森での生活 3日目
久しぶり過ぎて覚えていてくれている人がいるか心配です……
昨晩のThe Swordman Killerとの戦闘が終わり、拠点に帰還した俺と忍は、武装解除とほぼ同時に倒れ込むように眠った。それほどにソードマンキラーとの戦闘は、俺達の精神と体力を削っていた。
特に最後のHPゲージで発動した耐斬撃刺突スキル。俺達の武器は全くダメージを与えられなくなり、危うくここで死ぬところだった。
だが優真の形見であるデザートイーグルのおかげで、俺達はソードマンキラーを倒し、こうして昨日も生き延びることができたのだった。あの時優真の気配を感じたのは気のせいだったのだろうか。だけど俺は、例え気のせいだったとしても、優真が守ってくれたと信じる事にした。シルバーメタリックに輝く銃は、今日も俺が大切に持っている。
「ふぁ……ここは……?」
拠点でシュナイデンライトやデザートイーグルの耐久度チェック、熟練度チェックをしていた俺は、近くの床に敷いた布団から起き上がろうとしている少女の気配に気がつき、顔を上げた。
「おはよう忍。よく眠れたか?」
布団で寝ていた黒髪の少女は忍。俺のパーティメンバーで忍者のジョブを持っている。元々は俺を殺しに来た暗殺者で、色々あっていつのまにか仲間になっていた。
「はい……おかげさまで……」
目を擦り眠そうにしながら答える忍。忍も昨日の戦いで相当疲れたようで、今までずっと眠りつづけていた。それに忍は昨日、俺を庇ってボスの攻撃を受けたのだ。結果的に死ななかったからよかったが、危険な状態だった。今は全快したので問題無いが、あの事がトラウマになり、今後戦闘が出来なくなる可能性もある。
「あれ、私、どうしてこんなところに……?」
「……昨日のこと、覚えてないか?」
辺りをキョロキョロ見始める忍。もしかして、昨日の戦いのことを覚えていないのか。そう思った矢先、突如忍が震えはじめた。
「あ……あ……私……あのモンスターの……攻撃を……」
「落ち着け忍。もう大丈夫だ」
ふわっと忍を抱きしめる。ビクッと忍の体が強張るが、それでもそのまま優しく抱きしめる。しばらくすると、忍の体はゆっくりと震えを止めていった。
「大丈夫、大丈夫だ。安心しろ、俺がいるから」
俺は二歳年下の妹を慰める時と同じように、優しく忍の頭を撫でる。こんなこと程度で死の恐怖が和らぐとは思えないが、気休め程度にはなるかもしれない。そう思い、そのまま続ける。忍の体の震えは収まり、それと同時に、忍は嗚咽を漏らして泣き出した。
「ど、どうしたんだよ!?まだ何か怖いことでもあったのか!?」
突然泣き出した忍に、オロオロしながら問う俺に、忍は首を横に振って答えた。
「いえ……嬉しいんです……。建前じゃない、本当の優しさを、持って接してくれる……。そんな人が、すぐ隣にいて支えてくれることが、私はとても嬉しいんです」
忍の言葉を聞いてはっとする。俺からすれば、周りには優真がいたし、委員長もいた。だけどこの少女はどうなんだろう。
このバインド・ゲイムのシステムでランダムに選ばれた職業、忍者。暗殺者という明らかに他のプレイヤーからすれば厄介な敵である彼女を、誰が優しく迎え入れただろう。ひょっとすると、このデスゲームが始まった時から、既に彼女は一人だったのではないだろうか。
「そうか……大変だったんだな……」
ゆっくりなだめるように、忍の背中をさする。
「ごめんなさい……迷惑かけてしまって……」
「気にするなよ。お前はもう、俺のパーティメンバーなんだからな」
そう言ってもう一度頭を撫でる。忍は泣きながらも、とても幸せそうな、嬉しそうな笑顔をしていた。
「ありがとう、ございました。もう大丈夫です」
数十分後、泣き止んだ忍は、泣き腫らした顔を向けながら、それでも少し笑顔を浮かべて俺を見た。
「ああ、落ち着いたようでよかったよ」
俺も忍に微笑み返す。大分落ち着いたようだ。もし少しでも俺の行動が忍を落ち着かせるために必要だったらいいなと思った。
「それじゃ、朝ご飯にしよう。まあ、もう昼近いんだけどな」
そう言って、忍が眠っている間に作っておいた朝食を簡易テーブルに並べる。作ってすぐにアイテムストレージの中に入れておいたので、作り立てのように湯気をたてていた。ぐ~っと忍のお腹が鳴る。
「ほら、冷める前に食べな」
「……で、ではお言葉に甘えて……」
俺に促され、忍は箸を手に取り、そして一気に食べはじめた。
「あんまり慌てすぎるなよ」
そう言って苦笑いしながら、一心不乱に箸を進める忍を見る。この嬉しそうな表情を、このゲームの中でも永遠に失わせたくない、そう思った。
