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マルデリア公爵家

 王立学園には様々なカリキュラムが存在する。

 

 貴族の子女は最初に基本的なマナーとダンスのレッスン、刺繍の実技練習などを行う。

 

 簿記や会計など、計算に関しても教えるがこちらは軽んじられやすい。

 

 エノールはこちらを極めて優秀な成績で収め、この頃からエノールはアルベレット共ども周囲の生徒から注目されていた。マナーと数字には強いが、ダンスと刺繍はからっきしの女。まさしく領主になるために生きてきたやつだ。

 

 それは蔑みの対象となった。女の領分は刺繍とダンス、それから芸事。確かに数字に強い方が領主の嫁としては役に立つだろうが、彼女らは『貴族の嫁』である前に『嫁』なのだ。そう言ったことは領主がやればいいとさえ考えている。彼女らの奉仕精神は皆無なのだ。

 

 だからこそ、エノールは嘲笑わらわれた。みっともない女、無骨な女、身の丈に合っていない使命を持たされたチグハグな、育ちきっていない醜女のようだと蔑まれた。

 

 ともあれ、それらが進んでいくと一年生の後半から音楽の授業が始まっていく。最初は譜読みから、リズム感を鍛えてコードを覚え、それから……と、楽器にも別れるがそれなりに実用的なことを教える。これもまたエノールは苦手でさらに蔑まれた。

 

 そして、二年生のはじめにエノールが男子生徒に混じって政治・内政・軍事の座学に参加するようになると、毎回教師を唸らさせた。

 

 軍事に関しては真面目に予習復習に取り組み、時に突飛な理論を提唱する。教師にその理論の如何を論じる能力はないが、それでも教師にはそれらが張子の虎のようには思えなかった。 

 

 内政に関しては目覚ましい。知識もさることながら、それらは学園の先取りというよりはそれを超えたより実践的な──それも相当レベルの高いものだ。受け持つ教師には現役の名領主に匹敵するんじゃないかと思わしめた。


 政治に関しては特に目覚ましい。内政・軍事にも共通することだが、発想力や理解力が周囲の生徒と段違いなのだ。流石に教師からの質問にそれ以上で答えるエノールの姿に、周囲の男子生徒は驚きを隠せていないようだった。

 

 あの無骨女が評価されるだけでも腹立たしい。軍事や内政や政治なんて男子の領分なのに、それを女子の分際で土足で踏み入って評価されるなど……と、自分もこれから苦しめられるだろう男女分業主義を掲げて、反感を抱いていたが、更に剣術や馬術を習い始めて事態が変わった。

 

 女子生徒達(の一部)は最初、あの女に相応しいとあざけていたが、馬術と剣術の教師がエノールを天才だと騒ぎ立てるのである。同時になぜか男子生徒達の尊敬の眼差しを得て、あまつさえ憧れの対象になってしまった。

 

 どういうことか。女らしい方が男は好むんじゃないか。男の領分に足を踏み入れているあの女が注目されるのは是なのか。世の中の理不尽を初めて感じ取ったのだ。

 

 余談だが、男は往々にして『男の性質』を理解してくれる女性に弱い。自分の趣味とか肉欲の強さとか、男性は『理解される』側に立つことが少ないので、エノールのような理解してくれるような女子にことごとく弱いのだ。それは他の女子が理解しないからこそのアドバンテージでもある。

 

 唯一無二性は希少価値となってその人の評価を跳ね上げる。図書室に足繁く通う姿から『図書室の姫』だとか『真相の姫』だとか『戦姫』『遊牧の姫の生まれ変わり』『俺らの理想』など、後半に至っては願望と妄想が入り混じった愛称《二つ名》で陰では呼ばれている。

 

 エノールに向かってその名で呼ぶととても可愛らしい仕草で恥ずかしそうに怒るので、それがますます男達の興味を買った。大体、自分の周りにいる唯一の女生徒なのである。髪を土色で珍しいし、何より美人だ。同世代の女子と違ってけばけばしくもなければ違いがわからないわけでもなく、ただ凛と着飾る化粧は男達の心と精通をいくつも奪った。

 

