↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捨てられた第一王女ですが、聖剣を手に伝説の傭兵へ成り上がります!【乙女ゲーム前日譚・滅びゆく国を捨てて自分の人生を生き抜く異世界転生】  作者: 穂波 奏
第一章 前日譚

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/83

第二十四話 初戦後の夜

 あれから彼とは再び離れ、お互いに何も無かったかのようにそれぞれの仕事に戻った。


 私は敵を追撃し、彼は指揮を執る。


 気がつけば、あたりはすっかり暗くなり、夜が来た。


 拠点にもどると、戦場を覆っていた怒号は消え、低い呻き声だけが響いていた。


 勝利した陣地なのに、そこに歓声はない。


 夜の闇に響くのは、負傷兵の苦しげな息遣い、治療を急ぐ軍医たちの声、そして、静かに運ばれていく仲間たちの姿だった。


「……。」


 私は呆然と佇む。


 戦場を覆っていた高揚感は消え、現実が目の前に迫ってきた。


 折れた剣。


 砕けた盾。


 焼け焦げた鎧。


 赤黒く染まった大地。


 その上に横たわるのは、昨日まで共に笑い、食事をし、肩を並べて戦った仲間たち。


 もう、その目が開くことはない。


「……勝ったんだよな。」


 小さく呟く。


 敵将は倒した。


 敵軍は退いた。


 王国軍は勝利した。


 それは紛れもない事実だ。


 もし私が敵将を止められなければ、もっと多くの命が失われていた。


 そのことも分かっている。


 戦場では、迷えば死ぬ。


 迷えば、守るべき誰かが死ぬ。


 だから私は剣を振るった。


 その選択に後悔はない。


 けれど――。


 胸の奥を締めつける痛みは消えなかった。


 救えた命がある。


 その一方で、救えなかった命も、確かにあった。


「仮面の騎士殿!」


 声を掛けられる。


 振り向くと、若い兵士が深く頭を下げていた。


「あなたのおかげで助かりました!」


「敵将を止めてくださらなければ、俺たちは全滅していました。」


 その声をきっかけに、周囲の兵士たちも口々に言う。


「命を救っていただきました!」


「ありがとうございました!」


「あなたは王国の英雄です!」


 感謝の言葉。


 安堵した笑顔。


 私はその光景を見つめる。


 確かに、この人たちは生き残った。


 私が剣を振るったから。


 私の剣で、救った命。


 その事実は変わらない。


 それでも、視線を少し動かせば。


 白布を掛けられた仲間たちが並んでいる。


 助かった命と。


 助けられなかった命。


 その両方が、この戦場にはあった。


「クリス。」


 隣へレオンがやって来る。


「苦しいか。」


「……ああ。」


 素直に頷いた。


「もっと守れたんじゃないかって思ってしまう。」


 敵将を倒したあと。


 もっと早く動けていれば。


 もっと別の判断をしていれば。


 そんな考えが頭から離れない。


「でも。」


 私は静かに続ける。


「もし敵将を倒さなければ、もっと多くの仲間が死んでいた。」


「それも本当だ。」


 どちらも現実だった。


 救えた命も、救えなかった命も、その両方を受け入れなければならない。


「だから。」


 小さく息を吐く。


「勝ったのに、喜べない。」


 レオンは少しだけ空を見上げた。


「それでいい。」


 静かな声だった。


「全部守れなかったことを忘れるな。」


「……。」


「でも、守れた命まで否定するな。」


 その言葉に、私は息を呑んだ。


「今日、生き残った奴らは、お前が守った命だ。」


「死んだ仲間を忘れるな。」


「でも、生きてる仲間まで見失うな。」


 私は黙って前を向く。


 負傷兵を支える兵士。


 涙を流しながら、それでも立ち上がる者。


 互いに肩を貸し合う仲間たち。


 確かにここには、私が守れた命もあった。


 私は仮面へ触れる。


 仮面の騎士。


 そう呼ばれるたび、誰もが私を強い人間だと思うだろう。


 でも、本当は違う。


 私はきっと、誰よりも弱い。


 でも、守れなかった命も、守れた命も。


 そのどちらも背負い続けることが。


 戦場に立つ者の責任なのだと、ようやく分かり始めていた。


「……勝ったのに。」


 もう一度、夜空を見上げる。


「まだ笑えないな。」


「ああ。」


 レオンは短く頷いた。


「無理に笑う必要なんてない。」


 その言葉だけで十分だった。


 遠くでは、まだ誰かの呻き声が聞こえる。


 勝利の夜。


 それでも戦場には、生き残った者たちの痛みが静かに残り続けていた。


 夜は長い。


 戦争は、まだ始まったばかりだ。


 これから先も、私は剣を振るう。


 救える命もあれば、救えない命もあるだろう。


 その現実から目を背けることなく、私は歩き続ける。


 《暁の牙》を。


 王国を。


 そして、大切な仲間たちを守るために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。