしたら、そんな卑怯な方法なんて使いたくないですからね。両者に心がないと行為に意味なんてないですし。あの男と同じレベルだなんて死んでもごめんです」

「案外ロマンチストなのね」

「うるさいですよ。それにもしもの話です。気にしないでください」

俺はニコニコとしている先生から目をそらした。異常に恥ずかしかった。

「ふふ。さて、何から話そうかしら」

坊やはなんとなくわかったわよね?と聞いてきた。


「僕の推測では、あなたはオッターの父に金で買われ、色々されて逃走し、不運にも息子であるオッターに再会してしまったんですよね?」

「坊やが賢くて助かるわ。ざっくり言うとその通りよ。そして、私が親から売られてしまった理由がこの力ね」

「なるほど。そういうわけですか」

先生は淡々と話しているけれど、俺の心はどんどんと重くなっていった。買われたり、売られたりなどという言葉が人相手に使われているのだから。


「貴方は"コンバーター"っていう言葉は知らないわね?」

「ええ。なんですか、それは?」

俺は首を傾げた。

そんな単語は初めて聞いた。


「私のように、人族でありながら魔法が使える者のことをそう呼ぶの」

「ということはあなた以外にもいるってことなんですね?」

その問いに先生はコクリと頷いた。

「とても少ないけれどね。言葉自体はそれに関わった人しか知らないから、坊やみたいな普通の貴族様は聞いたこともないはずね。坊やのお父様くらいになるとわかるかもしれないわ。領地でそういった者が発生する可能性はあるから」

「発生ということは、遺伝とかではなく?」

「遺伝は関係ないらしいわ。なりやすい家系なりにくい家系などは今のところ存在してないらしいの。一族にぽっと現れるのよ。極稀にね。戦争が終わってから発生し始めたなんて言われてるわ」

俺はそんな話を聞いたこともなかった。まさか人族から魔法が使える者が生まれていたなんて。


「そうだったんですね。全然知らなかった。でもなぜ?普通は大きく噂になるようなものなのに」

「昔から秘密裏に処理されるのよ。殺されたり売られたりね。一族から出たなんて知られたら恥晒しもいいところだもの。穢らわしい魔族の生まれ変わりとまで言われてるわ」

「そんな」

そう言っておきながら、俺は過去の自分を振り返った。



そこで俺はとんでもないことを思い出した。


「先生、俺、、ひどいこと言いましたよね?」

「何か言われたかしら?」

先生は首を傾げていた。

「先生にイズール人じゃないですよね?と聞いたとき、魔法は少し不気味だと、、本当にすみませんでした」

俺は思いっきり頭を下げた。

先生は大げさよ、と言いながら笑ったのだった。

「気にしてないわ。当然の反応だもの。むしろ今の坊やに驚いてるわ。順応しすぎよ」

俺はその言葉から精霊様黒歴史を再度思い出し、赤面したのだった。


「少し戻るけれどね、私は両親のことを何も覚えていないの。私の手元に残っていたのは生年月日と名前が刺繍されていた白いハンカチだけ。しかも、名前のところはほつれてしまってわからなかったわ。物心がつくころにはオッターの父のところで生活してた。裏社会にはコンバーターのこどもを物好きな貴族に売りさばく業者がいて、私はそういう奴らに売られたらしい」

