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バインド・ゲイム  作者: 霧隠タツヤ
第二記録 スキル指南と暗殺者
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19/24

森での生活 2日目 決戦

「なっ何なんですかあのモンスター!」

 ボス級モンスター「The Swordman Killer」のプレッシャーに耐え切れず、忍が怯えた声を上げる。今まで命を狙われ、一瞬ほっとしたのもつかの間、今度はボス級モンスターと遭遇するなど、気が休まることがないのだろう。俺の後ろに隠れて小刻みに震えている。俺は優しく忍の頭を撫でて安心させようとする。この程度で落ち着くとは思えないが、何もないよりはましだろう。

 「忍、落ち着いて、今は忍は一人じゃない。俺だって、こんなところで死んでやるわけにはいかないさ。きっと勝てる、俺達なら!」

 

 

 「……!」

 私の前に、一筋の希望の光が差し込んだような感じがした。このゲームが始まり、自動的に決められる職業で当てられた忍者。このゲームの忍者は暗殺者のこと。他のプレイヤー達から忌み嫌われ、避けられつづける日々を過ごし、次第に擦り減っていった精神。そんなときに救いをくれたこの人が共に戦ってくれる。それだけで、私にとっては、ボス級モンスターが与えて来るプレッシャーなど、気にならないようになっていた。

 「ありがとうございます、おかげで落ち着きました」

 体の震えが無くなる。不思議なぐらい体が自由に動いた。誰かが隣で支えてくれると、ここまで変わるのだと、この時私は初めて知った。

 

 

 「さあ、そろそろ始まるぞ」

 落ち着きを取り戻した忍の頭を撫で、俺は完全に姿を現した『The Swordman killer』に向けて剣を構える。探索で調べた結果、昨日よりもレベルが10ぐらい上がっている。さらに昨日戦ったときとは違うスキルを持っているようだ。探索スキルでは一度敵が使ったスキルしかわからない。なので、新しく追加されたスキルは、一度受けなければどんなものかわからない。普通ならもっと沢山の人とで攻略するレベルのボスに二人で挑まなければならないという緊張感が、俺を包み込んでいた。

 「来ます!」

 「……っ!」

 忍の声で反射的に後ろへ跳ぶ。目先十センチの所を凄いスピードで刀が通っていく。死を意識し、冷たい汗が体から出てきた。ステップしながら下がり構え直す。

 「大丈夫ですか!?」

 忍の声がモンスターの反対側から聞こえる。もうあんな所まで行ったのかと驚くほど素早い動きだった。

 「ああ、大丈夫だ。それより、このモンスターには速さが通用する。だから走りながら隙をみてスキルを打ち込んでくれ!」

 「わかりました!……はぁぁ!」

 返事をしつつ尚も走りつづける忍のクナイに、赤い光が集まっていく。走るスピードをそのままに、モンスターの懐目掛けて一直線に突っ込んでいく。そして次の瞬間、モンスターの腹に四本の切断エフェクトが入る。短剣用即撃型四連撃スキル『フォースカッター』、短剣のリーチの短さという欠点を補うスピード重視の四連撃。いきなり懐に入られ攻撃を受けたソードマンキラーはうめき声をあげながら一瞬硬直した。その瞬間を逃すわけにはいかない。忍の使うスキルを先読みした俺は、その一瞬にソードマンキラーの背後に周り、白い光を纏ったシュナイデンライトを助走をつけながら切りつける。

 「いっけえええ!」

 シュナイデンライト専用スキル『ライトスラッシャー』が忍が切った四本の攻撃エフェクトのど真ん中を一直線に貫く。

 「グオォォォォォ!」

 俺達の連続攻撃を受けて四本ある体力ゲージの一本を削り取られたソードマンキラーが、怒り狂ったように吠える。そしてそれが、新たなスキルの発動だった。

 「っ!なんだ、地面が……!」

 「な、なんですかっ、……きゃっ!」

 突如地面が揺れはじめ、バランスを崩した忍が倒れた。そして一瞬目を離していたソードマンキラーは、倒れた忍に向かって刀を振り下ろそうとしていた。

 「……!、危ない!」

 ソードマンキラーの攻撃に気がついて走り出すが、余りにも距離が離れすぎている。このまま行っても数秒遅いだろう。そしてその数秒で、『バインドゲイム』内において最も防御力が低い職業の忍者である忍のHPは余裕で全損してしまう。このままでは忍が死んでしまう、そう思った俺の脳内に、俺を庇って死んだ優真の姿が写る。もう大切なパーティーメンバーを死なせたくなんか無い!俺の無言の叫びは、俺の愛剣に通じたようだった。シュナイデンライトに再び白い光が集まり、そして加速する。スキルをモーション無しで発動させることは不可能なはずだが、今はそんなことを考えている暇は無い。スキルをソードマンキラーが振り下ろす刀の先端に当てるよう狙ってただ一直線、矢のように突っ込む。

 キィィィン

 忍に当たる寸前、横から突っ込んだ俺のスキルが、ソードマンキラーの刀用単発重攻撃スキル『氷裂ヒョウレツ』を刀ごと弾き飛ばす。ソードマンキラーの手から離れた刀は、森の木を切り倒しながら地面に突き刺さった。

