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バインド・ゲイム  作者: 霧隠タツヤ
第二記録 スキル指南と暗殺者
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22/24

再度相対する恐怖

……酷い、更新が遅すぎる。ごめんなさいm(_ _;)m

 「やっぱり私は行けないか。一緒に死にかけながらも倒したから、一緒に行きたかったんだけどなぁ……」

 翔がNPCと共に洞窟に入って数分が過ぎた。私は近くにあった岩の上に腰掛けながら、クエストの進行に文句を一人で漏らし続けていた。

 翔と共にザ・ソードマンキラーを撃破して、更に翔の背負っている、もう死んでしまった友人の話を聞いたり、励ましたり。この数日の間に、翔との絆はとても深まったように感じている。

 そんな感じで数日前の事を思い出して、思わず笑ってしまう。何しろ私は、約一週間前に裏クエストで翔の事を殺しに来た暗殺者だったのだから。

 今思えば本当によく、翔は私の同行を許してくれたものだ。普通自分を殺しに来た人間をそのまま仲間になんてできるはずも無い。そんなことができるのは相当な馬鹿か、それか相当なお人よしだろう。翔は一体どっちなのだろうか。

 ぶらぶら足を動かしながらそんなことを考えていたが、段々退屈になってきた。翔がいつクエストクリアして出てくるのかわからないし、前のところで待っていようと思っていたが、さすがに暇になってきた。私はステータス画面を開くと、クエスト受諾メニューを開いた。

 クエスト受諾メニューには、過去に各町やダンジョンにいるNPCから受けたクエストが表示されている。一度受けたクエストは、例え破棄しても履歴に残るため、履歴からそのままクエスト受諾が出来る。

 私はクエスト履歴をざっと流し見し、この森周辺で、簡単にクリア出来そうなクエストを探す。大抵が他の町やダンジョンでしかクリアできないものばかりだったが、二つだけこの森でクリア出来るクエストがあった。


 クエスト 滝に潜む潜蟹を10匹退治せよ

 クエスト 森の何処かにある木の実を採取せよ


 二つを見比べ、クエスト難易度や達成目標的に簡単な潜蟹の退治クエストを選択し、受諾する。クエスト受諾特有の効果音が鳴り、ステータス画面に詳細が表示される。ここから歩いて2分、滝壺の中に潜む蟹を退治すればいいらしい。

 私はクナイをオブジェクト化し、装備する。そして視界にマップを表示させ、その滝まで走っていく事にした。敏捷力重視の職業である忍者の私なら、全力で走れば30秒でつけるだろう。

 「それじゃ、暇つぶしに行っちゃおう!」

 翔へ近くのクエストに挑戦しに行くこと、終わったらさっきの崖に戻ることをメールで送り、森の中を駆け出した。雲一つ無い澄みきった空、走る私を優しく撫でる風、風に漂いなびく草花。全てが優しく、素晴らしいものに感じた。



 こんな森の中で、モンスターには効かない隠蔽スキルをあんなに強くする必要があるのか……?

 洞窟から出た俺はNPC師匠と別れ、外で待たせていた忍と合流するために約束の場所まで出てきた所だった。忍からのメールでミニクエストを攻略して来るという連絡を受けた俺は、忍のいる場所まで行こうと歩き始めようとしていた。だが、俺の使用していた探索スキルにヒットしたプレイヤーが、かなり異質だった。

 通常、モンスターに隠蔽スキルは通用しない。人型など一部のモンスターには使えるが、ここにいる森のモンスター達には一切通用しないのだ。

 だがこのプレイヤーは、何故か隠蔽スキルをかなり高レベルで発動させていた。俺の探索スキルにひっかかるギリギリ、かなりの練度だ。何故そんなことをする必要があるのか、俺が思いつく要素は一つしかなかった。

 PK、すなわちプレイヤーキル。おおよそこのスキルの使い道はそれしかない。バインドゲイムでは他プレイヤーのキルが可能で、アイテムドロップも存在した。所持品目的のプレイヤーキラーも存在した。それはどうやら極似しているこのバインド・ゲイムでも同じらしい。(忍が受けていた裏クエストがこれだろう)

 今俺の探索スキルにかかる範囲にいるプレイヤーは奴を除いてただ一人、忍しかいない。奴が一直線に忍に接近しているのも、無関係ではあるまい。

 「くそっ、急がないとまずそうだ」

 悪態をつきながら忍の反応がある方向へ走る。奴の反応がどんどん忍へ近づいていく。

 ……間に合え、間に合え!

