赤、そして消滅
「えっ……?」
体が浮いている。景色がすごい勢いで動いて行く。反動を抑えるため、STRをメインで上げていた優真が、俺を敵の攻撃範囲の外まではじき飛ばしてくれたようだ。だがその優真は、俺が受けるはずだった攻撃を代わりに全て受けてしまった。
バキッ、ガキッ、バキッ。
優真の背中に、敵の攻撃がヒットする。がら空きになってしまったため、全ての攻撃がクリーンヒットしてしまった。苦しそうに歪む優真の顔、その顔が、不意にこっちを見た。そして、地面に落下していく俺に、優真は笑いながら、叫んだ。
「絶対、クリアしろよな!」
刹那、優真の体に、どこからか飛んできた矢が突き刺さる。弾ける赤いダメージエフェクト。その攻撃が、残り少なくなっていた優真のHPを完全に削り取る。当たった方向に反り返った優真の体が、赤く染まり、次の瞬間……
俺の相棒、平崎優真の体は、赤いポリゴン体になりながら弾け飛んだ。優真は、この世界から『消滅』した。
「嘘だ……嘘だ……優真……優真!」
俺は、優真がいた場所に向かって叫んだ。そこにはもう、優真はいない。消えきっていない赤いポリゴンが、少しだけそこに漂っていた。それもすぐに消え、後には、優真が使っていた銃、『デザートイーグル』だけが残されていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
発狂しているかと思うような声、それが自分から発せられた声だとは思えなかった。気がつくと、俺は優真を殺した斧使いのモンスター集団に、『ダブルアート』を叩き込んでいた。そこからしばらく、俺は記憶がない。次に気がついたときには、俺の周りに赤いポリゴンが大量に漂っているだけで、あんなにたくさんいたはずのモンスターも、一匹残らず消えていた。多分、無意識の内に全て倒しきってしまったのだろう。俺は、ふらふらとした危なっかしい足取りで、優真の銃の元に引き寄せられるように近づいていった。
優真が使っていた銃は、塗装が所々はげ、傷だらけになっていた。手にとってそれを抱え込む。無機質の銃の中に、優真の暖かい温もりが残っているような気がした。そのままベルトに引っかけ、森の出口へ歩いて行く。はたからみれば、相当危ない奴だっただろう。目は虚ろで、足取りもおぼつかず、今にも倒れそうな歩き方。今の今までの生気が全くなく、死んだような感じだったに違いない。
朝、文句を言いながら、二人で歩いた道。ちらほら人が通っているのに、俺には酷く寂しい感じがした。その道を抜け、リーフベイの近くにある民家に入って行く。そこは、『蟲の鈴』を届けるクエストの、依頼主の家だった。
依頼主は女性で、クエストのクリア報告として、ポケットに入ったままになっていた『蟲の鈴』を手渡す。感謝の言葉と共にクエストクリアのウィンドウと紙吹雪エフェクトが表示される。それをぼぅっと眺めながら、その女性を目で追った。どうやら奥に息子がいるらしい。何となく、ただ引き寄せられるようにその部屋へ入って行く。そこには、ベッドに横たわる少年がいた。何かの病のようで、時々咳が聞こえる。母が部屋に入ってきたことで、少年が顔を上げる。
似ていた、さっき消滅してしまった優真に。目に熱いものが込み上げてくる。母親が、少年に向かって、
「この人が、お前が聞きたがっていた鈴を持ってきてくれたんだよ」
と言って鈴を鳴らす。ころんころん、優しい音が部屋の中に響く。
「お兄ちゃん、鈴、ありがとう」
少年が、嬉しそうな顔をして感謝の言葉を告げる。その顔に、再び優真の顔が重なる。
俺は耐え切れなくなって、膝をつき、少年のベッドに顔を埋めるようにして、この世界にきて初めて、声を上げて泣いた。泣けば泣くほど、後から後から涙がこぼれてくる。俺のせいで、優真は消滅した。俺があの時油断しなければ、今も笑っていられた。後悔が、後から後からやってくる。戸惑う少年の目の前で、俺はしばらく、そのままずっと泣きつづけていた。
気がつけば、少年が手を伸ばして、俺の頭をそっと撫でてくれていた。外では、俺の気持ちを表すかのように、静かに雨が降りはじめていた。
不意に優真の言葉が頭をよぎる。『クリアしろ』と、彼はそう言った。
俺は必ずこのゲームを終わらせる。その日俺は、こう誓った。
優真君が消滅してしまいました……やっぱり、自分の考えたキャラクターが死んでしまうのは悲しいですね……
ここから翔は、どう生きていくのか。優真に言われたように、このゲームをクリア出来るのか。
それでは、次は十一話、これからも、バインド・ゲイムをよろしくお願いします。




