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【完結】殿下を告訴いたしますわ! ~転生令嬢は婚約者の過労死を阻止したい~  作者: 円夢


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2/16

2.

 ……というやりとりがあった次の週。


 その日、ヴェラは久しぶりに――本当に久しぶりに、王都のカフェでクイルとお茶を飲んでいた。

 来年の結婚式に向けて、そろそろ準備を始めなければならない。その打ち合わせである。

 本当はタウンハウスに招いてゆっくり話したかったのに、打ち合わせの後は職場に戻るというクイルのために、王宮近くのカフェの個室で会うことになった。


「手紙でもお伝えしましたとおり、聖堂は五の月の十一日が取れましたの。この時期は大きな行事もありませんし、気候もいいですから、お式の後はガーデンパーティにしたらきっと素敵ですわ」

「ヴェラ。実はそのことなんだけど……」


 言いにくそうにクイルが切り出した途端、ヴェラは嫌な予感がした。


「エルバン殿下の発案で、来年から五の月の月末に、新たな行事が入りそうなんだ」


(――はああああ!?)


 とは決して口に出さず、あくまで穏やかに「どういうことですの?」と問い返せた自分を褒めてやりたい。


「君が言うとおり、五の月は大きな行事もないし、暑すぎず寒すぎず、屋外で行事をするにはもってこいだ。そこで聖女様が王都中をパレードしつつ、沿道では聖女様の絵皿や、聖女様にちなんだ食べ物の屋台を出して、初夏の祝祭をしては……どうかと……」


 クイルの声が尻すぼみに消えていく。


「そうですか。五の月の月末に」

「うん」


 王都を練り歩く聖女様のパレード。さらに大規模な祝祭ともなれば、その準備は前月、いや前々月から始めなければならないだろう。

 同じころ、ヴェラたちは披露宴の席次やドレスの仮縫いなど、やることはてんこ盛りだというのに、クイルは参加できるだろうか。

 まして十一日なんて、行事の最終調整で一番忙しい時期だ。


 招待客の大半は王宮職員とその家族だ。この忙しい時期に結婚式なんて、と呆れられたりしないだろうか。

 最悪、式が済んだら、花婿もろとも全員そのまま仕事に直行、なんてことだってありそうだ。


「いや、さすがにそこまでは……」

「絶対ない、と言い切れますの?」

「う、うーん……」


 言いよどむクイルに、ヴェラは畳みかけた。


「王宮職員の慣例では、結婚式の後、ひと月のお休みがいただけるのでしたよね?」


 そのひと月は、風光明媚な地方の別荘で、ゆっくり過ごす予定だった。


「……うん。慣例では」


 あくまで慣例。

 そして王子なら、そんなもの命令ひとつで簡単に覆してしまえる。


「ヴェラ。ヴェラ? ごめん。泣かないで」


 クイルが席を立ってきて、ヴェラをそっと抱きしめた。


「僕も君とずっと一緒にいたいよ。だからあの部署を選んだんだ。詳しいことはまだ言えないけれど、もう少しだけ待ってくれないか。僕が必ず何とかするから」


 ヴェラは無言で首を横に振った。

 クイルを信じていないわけじゃない。

 だけど相手が悪すぎる。


「結婚式は秋にしないか。十の月なら、きっと時間にも余裕ができる」

「いいえ。どうせまたあのクソ王子が何かしらくだらない事を思いついて、あなたを振り回すに決まっているわ」

「ヴェラ。言い方!」


 困ったように眉を下げるクイルの目の下にはくっきりと隈が浮き、髪や肌の艶も悪かった。

 その姿が一瞬、前世の夫と重なって、ヴェラの胸がずきりと痛む。


(あの時、もっと早く動いていれば)


 大切な人を失わずに済んだ。


(あんな思いは二度とごめんですわ!)


 ヴェラは拳を握りしめた。

 どんな手を使っても、この人を過労死から守ってみせる。絶対に!

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