 「大丈夫か、忍!」

 スキル使用後の硬直が解けた瞬間、俺は今まで攻撃されようとしていた忍に声をかける。

 「は、はい、大丈夫です」

 驚きに満ちた表情で俺を見つめる忍を安堵の表情で見下ろした。よかった、HPの減少はしなかったようだ。だけどそう長く安心している暇は無い。刀を飛ばされたソードマンキラーがこちらを警戒しながら刀を取りに向かっていた。刀を取り戻したソードマンキラーにまたすぐ攻撃されてはたまらない。俺はシュナイデンライトを構え、反対の手を忍へ伸ばす。

 「さあ、刀を失った今がチャンスだ。行けるか、忍?」

 「……、はい、行けます」

 しばらく呆然としていた忍だが、視線を外すと、差し出した俺の手を握って起き上がった。そしてギュッとクナイの柄を握り直すと、小さな声で、俺に向かって言った。

 「……助けてくれて、ありがとう、ございました」

 「……!、ああ、どういたしまして」

 そう返す俺の横を通り抜けていく忍の顔が、少し紅く染まっているのを、俺は気づいていなかった。

 

 

 ……かっこよかった。それが私の素直な思いだった。ソードマンキラーというボス級モンスターによって起こされた振動に足を取られ、転倒してしまった私を、危険を省みず助けに来てくれた翔。一歩間違えば自分が攻撃を受けて、最悪死んでしまったかもしれないというのに。

 助けてくれた後に差し出された手、この戦況で笑いかけられる強さ、そして優しい笑顔。まともに顔を見れなくなって、たまらずに目をそらした。こんな気持ちになったのは初めてだ。何か不思議な気持ち、この気持ちが何なのか、私にはわからない。ただ、これだけはわかった。突然放り込まれた、HP全損=死という過酷なゲームのような世界、他のプレイヤーから嫌われる忍者の職業になったりして続いた不幸は、この人に出会った瞬間から、幸福に変わっていたんだと。

 だから私は戦う。翔と一緒に、この世界から生きて帰るために。

 

 

 「来るぞ、右後方へ跳べ!」

 キィィィン、ガキィィィン……

 「今です、スキルチャンス!」

 キュィィン、ズバッ……

 「ヴォォォォ!」

 キン、キン、キン、キーン……

 そろそろ戦闘開始から二時間が経過しようとしていた。俺達のコンビネーションはどんどん上達し、ゆっくりとだが確実にソードマンキラーの体力を削っていた。シュナイデンライトの白い光が一直線に貫き、クナイの赤い光が一瞬で四本の筋に変わって荒れ狂う。スキル使用後の硬直を狙って放たれる相手のスキルを、先に硬直から解けた方が弾く。大きく刀を打ち上げ、隙が出来た瞬間にスキルを叩き込む。さっきの振動攻撃以降、使って来るスキルはプレイヤーも使う刀スキルだけだったので、俺が回避の方法を忍に教えるだけで難無く防げた。

 「よし、あと一ゲージだ、最後まで気を抜くなよ!」

 「はい、絶対倒しましょう!」

 ついにソードマンキラーのHPが最後のバーにまで減った。大抵のボス戦では、ラスト一ゲージは防御より攻撃優先で、スキルを使って一気に削り切るのが普通だ。そのことは忍もわかっているらしく、少し前を走る忍のクナイが紅く染まっていく。俺もライトスラッシャーを打つため、シュナイデンライトに白い光を纏わせる。そこからは、スキルのぶつかり合いによるスピード勝負になった。

 ソードマンキラーの刀用広範囲殲滅スキル『拡滅カクメツ』が突撃する俺達を捕らえ、一気になぎ払おうとする。

 だが遅い。拡滅を打つために刀に黒い光が集まった頃には、もう俺は光の矢のように一直線に突っ込んでいる。ライトスラッシャーがソードマンキラーの軸足を貫き、巨体を支えきれずに後ろに倒れ込む。もちろん打つ前だった武器スキルはキャンセルされ、集まった黒い光が辺りの空間に四散する。

 その絶好のスキルチャンスに飛び込んできたのは、紅く染まった短剣。短剣用即撃型四連撃スキル『フォースカッター』。荒れ狂うように放たれる神速の連続斬りは、ソードマンキラーの弱点である眉間の宝石をえぐり、大ダメージを与えた。レッドゾーンにまでHPが減少し、与えられた大ダメージでスタンしたソードマンキラーに、スキル使用後硬直が解けた俺が、黒に染まるシュナイデンライトでとどめの一撃を放つ。

 シュナイデンライト専用スキル『ナイトメア・インパクト』。現在の俺の最強のスキルで、単発であるかわりに通常の攻撃の約四倍以上の威力を誇る漆黒の一撃。

 「これで……終わりだぁぁぁぁ!!」

 光を飲み込む漆黒の剣が、スタンしたソードマンキラーを真っ二つに斬り裂く。そしてそこで、時が止まったように感じた。

 

 

