12話 変化
そんな俺達の関係に変化が現れたのは春を迎えた頃だった。
3の月初旬のある日、俺は剣術稽古で擦り傷を負い医務室を訪ねた。
いつものノックに反応する緩い声が聞こえなかった。
俺は恐る恐るドアを開けた。
先生は机に顔を伏せていたのだ。
「先生?!大丈夫ですか?!」
俺のその声にようやく先生は顔を上げた。
「ごめんなさい、坊や。どうしたの?」
先生の顔色は良くなかった。疲れているようにも見え、いつもならキレイに手入れされている髪がこころなしか輝きを失っているようにも見えた。
「擦り傷を負ったので見てもらおうかと思ったんですが大丈夫です。先生、顔色が良くないです。体調でも悪いんですか?」
「大丈夫。少し夜ふかしが続いてるだけなの。ふふ、美容の大敵なのにね」
先生は冗談ぽく笑ってみせた。そして先生は俺の擦り傷の治療をしようと俺を手招いた。
俺は違和感を覚えた。
先生は白衣を椅子の背もたれにかけ、紺色のYシャツを着ていた。それ自体は珍しくはないのだけれど、袖のボタンをきっちりと止めていたのだ。今日は温かいので、いつもの彼であれば腕まくりしているくらいであるのに。
しかもよく見れば袖の下から白い布のようなものが見えた。
"手首に包帯?"
先生は俺が手首を凝視していることに気づいたらしく、あぁこれ?と聞いてきた。
「階段で落ちそうになって助けてもらった時に痕がついてしまって」
先生は疲れたように微笑んだ。
なぜだろう、すごく違和感があった。
「先生。何かあったんですね?」
「何もないわ」
「先生が困ってるなら力になります」
「何でもないのよ。どうしたの、坊や?」
「それはこっちのセリフです。今日は変です」
「色々あるのよ。さぁ、治療が済んだらお引取りくださいな、リット様」
先生のその目は、かつて俺を追い出したあの時と同じものだった。
「でも」
「生徒のあなたにできることはないわ」
そう言うと先生は素早く処置をし、俺は医務室から追い出されてしまった。
あの時のままの俺ならイライラしていたはずである。
でも俺は先生のおかげもあり確実に変わり始めていた。
俺の中では心配以外の感情は存在しなかった。
その後俺はしばらく定期的に先生を訪ねた。先生はリット様呼びをし、よそよそしくなり、そして顔色が悪いことも多かった。俺が心配して話を聞こうにも医務室を追い出されることばかりであった。




