森での生活 2日目
「はぁ……はぁ……はぁ……」
視界が霞む。息切れが激しい。頭が痛い……
今すぐに走るのを止めたいと思う自分を必死で押し止め、限界ギリギリのスピードを出し続ける。木の根っこや切り株につまずきそうになったり、転びそうになったりしても構わずに疾走する。
「ほらほらぁ、本気で逃げねえと、すぐに捕まっちまうぜぇ~」
後ろからバキバキと木が折れる音と共に聞こえて来る男の声に、思わずビクッと反応してしまう。ダメだ、あいつには、あいつだけには、捕まるわけにはいかない。私は、こんなところで殺されるわけにはいかないんだ。そう自分に言い聞かせてさらにスピードを上げる。だが男の声は、さっきよりもすぐ近くで聞こえるような気がする。
ああ、こんな時、あの人なら、私を助けてくれるだろうか。一度殺そうとした相手に助けを求めた所で意味が無いのは知っている。しかも相手はあの男だ。無駄に死にに来るような行動をとる馬鹿はこのゲームにはいないだろう。でもあの人は、パーティーメンバーになって二日目で、私の心配をしてくれた。だからせめて、少しだけでも、私に希望を持たせてくれないだろうか。私は手を胸の前で組み、彼に貰った転移石を握って、祈るように、名前を叫んだ。
「助けて……、助けてっ、翔!」
「ふわぁ……ぁぁ。もう朝か……」
眠たい目を擦る。テントに差し込む朝日が、俺の意識を半強制的にたたき起こす。かばっと勢いよく立ち上がって大きな伸びをする。
「それにしても、昨日のあいつは驚きだったな……」
俺は昨日の夜、突如出現したボス級モンスター『The Swordman Killer』との戦闘を思い出して身震いした。昨日の戦闘ではまだ相手のスピードが遅く、俺のウェボンスキルを使うだけで倒せたが、師匠が言っていた『三日間』という言葉から、恐らく後二回、もしくはそれ以上昨日のようなボス級モンスターと戦わなければならないのだろう。そう考えると、本当に三日間生き延びられるだろうかと不安になる。だけどスキルを獲得するためにはこの試練を乗り越えなければならない。俺は覚悟を決めると、背中に『シュナイデンライト』を装備し、いつ出現するかわからないボス級モンスターに備えてレベル上げを始めた。対して変わらないかもしれないが、しないよりはマシだろう。それに何もしないで怯えているよりは、レベル上げしていた方が考えなくて済む。
俺は昨日の戦闘のストレスやらなにやら全部ぶつけるように、沸き上がって来る雑魚モンスター達を一直線に蹴散らした。
「ふう……流石に疲れたな」
あちこちに舞うポリゴンを見渡しながら、視線の先に表示されたレベルアップとリザルト画面を確認する。あまりレベルは上がらなかったが、いい感じの準備運動になったからよかった。俺は手にあるシュナイデンライトを右に切り払い、背中の鞘におさめた。辺りを舞っていたポリゴンが消え、昼の日差しが木々の隙間から溢れていた。
「さて、そろそろ昼でも食べるか」
ちょうどいいぐらいの切り株を見つけ、早速オブジェクト化したサンドイッチにかぶりつく。このゲームに捕われる前によく好んで食べていたサンドイッチに似た味で、少し懐かしく、帰りたくなった。一刻も早くゲームをクリアしなければ、そう決心し直し、もう一度かぶりつこうとした瞬間、目の前に蒼く煌めく転移円が現れ、小さな黒い人影が、俺に向かって飛び込んできた。
「ああ?転移円だぁ?」
目の前にいる今まで追いかけていた少女の周りに、蒼く煌めく円が現れる。普通に街まで転移する紫の円と違う厄介な転移だ。
「さっきから握っていやがる蒼い石、何のアイテムかわからんかったが、まさかあの厄介な石だとはなぁ」
前に俺が受けた殺しのターゲットの中にも、あのアイテムを使う奴がいやがった。あん時は転移先が割れてたから簡単だったが、今回は何処に転移しやがるかわからねぇ。こりゃあ転移される前にとっとと殺しちまった方が良さそうだ。
俺はそう考えると、持っていた妖刀を構え、突撃の用意をする。すぐにスキルシステムが作動し、持っていた妖刀が紫の光を纏う。気配を感じた少女が振り向き、その顔に恐怖の表情が現れる。
思わず笑みがこぼれた。やべえ、超面白れえ。なんかこんな感じで怯えた姿を見ると……
すっげえ興奮するんだよなぁ!
