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捨てられた第一王女ですが、聖剣を手に伝説の傭兵へ成り上がります!【乙女ゲーム前日譚・滅びゆく国を捨てて自分の人生を生き抜く異世界転生】  作者: 穂波 奏
第一章 前日譚

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第四十六話 近衛騎士選抜(後編)

 決勝の日が来た。


 (来てしまった……。)


 王城内に設けられた演武場には、前日を上回る数の人が集まっている。


 貴族や騎士だけではない。


 王国軍の関係者も多く姿を見せ、貴賓席には国王と王女の姿もある。


 今日の勝者が、王女直属の近衛騎士となる。


 それだけに、演武場には普段の訓練とは比べものにならない緊張感が漂っていた。


 私は静かに木剣を握る。


 向かいには、レオンが立っていた。


「……すごい人だな」


 レオンが周囲を見回す。


「緊張しているのか?」


「少しだけな」


 そう言って笑った。


「でも、お前が相手なら余計なことを考えなくて済む」


「どういう意味だ?」


「いつも通りでいいってことだよ」


 私は小さく笑った。


「なるほど。それなら私も同じだ」


 この数年間、私たちは何度も剣を交えてきた。


 訓練場で。


 任務の合間に。


 時には模擬戦で。


 レオンの癖は知っている。


 そして、レオンも私の戦い方を知っている。


 だからこそ、今日の勝負は今までで一番難しいものになるだろう。


「決勝戦――」


 審判が声を張り上げる。


「始め!」


 合図と同時に、二人が地面を蹴った。


 木剣が激しくぶつかる。


 乾いた音が演武場へ響いた。


 一撃。


 二撃。


 三撃。


 互いに距離を取り、再び踏み込む。


 レオンの剣が迫る。


 私は剣を滑らせるようにして受け流し、そのまま反撃へ移った。


 レオンは身体を沈め、木剣をかわす。


 頭上を私の剣が通り過ぎた。


「……っ」


 レオンが笑う。


「やっぱり簡単にはいかないな」


「こちらも同じだ」


 再び剣を交える。


 周囲から歓声が上がっているはずなのに、次第にその音さえ遠くなっていった。


 今、私の前にいるのはレオンだけだった。


 互いに、相手が次に何をするのかを考える。


 攻撃を仕掛ければ読まれる。


 誘いをかけても、簡単には乗ってこない。


 長く共に戦ってきたからこそ、相手の戦い方を知っている。


 だからこそ、最後に勝敗を分けるのは、ほんの僅かな判断になる。


 レオンが踏み込んだ。


 私は一歩下がる。


 追ってくる。


 木剣を振る。


 私は受け流し、そのまま反撃へ移ろうとした。


 その瞬間、レオンが身体を捻った。


 木剣が頬を掠める。


「……!」


 紙一重だった。


 私は距離を取り、レオンも息を整える。


「今のは危なかったな」


「ああ」


 レオンが笑う。


「でも、次は当てる」


「やってみろ」


 再び地面を蹴った。


 剣がぶつかる。


 何度も。


 何度も。


 互いに一歩も譲らない。


 そして、最後の攻防。


 私は一気に踏み込んだ。


 レオンも同時に前へ出る。


 木剣が激しくぶつかった。


 その瞬間だった。


 仮面が僅かにずれた。


(……っ、まずい!)


 急に、周囲の目線が気になってしまう。


 もし仮面が外れたら?


 もし顔を見られたら?


 もし私が、王族だとバレたら?


 勝たなくてはならないのに。


 未来を変えなくてはならないのに。


 結び目が緩んでいる。


 このままでは、素顔が見える。


 大勢の騎士や貴族、そして王族の目に私の顔が晒されてしまう。


 一瞬、私は仮面へ意識を向けた。


 ほんの一瞬、たったそれだけの隙を、レオンは隙を見逃さなかった。


 踏み込む。


 身体を沈める。


 木剣が最短の軌道を描いた。


 乾いた音が響く。


 次の瞬間、木剣の切っ先が私の首元で止まっていた。


「そこまで!」


 審判の声が演武場に響く。


「勝者――レオン!」


 歓声が沸き起こった。


 (……負けて、しまった)


