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捨てられた第一王女ですが、聖剣を手に伝説の傭兵へ成り上がります!【乙女ゲーム前日譚・滅びゆく国を捨てて自分の人生を生き抜く異世界転生】  作者: 穂波 奏
第二章 放浪

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第七十六話 魔剣の行方

投稿が遅れてしまい、申し訳ありません。

これから少し忙しくなるため、更新が不定期になってしまいます。

ブックマーク等でお待ちいただけると幸いです。

よろしくお願いいたします。

 東の国へ入ってから、数年が過ぎた。


「あっ、クリスさん!今日も依頼ですか?」


 あの日の受付嬢が、身を乗り出して聞いてくる。


「そうだね、何かいいのありますか?」


 私は、すっかりこのギルドの常連になっていた。


 (ポルコさんもいい人だったな……)


 この国に来たばかりの私はまだ何も無くて。


 ただ我武者羅に依頼を受けた。


 そんな私を気にかけてくれたのがポルコたちだった。


「拳をまじえた仲ですからね!」


「いや、お前とは交えてねぇけどな!」


 ポルコとふざけ合う常連たち。


 彼らは、何も知らない私に色々教えてくれた。


「クリス!お前腕たつだろ、この依頼なんかいいんじゃないか?」


 常連のお節介が嬉しかった。


「ちゃんとご飯食べてくださいね!クリスさんはうちの期待の新星なんですから!」


 受付嬢たちの心配が嬉しかった。


「おや、クリスさん、今回の依頼はどうでしたか?」


 ポルコが気にかけてくれた事が嬉しかった。


 (もう、誰かと親しくなるつもりもなかったのに)


 宿代を払い、食事を取り、次の仕事を探す。


 依頼が終われば報酬を受け取り、その中から必要なものを買う。


 余った金は少しずつ貯めて、次の町へ移るための旅費にする。


 この町で長く過ごすつもりは無かった。


 けれど、そんな日々を繰り返すうちに、少しずつ心境に変化が生まれていった。


 腕試しでの噂を聞いて、個人的に依頼を持ち込まれることも増えた。


 依頼の内容は、商人の護衛から、魔物の討伐など様々だ。


 中には盗賊に襲われた村を助け、英雄だと言われたこともあった。


 (そんな大層な器じゃないけどね……)


 戦場で培った剣技が、学んだ技術が、私を活かした。


 依頼を受けるかどうか決めるのも、私自身で決める。


 けれど、人はひとりでは生きていけない。


 それがかえって身にしみてしまった。


 こうして私は、この国で依頼をこなしながら、少しずつこの国での暮らしを覚えていった。


 仕事だけではない。


 宿の主人とも顔見知りになり、よく利用する食堂ができた。


 何度も依頼を受けるうちに、何度か顔を合わせる傭兵も増えた。


 (やっと、落ち着いてきたかな)


 それでも、心のどこかに小さく影を落とすもの。


 魔剣の行方だ。


 王国を出てしばらく経った頃から、私はずっと情報を集めていた。


「黒い剣を持った男を見なかったか」


「魔剣?」


「ああ。人を狂わせるような剣だ」


 商人に尋ねる。


 旅人に尋ねる。


 傭兵たちの集まる酒場にも足を運ぶ。


 けれど、返ってくる答えは決まっていた。


「知らないな」


「そんな話は聞いたことがない」


「魔剣なら、昔話の中に出てくるくらいだろ」


 具体的な手掛かりは、何もなかった。


 それでも私は、情報を集めることをやめなかった。


 生活を立て直し、人々と交流を深めながら、この街の人やそれ以外の旅人や商人にも何か知っていることはないか聞いた。


 依頼でわざと遠い地域を選び、遠征先でも聞いて回った。


 依頼を受けずに、自分ひとりで遠方へ旅することもあった。


 でも。


 何度聴いても、どこへ旅しても、手掛かりは見つからない。


 時間だけが無情に過ぎていく。


 (レオン……)