「さぁ、フィナーレの時間だぜぇ!」
右足を思いっきり踏み込む。瞬間、スキルが発動し、俺の体が一本の矢のように少女目掛けて突っ込んでいく。少女が恐怖で目をギュッとつむるのが見える。ああ、そういう反応も興奮するんだよ!
「ハハハ、ハハハハハハハハハっ!死ねえぇぇ!」
妖刀が荒れ狂い、ギュッと縮こまった少女を貫く。さあ、叫べ!もっと俺を興奮させてくれ!
パァァン……
「ああ?」
おかしい。俺の妖刀は今確かにあいつを貫いた。だがプレイヤーが死ぬとき、必ず一瞬の間があってから赤いポリゴンが散る、その演出が起こらねぇ!
「まさかっ!」
俺は念のためにあいつに付けておいた発信機の電波をスキャンする。間違いない。あいつは……
「あの野郎、ギリギリで転移しやがったな!」
発信機はここから反対側の森を指していた。つまり俺の攻撃は外れ、まんまと逃げられたわけだ。
「クソッ」
近くにあった木を一撃で切り倒す。枝や葉が宙を舞い、俺の頭から降り注ぐ。
「あーくそ畜生っ!あの野郎、絶対殺してやるからなぁ!」
俺の声が森にこだまする。俺はあの少女を殺すため、発信機の示す方向へ走り出した。
「うわっ!」「きゃっ!」
ドサッ。突然飛び込んできた少女に吹っ飛ばされ、俺とその少女は、座っていた切り株から落ちて思いっきり背中を打った。痛てて……
「誰だ……って忍!?」
「えっ、あれっ?翔!?」
見たことない蒼い円が見えた途端、一昨日パーティーメンバーになった忍が目の前にいた。
「ど、どうして翔がここにいるんですか!?」
「それはこっちの台詞だよ!どうやってここまで来たんだ?」
そう聞いた途端、忍の顔が恐怖に染まる。ばっと俺の上から降りると、警戒するようにクナイを構えて辺りを見回す。忍の様子を見て何か異変を感じた俺は、同じようにシュナイデンライトを抜くと、目の前で構えた。
「どうして急に構えたんだ?」
「それは……私が今まである男に追われ、殺されかかっていたからです」
「なっ……!殺されかかってた!?」
「……っ、はい……」
どういうことだ、忍が殺されかかっていた?クエストに挑戦していただけじゃなかったのか?様々な疑問が次々に浮かんでくる。でもとりあえず、忍を一回落ち着かせないと。
「忍、落ち着いて!多分もう追って来ないよ!」
「……っ!どうしてそんなことが言いきれるのですかっ!」
「それは忍が、俺の渡した転移石を使ったからだよ!」
「……!?」
忍はクナイを持っている反対側の手で握っていた蒼い石を見る。蒼い石は薄く光を纏い、青白く輝いている。
「それはただの転移石じゃない。『思い転移石』っていう、自分の思うプレイヤーの所に転移できるアイテムなんだ」
そう言われてはっとした様子の忍。どうやら心当たりがあるようだ。やがて納得したのか、持っているクナイを仕舞う。
「なるほど、それで私はここに飛ばされたのですね。ところでここはどの辺ですか?」
「俺もスキル指南の師匠に崖から落とされてここにいるんだ。スキル指南の内容はーー」
そこまで言った俺の言葉はそこで遮られた。強大な気配が、探索スキルに感知されたからだ。
「……お出ましみたいだな」
「えっ何のこと……」
剣を抜き、前方に現れた空間の裂け目に向かって構える。忍も、何が起こっているのかわからない様子ではあるが、俺に習ってクナイを手に裂け目に向かって構える。
「さぁ、二日目の決戦といこうか!」
「グオォォォォォォオッ!!」
空間の裂け目から聞こえる、昨日より強い呻き声。心配そうな忍をかばいながら、徐々に具現化していく化け物を睨む。
索敵結果『The Swordman Killer Lv.35』。昨日より大幅に強化された、ソードマンキラーが俺達の前に立ち塞がった。命を賭けた二日目の決戦が、今始まる。
続いてしまいました……早めに上げる予定ですので二日目決戦もよろしくお願いします!




