0話 つまらない日常
この退屈な日常はいつまで続くのだろうか。
いつもと同じ朝、いつもと同じ教室、いつもと同じ稽古場。
それらを行き来するだけのつまらない毎日。
同級生たちは何が楽しくて毎日を過ごしているのだろうか。
何かに熱中できるということは、大きな才能だ。
俺は残念ながらそれに恵まれなかったらしい。
勉強はがむしゃらにやらなくても問題なくできる。
剣術は特別な努力などしなくても上達を続けている。
自分の容姿にも別に不満はない。
ハニーブラウンの髪は癖が少なく、瞳はペリドットのような鮮やかな黄緑色。背は中等部卒業の時期にしては高めで175cmに届こうとしている。
家柄を鼻にかけるつもりはないけれど、大国リズニアの"御三家"と呼ばれる王族に次ぐ高い地位を誇るメーヴェ本家の次男。
別に家督を継ぎたいという野望もない。だから次男であることを不満に思うこともない。
兄と弟がいるが、仲は良い。むしろ家族全体仲がいい。これは他の家に比べて恵まれているのかもしれない。
友人とは一人を除き広く浅くの関係を貫いている。
恋愛に興味はない。劣情を抱かないわけではないけれど、特定の誰かに固執することはない。
「リット様が誰かに心を寄せる日など来るのでしょうか」
それは昔親が勝手に決めた婚約者からそれを破棄された時に言われた言葉。婚約破棄の理由は単純だ。俺が彼女になんの興味も示さなかったから。俺は彼女のことが好きでも嫌いでもなかった。そう、それは無関心だった。そんな俺の態度に傷ついたらしい彼女は耐えられずに婚約破棄を願い出たのだった。
元婚約者は今も同じ学年にいるけれど目を合わせてくれない。
それでも俺は構わなかった。
誰かから嫌われても疎まれても構わない。
俺は何も困らない。痛めるような心も持ち合わせていないのかもしれない。
それでも、元婚約者のその言葉が小骨のように心に刺さっている気がする。心がない人間なのだから、刺さるはずもないのに。
俺は他人に興味がないのだ。いや、他人だけじゃない。
きっと自分にも興味がない。
この頃の自分は、つまらない日常が壊れてくれることを切に願っていた。