 今どこで、何をしているのか。


 そもそも魔剣にレオンはいるのか。


 私はもう、国が滅んだあとから、本編が始まる前までについて、ほとんど何も知らない。


 今がどうなっているのか、本編がいつ始まるのかすら、何も分からない。


 それでも、私は焦らなかった。


 焦ったところで、何もない場所から魔剣が現れるわけじゃない。


 今できることを続ける。


 そうしなければ、何も残らないから。


 気付けば、東の国での生活にも慣れていた。


 朝になれば依頼を受けたり仕事へ向かい、夕方になれば酒場で食事をする。


 宿へ戻れば、翌日の依頼を確認する。


 以前なら、そんな日常に物足りなさを感じていたかもしれない。


 けれど今は、何も起こらない一日をありがたいと思えるようになっていた。


 戦場では、朝を迎えられることさえ当たり前ではなかった。


 そして仲間たちは、もう朝を迎えられない。


 ガルドの豪快な笑い声も。


 ドレイスの冷静な助言も。


 ナージャの明るい声も。


 ルカの笑顔も。


 そして、レオンの無邪気な声も。


 もう聞こえない。


 その事実に、狂いそうになる。


 時には、寂しさのあまり仲間たちの声が聞こえた。


 時には、孤独に耐えかねて家族たちの姿が見えた。


 でもそれは、ただの幻でしかない。


 幻に捕らわれて、立ち止まってしまうのは簡単だ。


 でも、私は生きなくてはいけないから。


 失った人たちを忘れたわけではない。


 抱えたままでも、生きていけるように。


 少しずつ、現実を受け入れはじめていた。


 そんなある日の夕方だった。


 いつもの酒場で、一人で食事をしていた私の耳に、隣の席から聞き慣れない話が入ってきた。


「砂漠の国で、また人が殺されたらしいぞ」


「またか?」


「ああ。今度は町の近くだそうだ」


 手が止まる。


 聞き流すつもりだった。


 砂漠の国で起きた事件など、この町に住む自分には関係がない。


 そう思っていた。


「何でも、血まみれの男が一人で何人も殺したらしい」


「盗賊じゃないのか?」


「最初はそう思われてたらしいな」


 男は酒を飲みながら、声を少し落とした。


「だが、妙なんだ」


「何が?」


「その男、最初は普通だったそうだ」


「普通?」


「ああ。ところが、黒い剣を手にしてから人が変わったらしい」


 私は思わず顔を上げた。


「黒い剣?」


 無意識に口に出していた。


 隣の男が振り返る。


「聞いてたのか?」


「……すみません。少し気になって」


 私は平静を装った。


 男は気にした様子もなく話を続ける。


「魔剣だって噂だ」


「魔剣?」


「昔から砂漠の国には、そういう話があるらしい。人を狂わせる黒い剣だ」


 その言葉を聞いた瞬間、私の頭の中に一つの姿が浮かんだ。


 黒い剣。


 その傍に横たわる、レオン。


 王都が滅びた夜。


 最後に見た、あの姿。


「……その男は、今どこに?」


「知らない。町の近くで暴れた後、姿を消したそうだ」


「魔剣は?」


「それも分からないらしい」


 胸の鼓動が速くなる。


 これまでにも、似た話は何度かあった。


 黒い剣を見た。


 魔剣を持った男がいた。


 人を殺した怪物が現れた。


 そのたびに調べた。


 だけど、結局は魔剣に繋がることはなかった。


 今回も同じかもしれない。


 ただの噂かもしれない。


 それでも。


「砂漠の国へ行くには、どの町を経由すればいいですか?」


 男が驚いた顔をする。


「本気で行くのか?」


「はい」


「やめといた方がいい。今は物騒だぞ」


「それでも、行きます」


 私は席を立つ。


 ようやく見つけた手掛かりだった。


 確かな証拠ではない。


 魔剣が本当に存在するのかすら分からない。


 それでも、今まで集めてきた何の意味もない噂とは違う。


 黒い剣。


 人を狂わせる力。


 そして、砂漠の国。


 レオンが囚われている魔剣と、あまりにも一致していた。


 宿へ戻ると、私はすぐに旅の準備を始めた。


 水。


 保存食。


 着替え。


 地図。


 必要な道具を一つずつ確認する。


 以前とは違う。


 王国を出たばかりの頃のように、何も考えずに旅立つわけではない。


 砂漠を越えるために必要なものを調べ、途中で仕事を受けられる町を確認し、必要な金も用意する。


 何年もかけて身につけた旅の知識が、今になって役に立った。


 荷物をまとめ終えると、私は窓の外を見た。


 夕暮れの街は、いつもと変わらない。


 人々が家へ帰り、店が明日の準備を始めている。


 自分も、ここで生活をしていた。


 仕事をして、食事をして、眠る。


 そんな日々を積み重ねてきた。


 (ポルコさんたちに、挨拶した方がいいかな)


 でも、今は一刻も争う。


「……また戻ってくるかもしれないし」


 ぽつりとつぶやき、私は荷物を背負った。


 戻ってくる保証は無い。


 でも今は、少しでも時間が惜しかった。


 翌朝、まだ街が騒がしくなる前に宿を出る。


 街道へ出たところで、私は地図を広げた。


 砂漠の国までは遠い。


 途中にはいくつもの町があり、国境も越えなければならない。


 簡単な旅ではない。


 それでも、以前ほど不安はなかった。


 今の私には、一人で旅を続けるための経験がある。


 仕事を探す方法も知っている。


 必要なものを自分で揃えることもできる。


 数年前の自分とは違う。


 私は地図を畳み、砂漠の国へ続く道を歩き始めた。


 頭に浮かぶのは、あの黒い剣のこと。


 もし、本当にレオンがそこにいるのなら。


 今度こそ辿り着きたい。


 王都を出てから、何度もそう願ったが、そのたびに手掛かりは途切れた。


 だから、期待することが怖くないわけではない。


 また何も見つからなかったら。


 また、遅かったら。


 そう考えると、足が重くなりそうになる。


 それでも、私は歩いた。


 歩かなくてはいけなかった。


「待っていて、レオン」


 誰にも届かない声で呟く。


「今度は、私が探しに行くから」


 返事はない。


 それでも、もう迷わなかった。


 これまで積み重ねてきた日々を無駄にするつもりはない。


 生きるために身につけた力も。


 集めてきた情報も。


 旅の経験も。


 すべてを使って、魔剣を探す。


 砂漠の国に本当に魔剣があるのか。


 そこにレオンがいるのか。


 まだ何一つ分からない。


 ただ一つ確かなのは、ようやく自分から追うべき手掛かりが現れたことだった。


 私は街道の先を見つめ、歩く速度を上げた。

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