「そんなのはひどすぎる。魔法が使えるだけなのに」

「私なんてマシなほうね。殺されなくて済んだ。何だかんだで衣食住は確保してもらえてたしね。何を失ったかはわからないけど」

先生は困ったように笑った。


その瞬間に胸がぎゅうと締め付けられた気がした。


たしかに先生は殺されなかった。

それでも、両親の愛も知らずに虐待され続けた先生を思うと心が痛かった。



「先生」

俺はそう呼ぶことしかできなかった。

目の前にいる人を抱きしめたいという衝動に駆られたけれど、理性でそれを押さえつけた。


視界が何かで滲んだ気がした。


「ご、ごめんなさい、泣かせるつもりで話したわけじゃないの」

先生は目を見開いて俺の顔を覗き込んで言った。こんなにオロオロしてる先生は初めてだった。

俺は先生に言われて初めて泣いていることに気がついた。

慌ててポケットからハンカチを取り出して涙を拭いた。


「す、すみません。気がついたら、涙が、出てきて」

俺は溢れて止まらないそれを必死に拭い続けた。

「坊やは優しいわね。泣き止んでちょうだい」

そう聞こえたと思ったら、ギィという小さな音がして視界が暗くなった。


温もりとラベンダーの香り、ドクドクという心地よい鼓動を感じた。


「せ、先生?」

「ごめんなさい。少しだけこうさせて」

先生の声がいつもより高くて近い位置から聞こえた。その声は少し震えているように感じた。



俺は先生に抱きしめられているらしかった。

先生の胸に自分の頭がすっぽりと埋まっている状態に、恥ずかしさがこみ上げてきた。



「先生、その、あの、」

「下心とかはないから安心して」

先生はどうやら俺が嫌がってると思っているらしかった。


そんなことありえないのに、と俺は心の中でつぶやいた。


自身のどんどん上がる体温と早くなる鼓動をどう隠すかに気を取られたことで涙はすっかりと止まった。


早く解放してほしい、ずっとこうしていてほしいという二つの気持ちが共存している不思議な状態だった。


先生は俺の後頭部を何度か優しく撫でるとすっと離れた。


「ごめんなさい。その、師匠が昔こうしてくれたのを思い出して。嫌だったなら謝るわ」

先生は少しだけ顔を背けた。

照れているように見えたのは気のせいだろうか。


「い、いいえ。ありがとうございました」

先生は俺のその言葉に少し安心したようで、ギィと小さな音を立てて椅子に座り直した。


「涙もろいのね」

「刺激が強すぎただけです。いかに自分がぬるま湯の中で生活していたかがわかりました」

「いや、これが平民の普通とかじゃないから誤解しないでね」

先生は少し苦笑いを浮かべたのだった。

「うまく屋敷から逃げ出せて王宮で保護してもらえたことが、私の人生最大の奇跡ね」

先生のその言葉に俺ははっとした。

「まさか、そのときにアリーシア伯母様に?」

「まぁそんなものね。今度機会があれば話すわ。ちょうど王子様が保護された時期と重なるのよ」

王子様の行方不明事件、それはあまりに有名な話だった。彼が20代になったばかりの頃一ヶ月弱の間、どこかに行方をくらましていたのだという。

「噂で聞いたことがあります。王子様が国王様と仲違いして行方不明になられたことがあると。ってことは、先生はまだ10にも満たないようなころのことですよね?」

「7つくらいのときのことね。ふふ。これで年齢がバレてしまうわね」

「案外近いというか、なんというか」

俺の予想より先生は若かった。



5歳しか変わらないのに坊や呼びなのは少しだけ癪な気がした。



「それは褒め言葉として受け取っておくわ」

先生はいつもの調子でふふっと笑った。


「そんな小さなころから、その、色々させられてたなんて虐待もいいところです」

俺は言葉を慎重に選びながら言った。なるべく先生を傷つけたくなかったのだ。


「ほんとよね。しかも親子揃って上手くないわ。自分本位というかなんというか、デリケートなんだからもっと優しく扱ってもらいたいものね。痛いのは好きじゃないの」

先生はあっけらかんとして言った。


俺の気遣いを返してほしい。

この人はなんと際どいことを言うのだろうか。



「先生、もっと恥じらいを大切にしてください!」

一瞬色々と想像してしまった自分がおり、頬に熱を持ったのがわかった。大丈夫、暗いのできっと先生にはバレていないはず、そう自分に言い聞かせた。


「あら、失礼。それはともかく、私はその後とある村に送られてそこで生活することになったの」

そこでフォルカーの言葉を思い出した。

「もしかして、ラヴィーネ山脈の中にある、飛び地?」

そう聞いた瞬間、先生は驚いた顔をした。

「あら、なんでそんなこと知ってるのかしら?どこでそれを?」

「そんな都市伝説があるって、友人から聞きました。」

「ふーん、フォルカー坊っちゃんね。なるほど、そういうこと。だからあの子、、」

先生は妙に納得していたようだった。対照的に俺は首を傾げた。

「彼が何か?」

「いえ。こっちの話よ」

「気になります」

「今度二人で医務室にいらっしゃいな。そしたら話すわ」

「じゃあ明日にでも連れてきます」

「ふふ。そんなにがっついちゃって。レディに嫌われるわよ」

先生はいつものように茶化すように言った。

俺は少し頬を膨らませた。

「うるさいですよ。気になるもんは気になるんですから。あ、だから先生はやたら寒さに強いわけですね」

「そうかもね。こっちは温かいけど、少し空気が悪いわ。」

「そりゃ山の中と比べられてはね」

先生にした最初の質問への答えがすべてわかった瞬間だった。

なんとも嬉しい気持ちが胸に広がっていった気がした。



「保護された私は村でしっかりとした教育を受けて、ついでに師匠から医療の知識と技術を学ばせてもらって、ここに就職したってわけ」

俺はここで疑問を抱いたので聞くことにした。

「でもこの学園で働くのってなかなか難しいですよね?採用の試験も難しいと聞きましたし、ある程度の家柄でないと働けないと。先生は、その、いわゆる一般市民ですし。もちろん先生方の中には優秀な方で数名はそういう方も混じってるのは知ってますが」

