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捨てられた第一王女ですが、聖剣を手に伝説の傭兵へ成り上がります!【乙女ゲーム前日譚・滅びゆく国を捨てて自分の人生を生き抜く異世界転生】  作者: 穂波 奏
第二章 放浪

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第七十五話 初めての依頼

「さて、ポルコさんからのお墨付きも出たことですし、依頼の話をしましょうか!」


 受付嬢は切り替えるように話し始めた。。


「あの……弁償は……?」


 少し暴れすぎた自覚はある。


 (金貨何枚とかだったらどうしよう……)


 少し青い顔をして聞く私に、ポルコは笑って答えた。


「新人からは取りませんよ。うちの連中が勝手に仕掛けた乱闘ですから」


「あ、ありがとうございます!」


「いえいえ、ほら!野郎ども!とっとと片付けるぞ!」


「はい!」


 相変わらず急な豹変には、慣れないがいい人達の集まりで、少し気持ちは軽くなった。


「クリスさんはかなり腕が経つので、せっかくでしたら護衛の仕事はいかがでしょう?」


 提示されたのは、商人の護衛だった。


 街から隣町まで数日間、荷馬車に同行する。


 報酬は銀貨十枚。


 宿代を考えても、十分な金額だった。


「これを受けます」


「分かりました。明日の朝、南門に集合してください」


「ありがとうございます」


 依頼書を受け取る。


 仕事が決まった。


 周囲の人から認められた。


 たったそれだけのことなのに、こんなにも嬉しくなるなんて。


 これからは、自分の力で依頼を受け、金を稼ぐ。


 それが、今の私の生活になるのだ。


 ◇◇◇


 翌朝。


 指定された場所へ行くと、一台の荷馬車が停まっていた。


「君が護衛の人かい?」


 商人らしい男が声をかけてくる。


「はい」


「若いな。本当に大丈夫か?」


「問題ありません」


「そうか。それなら頼むよ」


 商人は気さくに笑う。


 私も笑顔を返し、荷馬車の横を歩き始めた。


 しばらくすると、商人が話しかけてくる。


「一人旅なのか?」


「はい」


「大変だろう」


「……そうですね」


「どこから来たんだ?」


 私は少しだけ黙った。


 (なんて答えよう……)


「西の方です」


 嘘は付いていない。


「西か。最近は、あちらから逃げてきた人間も多いな」


「……そうなんですか」


「ああ。王国で大変なことがあったらしい」


 胸の奥が痛んだ。


「戦争が終わったと思ったら、今度は国そのものがなくなっちまったって話だ」


「……」


「家族を失った奴も多いらしい。気の毒な話だよ」


 私は前を見た。


「……そうですね」


 それ以上は何も言わなかった。


 商人も、深く聞こうとはしなかった。


 それが、何よりも有難かった。


 荷馬車は街道を進んでいく。


 しばらくして。


「止まってくれ!」


 商人が声を上げた。


 前方に、大きな倒木が道を塞いでいる。


「困ったな。これじゃ通れない」


 商人が馬車から降りる。


 私も続いて降りた。


「私が動かします」


「一人で?」


「はい」


 倒木に手をかける。


 かなり大きい。


 普通なら、二人か三人は必要だろう。


 私は足に力を入れた。


 聖剣の力によって戻った身体は、以前より明らかに軽い。


 (いけるかもしれない……)


「……っ」


 力を込める。


 少しずつ。


 倒木が動いた。


「おお……!」


 商人が驚きの声を上げる。


 私はそのまま木を道の端まで押し退けた。


「これで通れます」


「助かったよ!」


「仕事ですから」


 そう答えたものの。


 私は、自分の手を見つめた。


 細い身に似合わぬ怪力。


 さすがに、以前の私なら木を避けた道を探しただろう。


 でもあの日、ポルコ立ちに試された日は、不思議と身体が軽かった。


 大の男共を、軽々とのすことが出来た。


 (やはり聖剣の力なのかな)


 私らしくない選択。


 ガルドなら笑いながら持ち上げただろう。


 レオンなら競争しようと言い出したかもしれない。


 ドレイスなら、私と同じように倒木を避ける別の道を探しただろう。


 選択肢は、いくつかあった。


 なのに私は、ガラにもなく力技をえらんだ。


  無意識に、あの日々を追っているのかもしれない。


 今の私は一人なのに。



 ◇◇◇


 護衛の仕事は、特に大きな問題もなく終わった。


 目的地へ到着すると、商人は約束通り報酬を渡してくれた。


「助かったよ。銀貨十枚だ」


「ありがとうございます」


 私は手の中の銀貨を見つめた。


 銀貨十枚。


 大金ではないけれど、

 初めて自分ひとりで働いて手に入れた金だった。



「……これが」


 自分で生きるということなのだろうか。


 ただの銀貨。


 なのに、やたらと輝いて見える。


 私はしばらく眺めたあと、そっと財布へしまった。


 ◇◇◇


 宿へ戻ったその日は、少しだけ贅沢をすることにした。


 いつもなら食事を抜いて宿代を節約する。


 だが今日は自分で稼いだ金がある。


「……肉料理を一つ」


 食堂で注文する。


 しばらくして、温かいスープと焼いたパン、そして肉料理が運ばれてきた。


 私は、目の前の料理を見つめた。


「……いただきます」


 スープを一口飲む。


 温かい。


 それだけだった。


 なのに、胸の奥が少しだけ緩んだ。


 自分で仕事を選び、自分で働き、自分で報酬を得て、自分で飯を選ぶ。


「……普通って」


 こんなものだったのか。


 私は肉を一口食べた。


 美味しかった。


 それだけなのに、涙が出そうになった。


「……どうして」


 理由は分からない。


 ただ、久しぶりに、普通の生活をしている気がした。


 戦う必要もない。


 誰かを守る必要もない。


 明日の戦場を考える必要もない。


 今日は仕事を終えた。


 だから、食事をする。


 そして眠る。


 それだけ。


 そんな当たり前の時間が、今の私にはひどく大切に感じられた。


 ◇◇◇


 その夜。


 私はぼーっと宿の窓から街を眺めていた。


 通りには明かりが灯っている。


 仕事を終えた人々が歩いている。


 店からは笑い声が聞こえる。


 誰かが今日一日を終え、誰かが明日の準備をしている。


 王国が滅びても。


 世界は動き続けている。


 そして今。


 自分も、その世界の中にいる。


「……生きてる」


 クリスは小さく呟いた。


 胸の奥には、まだ痛みがある。


 ガルドも。


 ドレイスも。


 ナージャも。


 ルカも。


 王も。


 王妃も。


 姫も。


 そして、レオンも。


 忘れることなんてできない。


 忘れるつもりもない。


 けれど。


 失った者たちを思い続けるだけでは、生きていけない。


 今日、自分は仕事をした。


 自分で金を稼いだ。


 自分で食事を選んだ。


 そして、今ここにいる。


「……明日も、生きよう」


 それだけを決めた。


 大きな目標なんて、まだ必要ない。


 国を救う必要もない。


 誰かに認めてもらう必要もない。


 ただ明日を生きる。


 その積み重ねでいい。


 部屋が夜風で冷え込んでくる。


 私はそっと窓を閉めた。


 ベッドへ横になる。


 聖剣は手の届く場所へ置いた。


 目を閉じる。


 今夜は、王都の炎を思い出さなかった。


 それから久しぶりに、深い眠りについた。

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