表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆれる、春  作者: なを
PR
6/9

さくら——見えてしまったもの

七月の半ば、さくらは蓮と二人で話す機会があった。

涼太と朔がコンビニに買い出しに行って、大学の中庭のベンチに蓮とさくらだけが残った。五分くらいの、短い時間だった。

蓮はスマホをいじりながら、特に何も喋らなかった。

さくらも特に何も喋らなかった。

でもふと、蓮が言った。

「さくらって、涼太と幼なじみなんだよね」

「うん、幼稚園から」

「ずっと仲いいんだ」

「まあ、そうかな」

蓮はスマホから目を上げて、コンビニの方向を見た。涼太と朔が出てくるのを、確認するような目だった。

さくらはその横顔を見た。

蓮の目が、細くなっていた。柔らかく、細くなっていた。涼太の名前を口にするとき、蓮はいつもそういう顔をするのかもしれない。さくらはそのとき初めて、気づいた。

でも次の瞬間、さくらの頭に別のことが浮かんだ。

涼太は。

涼太は、蓮の話をするとき、どんな顔をしていたか。

思い返した。

先週、涼太と二人で話したとき。蓮の話になったとき、涼太は——笑っていた。いつもより、少しだけ、楽しそうに笑っていた。声のトーンが、半音くらい上がっていた。

さくらには、音楽の経験はない。でも涼太の声の変化なら、十何年分知っている。


胸の中で、静かに何かが落ちた。

パズルのピースが、音もなく嵌まる感じ。


「涼太ってさ」とさくらは言った。

「うん?」

「蓮のこと、すごく話すんだよね、最近」

蓮がさくらを見た。少し、意外そうな顔で。

「俺の話?」

「うん。なんかおもしろいやつと友達になったって、最初に言ってた」

蓮は少し黙った。

それからまた、コンビニの方を見た。

さくらにはもうわかっていた。蓮の横顔が、さっきよりも少しだけ柔らかくなったから。

涼太の話をされて、嬉しいんだ、と思った。

嬉しいと気づいていないまま、嬉しいんだ、と思った。


コンビニから涼太と朔が戻ってきた。

涼太が「待たせた」と言いながら、蓮にポカリを投げた。

蓮が「気が利くじゃん」と受け取った。

涼太が「たまにはな」と笑った。

さくらはその二人を見ていた。

涼太が蓮を見る目。

蓮がさっきコンビニの方向を見ていた目。

二つが重なって、さくらの胸の中で、静かに溶けた。

ああ、そうか。

涼太の「好きな人」は、蓮だ。

不思議と、驚かなかった。

むしろ——腑に落ちた。


朔が隣に来て、さくらと並んで座った。

朔はさくらを見て、それからまた涼太と蓮を見て、小さく息を吐いた。

さくらも小さく息を吐いた。

二人は何も言わなかった。

言わなくても、同じものが見えていた。

朔がぽつりと言った。

「ばかだよな」

「うん」とさくらは言った。「二人とも」

朔が少しだけ、笑った。

さくらも少しだけ、笑った。

初めてちゃんと、朔と笑った気がした。


帰り道、さくらは一人で歩いた。

涼太の「好きな人」が蓮だとわかった。

それで自分が悲しいかというと——不思議と、そうでもなかった。

胸がぎゅっとなるのは、涼太のことを思ったときじゃなくて——

さくらは立ち止まった。

結衣に電話しようとして、やめた。

まだ言葉にならない。でも、輪郭だけは見えてきた気がした。

自分の気持ちの、輪郭が。

七月の夜風が、さくらの髪を揺らした。

さくらはまた歩き出した。

答えはまだ出ていない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