 全くもって余談だが、レガルド以外にエノールで精通をしたのが一ヶ月で十人。エノールは男子達の初めてを奪う死神と化した。

 

 このままではエノールの親衛隊が出来上がるんじゃないかと言った時に、二年生で初めて挟まれる夏季休業が始まった。教師達は密かに安堵した。だって、明確にはできていないが、もうエノールの周囲は親衛隊化しているのだ。男子の誰かがおかしな真似をすれば、周囲がそいつを殴り飛ばす。一回喧嘩になった。

 

 さて、休業中のエノールは主に執務と自己研鑽の日々を送っていた。勉学にも励んでいたが、それ以上に『女として魅力的になりたい』という漠然とした思いが込み上げてきたのだ。最近では胸が張ってきた気がする。成長が始まったのだ。おそらく第二次成長期、これは佐藤健の記憶にある知識も通用するだろう。

 

 休業中にアイシャを呼び寄せて化粧を教えてもらったり、アルベレットに漠然と『綺麗になりたい』と言って目を丸くさせた。いくばくか動揺していたようだが『女の美しさは容姿ではなく心に本質がある』と食事から歩行、普段の佇まいを徹底的に直された。普通の生徒にはここまでしない。彼女らはどこまで行っても貴族の子女だからだ。

 

 アルベレットは自分の実力を存分に出せることに喜んでいるようだった。表面上は隠しているが、生徒の中では一番付き合いが深いエノールはそれをよく分かっていた。彼女の愉悦の邪魔はしないと、アルベレットの教えをすぐに吸収して、飲み込みの早さにアルベレットを再び唸らせた。

 

 どうにもこの体は才能があるようだ。乗馬や剣術などの体の身のこなし、知識の吸収について結構な自信がある。そういえば佐藤健の記憶では経営学の修練もここまでスムーズではなかった。学生時代から着眼点という才能もあって時間をかけて養ったものなのだ。

 

 エノールは更に化粧を薄くした。それは漫画家が連載にあたってキャラクターの線を減らすようなもので、少ない技巧でどれだけパフォーマンスを活かすかというものだった。結果的にそれは成功する。何せエノールは地がいいのだ。隠す必要はどこにもない。

 

 午前は執務とアルベレットの師事、午後は勉学にアイシャとの自己研鑽。化粧だけではつまらないので女の子らしいことを身につけようという、エノールが一向に年頃の女の子らしいことにうつつを抜かさないことを心配したアイシャによって一般常識が身についた。

 

 エノールは最初に『それなら勉強か執務をしていた方が……』とワーカーホリック御用達の台詞を吐いていたが、その実アイシャの授業は一般的な女の子の感覚とやらをもたらしてくれたのでエノールにとってはとても助かった。

 

 休業中も動き回って、見かねたバルターに休養を申し渡された頃、学園では一つのイベントが催されようとしていた。佐藤健の記憶でいえば校外学習的なサムシングだ。

 

「カヌーにキャンプ? なんだか、まとまりがないわね」

 

「表向きは勉学のためとなっておりますが、その実は日頃勉学に励まれる貴族子弟達のための息抜きでしょう」

 

「男子達はともかく、女子達はいつも休んでいるでしょうに」

 

「まあまあ、そう言わず」

 

 休業中、エノールの執務室と化した寮の部屋でバルターがエノールに明日の予定を説明している。なんでも近くの森にある川辺でキャンプや釣りなどに勤しむようだ。彼らが怪我をしないために教師もそうでとなって動く。

 

「よくするわね。貴族の子供なんて、学園の中に押し込めておきたいでしょうに」

 

「こうでもしないと街で遊び回りますからな。それよりは学園側の手元で泳がせておきたいのでしょう」

 

「ふーん、合理的ね」

 

「……」

 

 少女の視点は既に人の上に立つもののそれだった。

 

「それから、エノール様にお客様です」

 

「え、客?」

 

「はい」

 

 バルターはその続きを言わなかった。きっと要件は聞いていないのだろう。

 

「どこに?」

 

「学園の客間に」

 

「すぐ行くわ」

 

「着替えますか?」

 

「待ってくれる?」

 

「恐らくは」

 

「そう、けど今私は学生なの。わざわざ学園に来たということは、学生の私に会いに来たのでしょう」

 