 焦る気持ちを抑えながら、俺は忍に警告メールを送りつつ、全速力で森を駆け抜ける。全ては過ちを、繰り返さないために。



 「よし、このぐらいでいいかなっ、と」

 目的のモンスターを狩り、規定数に達した事を表すメニュー画面が目の前に出現する。金文字で綴られたBrilliant(素晴らしい)の文字に思わず顔が綻ぶ。ただ低レベルモンスターを倒してそのドロップ品を集めるという簡単なクエストだったが、それでも達成した時は嬉しいものだ。

 「あとはここをこうして、達成っと」

 ウィンドウを操作し、報酬のアイテムを受け取る。小さな鈴の音が鳴り、メニュー画面に受け取り完了の文字と共に報酬である幾つかの回復アイテムが格納された。そこまで操作してから、近くにあった大きな切り株の上に腰を下ろす。

 ーーそろそろ翔さんのクエストも達成されたかな?

 そう思ってメッセージを開くが、まだ特に連絡は来ていない。早く終わりすぎちゃったかなと苦笑いしてウィンドウを閉じようとした私だったが、その直前に新たなメッセージの受信を示す表示とピロンッという電子音が鳴った。送信者は予想通り翔さん、私は少し高鳴った胸を抑えながら、即座にタブをタップして表示させる。だがそこに書かれていた内容は、私の予想とは全く違うものだった。

 『気をつけろ。確証はないけど、怪しいプレイヤーが近くにいる』

 「えっ……どういうこと?」

 突然の警告メッセージに困惑する。町からそこまで遠くないこの森に来るプレイヤーなんて特に珍しくない上に、怪しいなどとどうしてわかるのだろうか。疑問を抱きつつ探索スキルを発動させ周囲を探索してみるが、モンスターは数いれど周囲にプレイヤーの存在は確認できない。

 翔さんの見間違いなんじゃ……。そう思った私は翔さんにメッセージを送ろうとした。その瞬間だった。

 「やぁぁっと見つけたぜぇ!」

 全身に伝わる悪寒。反射的に飛び退こうとした私に、木々の影から現れたボロボロの茶色いローブを着た男が必殺の一撃を放つ。一直線に突きこまれた刀が私の鳩尾の下を刺し、衝撃となって吹き飛ばされる。あまりの衝撃で痛みも忘れ、何が起きたのか理解できずに目を白黒させる私に、だが追撃してくる様子のない男がゆっくりと振り向いた。

 「よぉ。今度は逃さねえぜ、くノ一」

 私を狙う狂気の紅い瞳が私を捕らえて離さない。自覚のないまま急に震えだす体。なんで……なんでこの男がまだここにいるの……?

 舌なめずりをしながらゆっくり近づいてくる男を、恐怖で逃げられもしない私はその場で震えている事しかできなかった。



 「くそっ、間に合わなかったか!」

 視界の左端に表示されたHPゲージ、俺の下に表示された二つ目のゲージが四割も急激に減ったのを見て、思わず悪態をつく。探索スキルが指し示す方向へ一直線に走りながら、俺は敵襲を受けているであろう少女の無事を祈る。

 俺のHPゲージの下に表示されているのはもちろんパーティメンバーの忍のものだ。さっきまでも一割を下回らない程度のカスダメは何度か受けていたが、ここまでしっかり減ったのは今がはじめてだ。ここのモンスターはイベントボス以外はそこまで強いものはいない。幾ら紙装甲の職業『暗殺者』でも一撃でここまでのダメージを受けるとは到底考えられない。

 それに、追跡していたプレイヤー反応がもう一人のプレイヤー反応とぶつかった瞬間に忍のHPゲージが減ったことから、間違いなく俺の追跡していたプレイヤーが忍を攻撃したのだろう。嫌な予感が的中し、苦虫を噛み潰したような気分になる。

 とにかく一刻も早く忍の所へ向かわなければ、下手をすれば忍が殺されてしまいかねない。俺はぐっと足を踏み込み、飛ぶように忍の元へ駆ける。忍のHPゲージは徐々に減少していき、その度に体に変な力が入った。

