↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捨てられた第一王女ですが、聖剣を手に伝説の傭兵へ成り上がります!【乙女ゲーム前日譚・滅びゆく国を捨てて自分の人生を生き抜く異世界転生】  作者: 穂波 奏
第一章 前日譚

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
75/83

第六十八話 脱出

 魔女を倒した直後、私はは聖剣を支えにして中庭を離れた。


 身体中の傷が痛む。脇腹から流れる血は止まらず、最後に受けた呪いも身体を蝕んでいる。まともに歩ける状態ではなかったが、敵兵の声が近づいている以上、ここに留まるわけにはいかなかった。


 聖剣を握り直す。


 白い刀身だけが、燃え落ちていく王城の中で異様なほど鮮明だった。


「……姫」


 その名が口から漏れた。


 そうだ。


 まだ、確認していない。


 最後に王女を見た時、彼女はレオンと一緒だった。


 レオンが、王女を守っているのを見届けた。


 あれから何が起きたのか、何も知らない。


「生きていてくれ……」


 祈るように呟き、壁に手をついて歩き出す。


 廊下を曲がる。


 階段を上る。


 途中で何度も足が止まりそうになる。


「……っ」


 膝が折れかけ、聖剣を床へ突き立てて身体を支えた。


 敵兵の声が聞こえる。


「まだ城内にいるぞ!」


「生存者を探せ!」


「王族を見つけたら報告しろ!」


 歯を食いしばる。


 ここにいれば見つかる。


 逃げなければならない。


 それは分かっている。


 それでも、姫を置いていくことだけはできなかった。


 私は再び歩き出す。


 足を引きずりながら、王族の居住区へ向かった。


 ◇◇◇


 永遠にも感じるような廊下を進む。


 (もう、動けない……)


 廊下の壁際に倒れるように横たわる。


「……はぁ……」


 呼吸が浅い。


 視界がぼやける。


 指先から力が抜け、聖剣を握る手さえ震えていた。


 少しだけ休めば動ける。


 そう思った直後、意識が途切れた。


 ◇◇◇


「――いたか!?」


「まだ城内にいる!」


 遠くから聞こえた声で、私は目を覚ました。


 (今……意識を失っていたのか?)


「……っ」


 身体を起こすと、全身に痛みが走る。


 呪いのせいなのか、それとも傷のせいなのか、身体の感覚すら曖昧だった。


 それでも立ち上がる。


 聖剣を杖代わりにして、敵兵の声から離れるように進んだ。


「姫……」


 もう一度、その名を呼ぶ。


 返事はない。


 それでも、足は王族専用区画へ向かっていた。


 長い廊下を抜けた先に、大きな扉が見える。


 見覚えがあった。


 王族だけが使うことを許された場所。


 幼い頃に何度か見かけたことはあったが、中へ入った記憶はない。


 扉へ手をかける。


「……ここにいるのか?」


 返事はなかった。


 扉を開ける。


 その先には、広い部屋があった。


 床には巨大な魔法陣が描かれている。


 壁には古い文字。


 そして、その中央に――一人の少女が横たわっていた。


「…………」


 足が止まった。


「……姫?」


 声をかけても動かない。


 私は聖剣を床へ立てかけ、少女のそばへ膝をついた。


「姫……」


 肩へ手を伸ばす。


 触れる前から分かっていた。


 呼吸がない。


 身体から温もりが失われている。


「……嘘だ」


 指先が震える。


「そんな……」


 少女の顔を見つめる。


 少し前まで、王城の中を歩いていた。


 社交の場では緊張しながらも笑っていた。


 訓練場では必死に剣を振っていた。


 何も知らないように見えて、その裏では王女として国を背負おうと努力していた。


 そんな少女が、目の前で死んでいる。


「姫……」


 何度呼んでも返事はない。


 (遅かった……)


 唇を噛んだ。


 涙が頬を伝う。


「……どうして」


 その言葉を口にした瞬間、前世の記憶が蘇った。


 乙女ゲーム。


 『ナエラ王国物語~戦場に舞う乙女~』。


 ゲームの冒頭で語られていた、この国の歴史。


 かつて栄えていたルナエ王国は、内乱によって滅びた。


 王族は殺され、王女も命を落とす。


 ここまでは知っていた。


 ここから、どうやってゲームが始まるのか。


 それが、どうしても思い出せなかった。


 (思い……出した)


 王女の魂は聖剣によって遠い未来へ受け継がれ、ゲーム本編の主人公として生まれ変わる。


 何度も見た設定だった。


 攻略本にも書かれていた。


 ゲームを始めるたびに目にした、物語の始まり。


 (なんで今更、思い出すの)


「……これが」


 クリスの声が掠れる。


「ゲームで語られていた……王国滅亡の瞬間……」


 自分が転生したことで、歴史は変わると思っていた。


 ゲームには存在しなかった自分が、この世界で生きてきた。


 公爵家を出た。


 《暁の牙》に入り、ガルドたちと出会った。


 レオンと肩を並べて戦った。


 戦争にも勝った。


 王国の未来を変えられる。


 そう信じていた。


 だが、目の前にある現実は違った。


 王国は滅びた。


 王女は死んだ。


 自分が知っているゲームの歴史と、同じ場所へ辿り着いてしまった。


「……私は」


 クリスは少女の手を握った。


「何のために、ここまで……」


 答えは返ってこない。


 その時、遠くから敵兵の声が響いた。


「こっちだ!」


「まだ生存者がいるかもしれない!」


 クリスは顔を上げた。


 ここに長くはいられない。


 敵に見つかれば、今度こそ動けなくなる。


 立ち上がろうとした時、部屋の隅に小さな扉があることに気づいた。


「……あれは」


 壁の装飾に紛れるように作られた、目立たない扉だった。


 記憶を探る。


 ゲームでは、王城の隠し通路がいくつか登場した。


 その中には、王族専用区画から城外へ抜けるものもあったはずだ。


「……使えるかもしれない」


 クリスは少女をもう一度見る。


 本当なら、ここを離れたくなかった。


 せめて最後までそばにいたかった。


 だが、自分まで捕まれば、何も残らない。


 クリスは立ち上がった。


「……ごめん」


 それだけを少女へ告げる。


「姫を守れなかった私が言うことじゃないけど……」


 言葉が続かない。


 私は拳を握り、扉へ向かった。


 ◇◇◇


 扉の向こうには、狭い石造りの通路が続いていた。


 私は聖剣を杖代わりにして、一歩ずつ進む。


 背後から敵兵の足音が近づいてくる。


 やがて扉が開く音がした。


「この部屋だ!」


 私は振り返らなかった。


 ただ、前だけを見て歩く。


 王城の中には、まだ燃える音が響いている。


 炎の向こうにあった日常は、もう戻ってこない。


 ガルドも。


 ドレイスも。


 ナージャも。


 ルカも。


 レオンも。


 そして、姫も。


 すべてを失った。


 それでも、足を止めることはできなかった。


 暗い通路の先へ進む。


 この先に何が待っているのかは分からない。


 ただ、生き残らなければならない。


 それだけが、今の私に残された唯一の命令だから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。