11.5話 明けない冬
2の月の下旬。星の輝く寒空の下、長い黒髪を後ろに束ねた美しい男が貴族居住区の外れにある屋敷の敷地内を歩いていた。チェスターコートからボトムスに至るまで黒で統一されており、顔以外は闇に紛れるかのような出で立ちだった。
その紺色の瞳に光はなく、表情はなかった。
長髪の男は屋敷の裏にある小さな離れのドアをノックした。
そこから顔を出した男は、長髪の男の細い手首を掴むと中に引き込んだ。
薄暗い廊下に窓はなく空気が淀んでいるかのようだった。
「待ってたぞ、ロイス」
男は長髪の男の耳元でそう言った。
「痛い」
ロイスが男の手を払おうとするものの、男との体格差もあり抵抗は無意味であった。男の指の爪がさらに手首に食い込み、ロイスは痛みに顔を歪めた。
「お前に拒否権なんてあると思ってるのか?あ?」
男はロイスを見下しながら言った。その瞳には強い憎悪の念が垣間見えた。
「嫌」
「こうやってまた出会えたのはある意味運命だ。はは、女神様は俺を見放してなかったみたいだな」
「そんなの偶然だわ。それに」
「口ごたえするのか?いいか?お前は俺から大切なものを奪ったんだ。その罪は消えない。お前にも多少の罪の意識があるから俺のところに来たんだろ」
「、、」
ロイスは何も返せなかった。それは男の言葉に間違いはなかったことに他ならない。
「その目だ。その目で見つめられたかったんだ。生きる希望も何もない目でな。あいつばっかりずるいよな、こんな上質な人形を独り占めして。幼い頃のお前もよかったが今はもっと良い。こんなに美しく成長してたなんてな」
「離して」
ロイスは男を睨みつけた。
男はふふっと冷笑を浮かべた。
「その顔もそそるな。いいのか?勤務先でお前の秘密を暴露しても。この地ではもう俺しか知り得ない過去を。ただでさえお前を受け入れられない生徒は多いんだろう?お前の過去なんて知ったら医務室を利用するやつなんていなくなるだろうな」
男はふっと鼻で笑った。
そう言われてロイスの脳裏には一人の少年の笑顔が浮かんだ。
ロイスは静かに唇を噛み締め、男を睨み続けていた。
「、、」
「抵抗なんかするなよ。まぁ、医者の卵のお前が人を傷つけることなんてできないよな。お前は俺のモノだ。お前みたいな悪魔を可愛がってやれるのは俺しかいないんだ」
男はそう言うとロイスに強引に口づけをした。