 「頼む、耐えてくれよっ!」

 俺の呟きは駆け抜けた森の中に、静かに紛れ込んでいった。



 「よう、この間はよくも逃げてくれやがったなぁ!」

 絡みつくような恐怖が私の体を這い回る。あまりの衝撃に頭が思考を放棄し、ただただ目の前の男に対する恐怖のみが膨れ上がる。男はニタニタと下卑た笑みを浮かべながら、だらりと下げられた右手に持つ大振りの刀をゆっくり持ち上げた。輝く切っ先が向けられ、思わず体が強張る。

 「この前まで日銭を稼ぐようなちんけな任務しか受けなかったお前が、急に暗殺任務なんて大仕事受けたと思ったらそのまま失踪。口封じに始末に来てやったらレアアイテム使ってトンズラ。よっぽどいいもん持ってたんだなぁ、お前が殺したプレイヤーは」

 男の見立てに、私は慌てて首を左右に振る。この男に弁解したところで何も変わらないが、あの人の名誉を傷つけるような言動だけは許せない。

 「ち、違います……。私は、もう嫌になって逃げただけで……。上手く行けば暗殺対象に殺してもらえるかなって思ってただけ……。それに、翔はこんな私を助けてくれて……。あのアイテムだって、私を気遣って……」

 「ま、お前のそんな事情はどうでもいい」

 男はバッサリと私の言葉を遮ると、切っ先を向けていた刀を腰溜めで構えた。スキル発動の光が刀に纏い、紫のライトエフェクトがスパークのように迸る。

 「俺はただこのゲームで、思う存分プレイヤーキルを楽しめればそれでいいんだからなぁ!」

 強烈な殺気。思わず後ずさり、咄嗟に後ろにあった大木の後ろに回り込んでしゃがみこんだ。

 瞬間、すぐ耳元で聞こえる炸裂音。首筋に掠めるように突き出された刀。貫通した大木が音を立てて倒れ込もうとする。そして聞こえた男の声。やけに大きく聞こえたその声は、倒れる大木の音など意識の外に弾き出すように頭の中に木霊した。

 「精々無様に逃げな。俺に捕まった時、それがてめぇの最後だからよぉ」


 

 「おいおい、もうお終いかぁ?くたばんの早すぎだろ」

 息が乱れる。呼吸がまともに出来ない。視界が霞む。けど止まれない……

 あの男の襲撃から数十分後、私は無我夢中で森の中を逃げ回り、そして今、遂に追い詰められてしまった。後ろには断崖絶壁、登ろうにも私のクライミングスキルでは到底不可能。途中で落下してしまうだろう。だがこうしている間にも、男はニタニタと下卑た笑みを浮かべながら近づいてくる。なんとかしなければ、殺される……

 「この間の転移石、あれはどうやらクールタイムが必要らしいな。逃げてる途中に使おうとして絶望してた顔、最高だったぜぇ?」

 「っ!気づいてたの……」

 そう、翔に貰った転移石を使って、また翔のところへ逃げようとした。でも石は何も反応しなかった。一度きりなら使ったら消滅するはずなのでおそらく何回も使用可能だが、すぐに使える訳ではないらしい。こんなことならちゃんと確認しておくべきだったと悔やむが、今更どうしようもない。

 「さあ、捕まっちまったなぁ。さて、最後に言い残すことぐらいは聞いてやるぜぇ?」

 刀をトントンと肩に当てながら男が言う。ここまでか。妙に落ち着いた感じがする。人間、死ぬ間際になると変に冷静になるっていうのは、あながち間違いではないらしい。

 「……待つのも暇だしもういいか。あばよ、てめぇのアイテムは俺が有効活用してやるからよ」

 上段に構えられた刀がライトエフェクトを発し、スキル発動が秒読みになる。どうすることも出来ず、ただ俯いて、スキルによってHPゲージが消し飛ばされるのを待つしかない。怖い。だけど、もうこれで終わり……。

 「……助けて、翔、さん」

 届かぬ言葉が零れて消える。そのまま、狂気の刃が私を殺す。ただそれを待っていた。

 「ギリギリセーフ、かな?」

 体を襲う衝撃の代わりに聞こえた声は、私を救う希望の一言。思わず顔を上げ、目を見開いた。

 そこには、男の刀を片手剣で受け止める、翔の姿があった。

次は短いですが、すぐに更新する予定です

評価など宜しくお願いします、頑張ります……

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