 「……っ、かはっ……」

 「翔……っ!」

 気がつくと俺は、ソードマンキラーによって近くの崖に叩きつけられていた。慌てて駆け寄った忍が回復用ポーションを俺の口に突っ込む。幸いにもそこまでHPが減っているわけではなく、すぐに全回復出来そうだ。だがそれ以上の問題が、俺達の目の前に立ちはだかっていた。

 「なんで……どうして倒れないんだ!?」

 ソードマンキラーのHPゲージは、忍が最後に打ったフォースカッターから、ほんの数ドットしか減っていない。もし一撃で倒せない威力であったとしても、余りにも減っていない。一体何故……。

 その答えはすぐにわかった。一度切っていた探索スキルを使うと、モンスターの形態変化の警告アラームが鳴り響いた。形態変化、これが起きると、今まで弱点だった武器に耐性を持ったり、モンスターそのものの属性が変わったりする。そして今回ソードマンキラーに起こった形態変化はーー

 「なっ……嘘だろっ!」

 「そんな、まさかっ!」

 耐斬撃刺突、しかも耐性LvMAX(全ての斬撃刺突ダメージを1とする)。つまり、俺達はもうソードマンキラーにダメージを与えることがほぼ不可能になった、というわけだ。

 「くそっ、どうしろっていうんだよ!」

 苛立ちを近くの岩にぶつける。岩はボロボロに砕け散ったが、俺を冷静にさせるには到底至らなかった。俺の持っているシュナイデンライトは片手用直剣、ダメージ判定は斬撃。忍の持つクナイは短剣、ダメージ判定は刺突。俺達の武器では全てダメージを1にされて、全くダメージが入らない。長期戦になれば俺達が圧倒的に不利だ。最後には集中が切れて殺される。どうする……どうすれば、あと少しのHPを削りきって、この戦いに決着をつけられるんだ……!

 「くそっ、くそぉぉぉぉっ!」

 「……!、駄目っ、翔っ!」

 制止する忍を振り切り、広範囲殲滅スキル『ダブルアート』をソードマンキラー向けて叩き込む。今までなら多少はダメージが入った攻撃だが、斬った場所には透明なシールドのようなものが張られ、ダメージはまた減衰されてしまう。

 「っ!やばっ」

 減衰されたダメージでは、相手をスタンさせたりすることも出来ない。しかも武器スキルを使った直後は硬直して動けなくなってしまう。普段なら意識して無理に突撃したりしないが、今の俺は冷静じゃなかった。このままではソードマンキラーの攻撃を無防備の状態で受けてしまう。ソードマンキラーの刀が黒く染まっていくのをただ見つめているしか出来ず、刀用突撃型重攻撃スキル『穿囓ウガミ』に貫かれる所を想像してギュッと目をつぶった。

 「うっ……」

 「……!」

 だが俺にダメージは無かった。素早さを生かして飛び込んできた忍が、俺の身代わりに攻撃を受けたのだ。

 「おい、忍、しっかりしろ!」

 吹き飛ばされた忍に駆け寄る、忍は荒い呼吸を繰り返していた。急いでHPバーを確認すると、あと一割程しか残っていない。すぐさま回復用ポーションを飲ませるが、回復には相当な時間がかかるだろう。その間に攻撃されれば、忍は最悪死んでしまうかもしれない。だがそれ以上に、俺の中には、またあの光景が写し出されていた。その時も、俺は冷静さを失い、無茶な突撃をしたことで大切な友達を死なせてしまった。今も同じだ。また冷静さを失って突っ込んだせいで、忍が危険な目にあってしまった。

 落ち着け……落ち着いて考えるんだ。この絶望的な状況から抜け出すチャンスを……。

 ……そうだ、相手はソードマンキラー、日本語に直訳すれば……『剣士殺し』。ならばーー

 思い立った瞬間、いやそれ以上先に、体が勝手に動いていた。ウィンドウを表示させ、装備品の所を選択。武器の中から、友達の形見である、『デザートイーグル』を呼び出す。

 ソードマンキラーは、何やらこそこそ操作する俺に向けて、また武器スキルを発動させる。この操作が間に合わなければ、俺が狙いを外してしまえば、そして、この予想が外れていたら、この攻撃で俺も忍も殺されるだろう。

 だけど不安は無かった。何故か必ず当たる気がしたから。まるで、誰かに誘導されるかのように、シュナイデンライトのかわりに現れたデザートイーグルをリロード、ソードマンキラーに向けて構える。一度目をつぶり、一気に見開く。

 バキュン

 静かに引かれた引き金。一直線に飛ぶ弾丸。その弾丸は狙い通りーー

 ソードマンキラーの眉間を撃ち抜き、微かに残っていたHPを残らず吹き飛ばした。断末魔の叫びを上げポリゴンと化すソードマンキラー。そのポリゴンを見ながら、後ろで寝息をたてる忍の存在を感じ、そして手に残る拳銃を握る。

 「ありがとうな、優真……」

 そう呟いた俺を優しく見守るように、優真がすぐそこに居るように感じた。

更新が無いときも読んでくださって、本当にありがとうございます。

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