「エノール様、恐らくは……」

 

「分かっているわ」

 

 エノールはバルターの声を遮った。

 

 

 

 学園の客室に一人の貴族が通された。本来であればこの国の重鎮、相応のもてなしを持って歓迎しなければならない。

 

 しかし、彼が自分の訪問をお忍びと称したために畏れ多くも学園はその貴族を客室で待たせることとなった。公爵を招き入れることなど想定していない客室の作りに、学園は大いに不安になった。

 

 そして呼ばれたのがあのエノールだ。学園は肝が冷えまくっている。

 

 客室にエノールが足を踏み入れた。相手が誰かを分かっていて、エノールはそのままの格好で出迎えた。言い訳は用意してある。その格好は『あなたでも譲りませんよ』という意思表示のようなものだ。

 

 そこで待っていたのはマルデリア公爵家の当主、ユレグニス・マルデリアだった。

 

「お初にお目にかかります、マルデリア公爵。私がアルガルド伯爵家次期当主のエノール・アルガルドです」

 

「やあ、話は聞いているよ。あえて光栄だ。いきなり学園に来てすまないね」

 

 優雅な立ち振る舞いでエノールはスカートをつまみあげて礼儀を示す。スカートを上げるのは目上の人間に対する敬礼だ。

 

「公爵がこのような場所に来られるなど、呼んで頂けたらすぐに参りましたのに」

 

「それだと学園に在籍する君では噂になると思ってね。それより私が来た方がいいと思ったんだ」

 

「公爵である貴方が、ですか?」

 

「無論だとも」

 

 齢にして三十二、息子を二年前に学園に送り出した一人である。確か三男が学園に来ていた。

 

 髭は整えられ、格好からして粛然さと格式高さを感じる。これが公爵かと、エノールは身震いがしたが萎縮することはなかった。

 

「名乗り遅れた。私がマルデリア公爵家の当主、ユレグニス・マルデリアだ。よろしく、エノール君?」

 

「……よろしくお願いします、公爵様」

 

 二人は握手だけで感じ取った。目の前にいるのは同業者ライバルだと。

 

「それで、本日はどう言ったご用件で」

 

「……実はね、君のところで不思議な避妊具が出回っていると聞いたんだ」

 

「父の領地ですね。確かに、はい。そのように聞いております」

 

「……それで、商人に問い合わせをしたところ、君に話を通してほしいと。領地を跨いだ話になるから、雇用主である君が、とね」

 

「雇用主だなんてとんでもない。私は、ただ皆さんにお願いして、協力してもらっているだけです」

 

「……」

 

「……」

 

 この男は公爵でありながら自ら名乗った。例外はあるが、基本的に目下の方が目上のものを当然覚えておくべきだとされている。だから、目上のものが目下のものに向かって名乗る機会はほとんどない。大抵の場合、目下の方が挨拶がてらに確認するからだ。

 

 わざわざ名乗ったのは宣戦布告だ。これから商談をしようという。

 

 エノールもまた、相手が公爵でありながら、おそらく知っていながら制服姿で出迎えた。普通ならありえないことである。二階級も上だ。しかも、相手は同じ貴族の最高位。王宮派閥でもかなり力を持っている部類である。本来なら次期当主として会いに来られたのだと予想して正装で迎えるのが筋だ。

 

 これもまた、エノールが譲歩しないという公爵に対しての『受けて立つ』宣言だ。

 

 目線が混じり合う。バチバチと視線の応酬が飛んで──しかし、今回に限っては公爵が謙る方なので先に目を逸らす。それは敗北宣言ともとれた。


「……実はね、君にそれを譲って欲しいと思って」

 

「……避妊具をですか? 構いませんが……一応用途をお聞きしても? 場合によっては問題が出るかもしれません」

 

「……単純に個人の利用を目的としている。家内の……と言えばいいかな?」

 

「……」

 

 エノールは考えた。相手は公爵だ。慎重に──しかし、最大限利益を貪らなくてはならない。


 相手は謙ってさえ、エノールの上位に立っていた。

 

「……」

 

「……難しいかな?」

 

