表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】殿下を告訴いたしますわ! ~転生令嬢は婚約者の過労死を阻止したい~  作者: 円夢


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/16

11.

「今さら本名を言ったところで、王宮の皆さんはどなたもご存知ないでしょう」


 自嘲するように若者は言った。


「僕は典医局の臨時雇用職員でした。平民なので本名ではなく『ヘンリー』と呼ばれておりました。本業は医師で、典医局では、国王陛下のお薬の元になる薬草の管理をしていました」


 陛下と主だった貴族達が詰める背後の部屋から、息を呑むような気配がした。

 同時にエルバン殿下が鋭い視線をそちらに――暗がりに沈む陛下に向ける。


「ある時、僕は薬草棚にあるはずのない草が――非常に珍しい、異国でしか手に入らない草が混入しているのを見つけました。かの国では無味無臭の毒薬の原料になるとして、厳しく規制されている草です」


 異国、と重臣たちの誰かが呟いた。

 殿下が国交を開き、貿易交渉を行った国。


「典医局の薬草図鑑で、たまたまそのことを知った僕は、急いでエルバン殿下に報告しました。当時、殿下は典医局の局長だったからです。そして、その日の帰り道――」


 若者はやおら文官服のボタンを外し、詰襟の襟元を開いてみせた。

 ヴェラは思わず両手で口を覆う。


 若者の喉は、横一文字にぱっくりと切り裂かれていたからだ。


 背後の部屋がどよめいた。

 広場からも悲鳴が上がる。


「嘘だろ……」

「口封じってやつか」

「まさか、殿下が? 陛下を毒殺……?」

「――静まれ!」


 殿下の声が、広場の喧騒を一瞬で薙ぎ払った。


「見世物に酔うのもたいがいにせよ。よいか、ここは法廷ではない! そもそも死者は宣誓もできねば、偽証の罪にも問えぬ。そのような者の言葉は証言たりえぬ!」

「ほっほ」


 ふいに場違いな笑い声がした。

 ダーウェント卿である。


「相変わらず、逃げ足だけは一流ですな、殿下」

「まったくだ」


 パーカーがふんと鼻を鳴らす。


「先日は法廷にいる者が全員原告だから裁けぬと言い、今度は法廷でないから裁けぬと言う。……殿下。あなたが裁かれてもよい場所は、この世のどこにあるのですか」


 背後の部屋から、重臣たちの忍び笑いが聞こえてきた。

 殿下の頬が、ぴくりと引き攣る。


「戯言を。私は――」

「ならば、この場を法廷といたそう」


 厳かな声が、闇の奥から聞こえてきた。


 人々が、はっと黙り込む。

 振り向いたヴェラの目に、闇に沈んだ部屋の中で、輿の上の人影がゆっくりと身を起こすのが見えた。

 王冠を戴いた堂々たる姿が、バルコニーに現れる。


「王の前は、すなわち王国の法廷である。――そうであったな、宰相」

「仰せの通りにございます、陛下」


 エルバン殿下の顔から、すうっと表情が抜け落ちていった。

 病床にあるはずの陛下が――余命いくばくもないと伝えられていた陛下が、自らの足で立っている。

 人一倍怜悧な殿下のことだ。それが何を意味するか、即座に察したに違いない。


「エルバンよ。証拠が要ると申したな」

「……陛下」

「持ってこさせてある」


 闇の中から、白い制服の人影が進み出た。

 埃だらけの書類綴りを、何冊も腕に抱えている。


「クイル……!」


 ヴェラの声に、クイルは疲れ切った顔でふっと笑ってみせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