そう、この学園は国立の中でも貴族が通う学校なので採用のハードルが高いのだ。そこまでの自信と腕がない者は同じ公立でも市民向けの学校に就職するらしい。

「試験は余裕だったわ。学校医だとまた基準も違うでしょうし。それに、」

先生は言葉をつまらせた。

「なんです?」

俺がと問うも先生は首を横に振った。

「それはまだだめね」

「教えて下さい」

「こっちはだめ。そうね、坊やが約束を守ってくれていればいつか教えるわ」

「今はだめなんですか?」

俺は少しだけ首を傾げた。

「うぅ、可愛く言ってもだめなものはだめ」

別に可愛く言ったわけではなかったけれど、先生は少し照れていた。


そんな先生のほうが可愛いな、などと思ったのは内緒にしておこう。大人をからかうのはよくない。


「ちぇっ」

俺はわざとらしく舌打ちのマネをした。

「坊や、段々と性格が歪んできてない?」

「通常運転ですよ」

俺はニッコリと笑ったのだった。




その後は先生から魔法のことを少し聞いた。

魔法には水、火、風、氷、雷、土の属性があり、魔族やコンバーターは自分と相性のいい属性の魔法を使えるそうだ。

先生は火と水と氷が得意で、風は少しだけしか使えず、土と雷はまったくだめだそうだ。

また、魔法の威力は潜在能力と訓練によって変わるそうで、先生は村の中で"そこそこ普通"だったらしい。

魔法の詠唱は基本的にイズール語の古語だそうだ。さっきのは"火"、オッターを脅したときに使ったのが"氷"という意味の呪文らしい。


俺は大切なことを思い出した。


「そういえばオッターはどうしたんですか?まさか、殺」

「殺してないわ。ちょっと脅したらすごい勢いで逃げていったの。そしたらあれからずっと無断欠席してるらしいわね。ふふ。大人なんだから自分の行動に責任持たないとね」

先生は涼しく笑った。嘘はついていない、、と信じたい。

「よかった。貴方が殺めてしまったのかと心配してたんです。あの目はヤバかったですからね」

「人を勝手に殺人鬼にしないで」


もう一つ聞いておきたいこともあった。

「あと、あの苦い薬膳茶。催淫剤とか入ってないですよね?」

聞くのもはばかられるような内容だけれど聞かずには居られなかった。俺の様子がおかしいのはあのお茶のせいだと思いたかったのだ。

「入ってるわけないでしょう。あのお茶を飲んどけばだいたいの風邪は治るのよ。師匠が大量に持たせてくれたの。貴族の商業区だったら売ってるわ。ユキワスレ茶って名前ね」

俺は心の中でため息をついた。お茶のせいではないとすれば、熱で本当におかしくなってしまったのかもしれない。



尊敬する同性の先生に劣情を抱くなんて。



「村の特産なんでしょう?あんなに苦いもの、よく飲めますね」

「慣れればどうにかなるわ。師匠のお孫さん達が頑張って摘んでくれたのよ。感謝してほしいものね」

「確かにすぐ熱も下がりましたね」


そして最後にダメ元でお願いしてみたいことがあった。

「ねぇ、先生」

「何かしら?」

「口止め料として1つお願い聞いてくれますか?」

俺のその言葉に先生は目を見開き、はぁ?と聞き返した。

「さっき脅さないって約束したじゃない」

「ふふ。ここまで来たら運命共同体ですからね。一つくらいいいじゃないですか」

「もう。あまりにひどいものなら却下よ」

先生は腕を組みながら言った。



「ロイス先生って呼ばせてください」


もっと先生と近づきたい。そんな気持ちが俺を突き動かしていた。

「却下」

案の定そうきた。しかし俺も食い下がってみることにした。

「いいじゃないですか。あいつには名前で呼ばせてたくせに」

「あれはあいつが勝手に呼んでただけで」

「じゃあ僕も勝手に」

「貴方は生徒でしょう。平等性は欠きたくないの」

先生のその言葉に俺は軽く舌打ちをした。

「今度はほんとの舌打ち?!やだ、リット坊やどうしちゃったの」

「他人がいるときはちゃんと名字で呼びますから」

「そういう問題でなくてね」

先生はタジタジになっていた。そんな姿はめったに見れないのでもう少しからかってみたくなってしまった。


「それとも、僕がそう呼ぶと困る相手がいるとか?」

「んなもの居ないわよ」

「居たらあいつにあんなことさせてないですよね。ってかいつも医務室であんなことを?」

「なわけないでしょう。いつもはあいつの家で、って何言わせてるのよ」

先生はバッと椅子から立ち上がった。顔が赤くなっているのがわかって俺は思わず笑ってしまった。

「チョロいですね」

「坊や、性格が悪いわ」

「最高の褒め言葉ですね」

「うわ」

先生は顔を引きつらせていた。

それを見て少しうれしく思う自分がいた。



俺は自分が思っていたよりも性格が歪んでいるらしい。



そろそろフォルカーの稽古が終わる頃だ。

迎えに行って説得しなければならない。


「明日、フォルカーと一緒に来ます」

「坊っちゃんは嫌がるわよ、きっと。私のこと嫌いだもの」

「説得して来ます」

「わかったわ」



こうして俺たちは実験室を後にした。

そこにイレーネさんがやってきた。

「先生、書き置きありがとうございました。最初の生徒は切り傷の処置で済んだんですけど、今来た生徒はちょっと私だけでは難しくて、、」

「わかりましたわ。じゃあ坊や、明日ね」

そう言うと先生は白衣をなびかせて颯爽と歩いていったのだった。



俺はその足でまっすぐフォルカーがいる体術の稽古場へ向かった。


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