麻痺の恐怖、死の恐怖
「『忍者』が一体何のようだ?」
俺は目線の先にいる少女に向かって問い掛ける。今まさに俺を殺そうと構えたクナイを一旦引き、少女はこちらを死んだ目で見つめてきた。何も答えてはくれないか。そう思った時、少女が不意に口を開いた。
「あなたに教える必要はありません」
返答が返ってきたことに多少驚きながら、俺はある一つの方法を実行することにした。それは、『麻痺』の効果が切れるまで、何か話をひたすら繋げるというものだ。
普通に考えたら全く馬鹿みたいな作戦だが、忍者はスピード重視の職業の為、アイテムや装備を持てる量が他の職業より少ない。今持っている(身につけている)装備だけで全てだろう。それに左上に表示された麻痺状態の残り時間から考えて、少女はそこまでレベルが高くないと予想できる。確か麻痺の効果時間はレベルと比例しており、ベースの1分からレベル10ごとに1分ずつ時間が伸びていくというものだったはずだ。
左上を確認したところ、1分20秒となっていた。今の会話だけで1分も経っていないはずなので、少女のレベルは10台だろう。俺のレベルが15なので、まあ何とか戦えるレベルだ。
あと1分、それだけ耐えられれば麻痺は回復し、こちらも反撃ができる。それまで、何とか話を繋がないと。
希望はある。さっきの質問、あれに答えず無言のままだったら、コミュニケーションの取り用がない。だが少女は問い掛けに答えた。つまり、少しなら時間を稼ぐことができるだろう。俺を殺す依頼をした奴の正体も、できるだけ掴んでおきたい。
「今俺はそこまでレアな装備もアイテムも持っていない。このシュナイデンライトもレア武器だけど、これは今日の朝早くに貰いたての剣。ここまで来るのにプレイヤーには会っていないし、持ち物確認用道具もくっついていない。なら何故俺が狙われるんだ?」
少女はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「私もそんなことは知りません。一昨日の夜、裏クエストを受けに行ったとき、たまたまあなたを殺す依頼がきていた。ただそれだけです」
あと40秒、少女の言葉に、一つ気になる言葉があった。気になった俺は、時間稼ぎのついでに聞いてみることにした。
「さっき言った、裏クエストって何だ?」
すると少女の顔に、少しだけ驚きと後悔の表情が表れる。少し人間味が出てきたな、そう思っていると、少女が本格的にクナイを構えた。
「どうやら、余計なことを話しすぎたようです。麻痺もそろそろ切れる頃だろうし、そろそろ終わりにしましょうか」
あと20秒、くそっ、さすがにもう引き延ばすのは無理か。一撃では死なないだろうが、20秒もあればとどめを刺すことぐらい簡単なことだ。
「それでは、今度こそ命を頂戴します」
少女の構えたクナイが、スキル発動の光を纏う。短剣用重攻撃スキル『アーマーブレイク』。その名の通り防具ごと相手を攻撃することのできるスキルだ。俺は防具なんかつけていないから、このスキルを食らえば一気に体力が減るだろう。俺が目をつぶったその時、頬に微かな、温かい水滴が落ちてきた。驚いて目を開けると、目の前に迫った少女の目には、小さな涙が浮かんでいた。さっきまであんなに淡々としていた冷血少女が、目の前で涙を浮かべている。このことで、俺の中に一つの仮説が思い浮かんだ。
「本当はお前、PKするの、怖いんじゃないか?」
途端、少女の顔に、明らかな恐怖の顔が表れた。それだけではなく、少女の手にあり、今まさに俺を貫こうとしていたクナイが、少女の手を離れ、スキルが発動することなく俺の上に落ちた。よろよろと後ろに下がっていく少女を、ちょうど麻痺が解け、手にした剣でスキルを発動させた俺が追う。
「……ひっ!」
少女は恐怖の顔のまま、腕で顔を庇って倒れ込む。俺は冷静に、手にした剣で少女を狙う。次の瞬間、光を纏った剣が倒れた少女を貫いた。
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