「いえ、お出しするなら特に。しかし、貴族の方の使用は考えていなかったのですよ。なんというか……実用効果だけを考えた代物でして、華美な装飾はおろか、使用感についてもある程度コスト面で犠牲にしているところがありまして……」

 

「ふむ……怪我をしたりするだろうか。聞くには挿入するタイプだと聞いたが、よくわからなくてな……」

 

「女性器に差し込む棒状のタイプとなっております。避妊率は現時点で100%、商人に調べさせて娼婦の間で統計をとった限りですか」

 

「ひゃ、100%なのか?」

 

「ええ、装着し続ければ、装具に問題が出ない限り使い続けられます。万一を考えるのであれば一年に一度か一ヶ月に一度……我々は庶民相手に三年から五年ほど使い続けられるように設計しておりました」

 

「さ、三年から五年か……それはどれくらいするのだ? その、値段なんだが」

 

「安ければ銀貨一枚もかかりません。うちで出回っているものは数を揃えられるように費用を抑えていますが、それでも銀貨一枚以上かかるものは存在しないかと」

 

「ぎ、銀貨一枚なのか? 金貨ではなく?」

 

「はい、それほど高価でもありませんし。何なら銅貨から直接作れるほどです」

 

「銅貨から直接……?」

 

「素材は純銅ですから」

 

 公爵は考えた。この娘はどう考えてもやり手だ。こういう類の人間に公爵は幾度となくあってきた。無論、貴族ではなく商人であったが。

 

 話がうますぎる。別に金貨一枚でも迷うことはないのだが、銀貨一枚とは庶民の感覚で言っても安い。それで三年から五年は使い続けられるのだ。丁寧に扱えばもっと使えるかもしれない。

 

 公爵の知っている避妊方法は消耗品で都度避妊するというもので、それでも手間がかかって避妊は完璧でない。しかし、必ず避妊できているという。今の所、商人に調べさせて、娼婦の間ではと条件はついているがそれでも相当だ。

 

 公爵である自分相手に嘘をつくとは思えない。それに、エノールの様子を見ても嘘をついている感じはしない。その避妊具の効果を当然としているようだ。

 

 それでも公爵は混乱する。それはあまりにもその避妊具の話が常識から乖離しているからだ。

 

「……避妊具は私が作りました」

 

「君がか⁉︎」

 

「ええ、領内では買春が横行していて、止めようにも止められません。しかし、買春程度ならどうでもよいのです。問題はそれに伴う孤児や貧困層の増加と、その結果起きる犯罪者の増加、治安の悪化──」

 

「むぅ、私もそれは危惧しておった。まさか、こんなものがあるとは……」

 

「なんでしたら、製造方法をお教えしましょうか?」

 

 その言葉に公爵は耳を疑った。

 

「……今なんと?」

 

「素材と製造方法、製造における注意点などノウハウを無償で提供いたします。先程一個当たり銀貨一枚と言いましたが、製造する場合はもっと安く済みます。聞いた限りでは銅貨三枚から六枚と……鍛治職人と純銅さえあれば容易に生産できるでしょう。マルデリア領では鍛治師を抱えていますよね?」

 

「あ、ああ……」

 

「腕のいい鍛治師ならすぐに生産できると思います。効果だけで言っても、それで利益を上げるなら金貨一枚でも飛ぶように売れるかと。娼婦達にとっては生命線ですからね」

 

「……いいのか?」

 

「はい。素材が足りない場合はこちらから商会にお取り継ぎすることもできます。運送しなくてはならないので少々値が張りますが、それでも一個あたりのコストは銀貨一枚を超えないかと」

 

 ユレグニスは単に家内の要望に応えてはるばるこの地までやってきたのだ。これ以上は出産したくないのだと、妊娠や育児の話をこれでもかと聞かされて、そもそもお前は使用人に任せているだろうと思ったが、公爵にしてもこれ以上子供が増えてもしょうがないので聞き入れた。

 

 商人から何やらすごい避妊具が売ってあると聞いて、下手に粗悪品をつかまされるよりはと生産している商会の一つに手紙をよこした。お抱えの証人が稚拙な表現で『すごい』と評するので、それほどかと期待していたが実際に話を聞けば頭を金槌で殴られるようだった。