 私はゆっくりと仮面を押さえ、それから目の前のレオンを見る。


「……勝った」


 レオンは、自分でも信じられないような顔をしていた。


「俺……クリスに勝った」


「ああ」


「やっとだ」


 その声には、隠しきれない喜びが滲んでいた。


 私は木剣を下ろす。


「強くなったな」


「……え?」


「本当に強くなった」


 私は笑った。


「私が隙を見せた瞬間を、迷わず突いた。あの判断ができたのは、お前がそれだけ成長したからだ」


「何年も一緒に戦ってきたからな」


 レオンは照れたように笑う。


「お前がどんな時に隙を作るのかくらい、分かる」


「なるほど」


 私はまだ未熟だった。


 まだ囚われたままだった。


 けれどレオンはただひたむきに、私へ勝つことを望んでいた。


 嬉しそうにしているレオンを見ると、過去の姿と重なる。


 私のあとを追い、私を目指していた少年は、いつしか私を追い越していた。


 (今のレオンなら、大丈夫かもしれないな)


 なんて思いながらも、私もレオンを囲む仲間たちに加わった。


 ◇◇◇


 その後、表彰式が行われた。


 国王が演武場を見渡す。


「今回の選抜において、最も優れた結果を残した者を、王女直属の近衛騎士に任命する」


 周囲が静まり返った。


 国王の視線が、レオンへ向く。


「レオン」


「そなたを、王女直属の近衛騎士に任ずる」


 レオンの目が僅かに見開かれた。


 けれど、すぐに姿勢を正す。


「謹んで、お受けいたします」


 大きな歓声が上がった。


 私は、その姿を静かに見つめていた。


 貴賓席では、王女も嬉しそうに笑っている。


 やがて王女が演武場へ降りてきた。


 レオンの前で足を止める。


「レオン様」


「はい」


「これから、私のことをよろしくお願いいたします」


 王女が深く頭を下げる。


 レオンも真っ直ぐに王女を見た。


「任せてください」


 そして、はっきりと告げる。


「俺が、必ずお守りします」


 王女が嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます」


 二人の間に、穏やかな空気が流れる。


 私は少し離れた場所から、その光景を見ていた。


 以前なら、胸の奥に寂しさを覚えていたかもしれない。


 けれど、今は違う。


 王女がレオンを信頼していることも、

 レオンが王女を守ろうとしていることも、

 素直に嬉しいと思えた。


 妹には、妹の世界がある。


 そして、レオンにもレオンの世界がある。


 私がそこへ無理に入り込む必要はない。


 私は私で、未来を救うために動けばいいのだから。


「クリス」


 声を掛けられて振り返る。


 レオンがこちらへ歩いてきていた。


「どうだった?」


「何が?」


「俺の試合」


「悪くなかった」


「それだけ?」


「……強くなったと思う」


「素直じゃないな」


 レオンが笑う。


 私は苦笑した。


「勝ったんだから、もっと胸を張ればいい」


「じゃあ、胸を張るぞ」


 レオンは本当に胸を張った。


「俺、王女様を守る近衛騎士になったんだからな」


「ああ」


「これから、もっと強くならないとな」


「そうだな」


 私は頷いた。


 レオンはまだ知らない。


 自分がこれから、どんな道を歩いていくのか。


 けれど、今の私はそれを知っている。


 だからといって、すべてを先回りして変えようとは思わない。


 未来は、まだ決まっていない。


 目の前にいるレオンは、誰かに与えられた力ではなく、自分自身の力でここまで来た。


 それなら、これから先も自分の足で進んでいけるはずだ。


「さて」


 レオンが木剣を肩に担ぐ。


「次は、ちゃんと勝つからな」


「もう勝っただろう」


「一回だけだろ?」


「欲張りだな」


「当然だ」


 二人で笑った。


 少し離れた場所では、王女もこちらを見ている。


 その表情には、嬉しそうな笑みが浮かんでいた。


 私はその光景を眺めながら、静かに思う。


 レオンはもう、私の後ろを歩く少年ではない。


 自分の足で歩き、誰かを守る騎士になった。


 そして今日からは、王女の隣に立つ。


 その姿を見届けながら、私は自然に笑っていた。


 今は、それでいい。


 私には私の場所があり、レオンにはレオンの場所がある。


 それぞれが自分の選んだ道を歩いていけばいいのだ。

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