「そういえば、昨日のモンスターって、結局どうやって倒したんですか?」
忍が食事を終え、後片付けをしながら、簡易テーブルに置いてあるシュナイデンライトを整備している俺に向かって聞いてきた。そういえば昨日の戦闘で、忍はソードマンキラーの攻撃から俺を守ってくれた後、そのまま気絶するように眠ってしまった。なので最後、俺がどうやってソードマンキラーを倒したのか知らないのは当たり前だった。俺は簡易テーブルの隅に大切に置いていたデザートイーグルを手に取り、忍に見えるようにした。
「斬撃刺突耐性が付与された後、不意に思いついたのが銃撃だったんだ。銃撃は一応打撃属性に入るからな。だからこのハンドガンで、ソードマンキラーを撃ち抜いたって訳だ」
忍は納得の表情を浮かべるが、ふと疑問の表情に変わった。何があったのかわからず、俺は首を傾げながら忍の言葉を待つ。
「翔さんの素晴らしい閃きは分かったんですが、翔さんの職業は剣士ですよね?よくそんなレア銃なんか持ってましたね」
言われて気がついた。今のところ、ショップに並んでいる銃は銃士の初期装備である銃と、ゲームオリジナルの光学銃しか存在しない。現実の銃と同じ銘、同じ形の銃は、今のところとても貴重だろう。俺も、優真がいつこのレア銃を手に入れたかは知らなかった。
「前にパーティ組んでた、クラスメイトの奴の銃なんだ。どこで入手したかは知らないけどな」
「そうなんですか。でもなんでそんなレア銃をあげたりしたんでしょう?翔さんの職業を知らなかったんでしょうか?」
そう言われて、俺は言葉に詰まった。この銃は優真の形見。俺のせいで死んでしまった大切な親友の、大事な装備品だからだ。
「……死んだんだ、モンスターに囲まれて、俺を逃がすために」
「…………!」
「……俺が、殺したんだ。あの時、俺が欲張らず、指定された数だけアイテムを取っていれば。あの時、俺が油断せずにモンスターを狩りきっていれば。優真は、死ななくて済んだのに……」
「翔さん…………」
場に訪れる沈黙。やっぱりこの話はするべきじゃなかったかな。そう少し後悔しながら、シュナイデンライトを装備し直し、デザートイーグルを簡易テーブルにそっと置く。
「ごめんな、こんな暗い話しちゃって。ちょっと体動かして来るよ」
そう言って簡易テントを出ようとしたとき、後ろから「翔さんっ!」と声がかかった。
「私、その場にいなかったから翔さんの苦しみはわからないですし、こんなこと言える立場じゃないことは知ってます。けどこれだけは言わせてください。優真さんにとって、きっと翔さんは、自分の命を犠牲にしてでも守りたい人だったんです」
俺はテントから出る直前で立ち止まり、忍の言葉を聞いていた。
「誰も死にたくなんかないでしょう。私だってそうです。でもそれでも、絶対に守りたい人はいます。たとえ、自分を犠牲にしたとしても。優真さんにとって、その人の内の一人が、翔さんだったんです」
いつのまにか俯いていた。体は小刻みに震え、呼吸が乱れはじめる。
「だから自分を責めすぎないでください!優真さんだって、自分を責めつづけて暗い顔をする翔さんを、見たくないと思います!」
不意に背中に温もりを感じた。それが、忍が後ろからそっと抱きついてきたのだと認識するのに、少し時間がかかった。
「だから、もう少し自分を許してあげてください。何か聞いてほしい事があったら、私が聞きます。泣いたっていいんです。泣くことは、決して悪いことじゃないんですから」
その言葉で、俺の中の何かが、音を立てて崩れた。それはきっと、優真を死なせてしまった自分を責めつづける、枷のようなものだったんだろう。堪えきれない涙が、目から溢れ出して床に滴り落ちる。
「くうっ、くっ……ううっうっ」
堪えようとしても、後から後から流れて来る涙は、どうやっても止まらない。それどころか、どんどん涙は溢れて止まらない。
「うっううっ……うわぁぁーー!」
大声を上げて泣き出す俺を、忍はしっかりと抱きしめてくれている。優真を失ったときとは違う、一人じゃないという状況。俺は、一体どれだけ忍に救われただろうか。
簡易テーブルの上に置かれたシルバーメタリックのデザートイーグルが、窓から差し込む光を受けて、一瞬優しく煌めいた。
『ほら、もう泣くなよ、翔。もうお前は一人じゃない。こんなに良いパートナーに巡り会えたじゃないか』
そのすぐ近くで、優真が優しく微笑みながら、そう言っているように見えた。
三ヶ月以上も更新出来なくてすみませんでした……
読んでくださった皆さん、次回も是非読んでください!