 

 『すごい』などと子供のような表現になることも頷ける。そういうしかない。これがあれば領地の問題が一つ解決する。それで金儲けをすることもできるし、原価ギリギリで出回らせれば買春による貧困層拡大の問題をすぐにでも解決できるだろう。望まれない子供が生まれることもなくなる。

 

 まさか、自分の妻のヒステリーを聞いて来てみれば領地の話になるとは公爵も予想がつかなかった。アルガルド領のことは聞いているので随分と出し渋られると思っていたのに、長らく家に協力してこなかった商人達を屈服させたというおそらくやり手であろうこの娘は、あろうことか生産方法自体を教えるという。

 

 公爵にしてみればメリットしかない。裏がなさすぎ、ポリポリとこめかみをかいた。

 

「……まさか、調子に乗ってるであろう小娘にちょっと現実を教えてやろうと意気込んできてみれば、私が現実を知ることになるとはな」

 

「私としてもこれで公爵家に貢献できるなら願ったり叶ったりです。我々貴族にとってある程度の金銭は端金。自分のメリットを考えて、これが一番いいと思ったのです」

 

 こともなげにいうこの少女は、やろうと思えば自分の領地で生産して売りつけることもできたはずだ。公爵領相手に金貨一枚で売りつければ相当な金になる。伯爵家は金銭に困っているだろう。

 

 それはエノールが危険を冒してまで半端な金稼ぎをしたり、安全に小金稼ぎをするより、公爵との覚えをよくした方がいいだろうと判断したことの表れでもあった。

 

 ユレグニスの完敗だ。何せマルデリア公爵としては一番利のある結果だったからだ。文句などどこにつけられるだろうか。

 

「君か私のどちらかが家督の立場になければ嫁に欲しいところだよ」

 

「ありがとうございます、光栄ですわ」

 

「私の三男ならすぐにやってもいい」

 

 その言葉にエノールは硬直する。

 

「……その話、本当でしょうか?」

 

「誓って本当だ。公爵は嘘や詭弁ごとを交渉の場で弄さん。商人と違ってな」

 

 ユレグニスはエノールの顔を見てしてやったりという顔をした。まるで子供である。自分がやり込められたことへの意趣返しもあった。

 

「……わかりました。その話、進める方向でお願いします」


「ほう、考えないのか」

 

「公爵を待たせるなんて、誰ができましょうか」

 

「賢明だ。その機転、ますます欲しくなった。三男程度ならいくらでもくれてやる」

 

 エノールはマルデリア公爵の言い草が鼻についたが、公爵にとって三男などその程度だろう。世の中は綺麗事ではすまないのだ。

 

「生産方法について説明した書類を父を通して公爵宛に送らせていただきます。原材料の提供が必要であればいつでも私にご連絡ください」

 

「すまないな、これからもよろしく頼む」

 

「はい」

 

「アレは学園にいるからな。知っているか? 一応私の息子もこの学園にいるのだぞ」

 

「存じております。レガルド・マルデリア様でしょう?」

 

「知っていたか」

 

「伯爵以上の方は全て覚えております」

 

「まったく、長男をやれなくてすまないな。あれも一応うちの嫡子なんだ。次男は放蕩三昧でろくに使い物にならん」

 

「以前拝見しましたが、三男のレガルド様は聡明そうなお方ですわね。学園での成績もいいとか」

 

「君には及ばんよ、エノール君」

 

 マルデリア公爵はにやりと笑みを浮かべて立ち去る。彼にしてみれば収穫物はあまりに多かった。避妊具の生産ラインではない。それについてきたエノールとの縁談の方が土産にふさわしかった。

 

 馬車に乗り込む。従者がすぐに出発し、学園を去った。

 

「……全く、あれが長らく放置されていたとは。嘆かわしいな」

 

 エノールがアルガルド家の出自であり、次期当主という立場でもあるから嫁には行けず、婿を取るしかない。聞く話によればエノールにはただ一度も浮ついた話が出なかったという。

 

「アルガルド家の当主は養子を探していたというし、一体何を考えているんだ……っ!」

 

 公爵は王国の無能の恥さらしとアイジスを心の中で罵った。

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