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【完結】殿下を告訴いたしますわ! ~転生令嬢は婚約者の過労死を阻止したい~  作者: 円夢


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14/16

13.

 騎士に引き出されてきたのは、先日ヴェラを尾けていた、あの男だった。

 すでに一度白状した後なのだろう、騎士に促されると素直に話しだした。


 去年の花祭りの少し前、西通りで淡青色の制服を着た若い男を待ち伏せたこと。喉を裂き、財布を抜いて逃げたこと。

 依頼主は「ゴマ」と名乗る男で、金は前金と成功報酬の二度に分けて受け取ったこと。


「額は」


 訊いたのはクイルだった。


「前金が金貨十五。後金が三十」


 クイルは別の書類綴りを開いた。


「こちらはラミー伯爵家の出納簿です。同じ月に、()()に対する支払いが二件記載されています。金貨十五枚と、三十枚」

「ちなみに裏社会で『庭師』といえば、殺しを請け負う人間のことです」


 パーカーがさらりと付け加える。

 暗がりで、椅子が倒れる音がした。


「そ、そんなもの、単なる偶然だ……っ!」

「そこの女も殺れって言われた」


 男がぐるりと首を巡らせ、ヴェラを見る。


「先月の話だ。依頼主はゴマで、金額も同じ。……そん時はしくじったから、前金だけだったが」


 ヴェラは思わず身震いした。あの日、通りを歩く自分を見ていた目。


「ヴェラ!」


 クイルだった。顔を上げると目が合った。


 ――大丈夫だから。


 口の動きだけでそう言ってから、クイルは淡々と言葉を続けた。


「先月もラミー伯爵家の出納簿には金貨十五枚の支出が記載されています」

「ラミー伯爵」


 陛下が呼ばわった。


「ここへ」


 闇の中から、痩せた初老の男がよろよろと明かりの下に現れた。顔は蒼白で、尖った顎の先からは汗が滴り落ちている。


「これなる男の証言と出納簿から、そちには殺人と殺人未遂の疑いがかけられている。これについて申し開きはあるか」

「……ございません。すべて私の一存でしたことにございます」


(嘘っ! ここへ来て、結局エルバン殿下を庇うわけ?)


 ここでラミー伯爵が全ての罪を被ってしまえば、エルバン殿下は逃げ切れてしまう。


(待って。でも、それだと辻褄が合わなくない?)


「お……おかしいですね!」


 ヴェラは思い切って震え声を張り上げた。

 平民落ちした自分が、王の許しもなく口を開けば不敬になる。

 けれど。


(大切な人をまた失うくらいなら――)


「じ……侍従武官のラミー様は、なぜ典医局の臨時職員であるヘンリー様を殺めたのでしょう? それに、なぜ儀礼局の臨時職員にすぎない私、平民のアグネスをわざわざ殺めようとなさったのでしょう?」

「ええ、本当に不思議です」


 打てば響くように答えたのはクイルだった。


「ヘンリー君が毒草の混入を殿下に報告したことなんて、部署も職種も全く違う侍従武官のラミー伯爵はご存知ないはずだったのに」

「そうよねえ」


 と続けたのは聖女様だ。


「まして、アグネスは先月儀礼局に来たばかり。ラミー伯爵との接点なんて、まったくないはずですのにねえ」

「そ……っ、それは……っ!」


 ラミー伯爵が何か言いかけた時だった。


「要するに、何もかもエルバン殿下が裏で糸を引いてたってことだろ?」


 広場から誰かの声がした。


「陛下を毒殺しようとしてるのがバレそうになったから、見つけた奴を殺して口封じした」

「そんくらい、学のない俺らにだってわかるわなぁ」


 そうだ、そうだという声が次々に上がる。


「どうやら、結論が出たようだな」


 陛下が言った。


「エルバン。今宵、彼らに判定を委ねたのはそなただ。今さら、彼らに裁く資格がないとは言うまいな」

「……っ」


 エルバン殿下は、長いこと無言で立ち尽くし。

 やがて、平板な声で言った。


「――申しません」


 こうして、死者と生者の立ち合いの元で始まった、奇妙な裁判は幕を閉じたのである。

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