第9話 天岩戸
我が家族に新しく奴隷としてリル・フェーンが加わった。
彼女を最初に見た時の父上の、
「なんだこのクソガキ、よりによってケモナーでペド野郎かよ引くわー流石に五歳児の性奴隷は引くわー心底のカスが」
みたいな目つきは忘れられない。トラウマになりそうである。
俺が精神年齢も肉体相当だったら絶対に泣いていた。
まあ、先生がサスゴシュ人について懇切丁寧に説明してくれたのでなんとか事なきを得たが、
「当初の目的を忘れるとはやはり愚息……情けない。知能はサル、いやダチョウ以下か」
と暴言を吐かれたのはまあ仕方ない。
ともあれ、リルは奴隷……というのはあれなので、俺つきのメイド見習いとしてエルニズム家に奉公することとなった。
しかし、それはいいのだが……。
「問題は、トゥーンとの近親相姦ルートが塞がってことだ」
別にそのルートを突き進むつもりはないが。
我がツンデレ妹トゥーンは相変わらず引きこもっている。
いや、使用人たちいわく、俺がいないときは普通に出歩いているようだが。つまり俺と顔を合わせたくないということだ。
「仕方ないよね。ガチ恋してて将来はお嫁さんになるって思ってたお兄ちゃんがぽっと出の超絶美少女天才魔術師のおねーさんと【おねショタ】してたらつらいよね、自分が最初に【レッツ背徳】する予定だったのに」
先生が肩をすくめてため息をつく。
「私も嫌われちゃってね。モテる女はつらいぜ、ふっ」
ニヒルにポーズを決める先生。
これが少し前まで万年処女の新古品だったロリババアの言葉である。調子にのってんな。夜にお仕置きしないと。念入りに。
しかしトゥーンが俺にガチ恋してるかしてないかはともかく、このまま兄妹仲が悪いままなのは問題がある。
これが原因で破滅ルートに行くかもしれないからな。それを差し置いたとしても、妹とは仲よくしておきたい。
俺の前世の家族は家族仲最悪だった。それに比べると、多少コミュニケーションがおかしいというか大変な家族だが、俺はとても気に入っているのだ。
だから……家庭崩壊は絶対に回避したい。
そういう意味でも、母上が言った父上との【レッツ背徳】も断固拒否したい。
閑話休題。
ともかく俺は今、トゥーンの部屋の前にいる。そしてドアは天岩戸のごとく固く閉ざされている。
さあ言うのだ。妹よ、扉を開けてくれと。
「トゥーン。お〇んこ大開帳」
うん、わかってた。俺の口の信用できなさは誰よりも俺自身が。
そして直後、ドガンッと扉が叩かれる音が響く。
何かが投げられた感じだろうか。
「なるほどね。こうやってあちらからドアを破壊させるっていう完璧な作戦なわけだ」
そんな作戦はない。怒らせて自分から破壊させるとかどんな天岩戸だよ。踊って楽しませるんじゃなくて煽って怒らせるアメノウズメとか性格悪いな。
「じゃあここでロリ先生と一発おっぱじめますか。きっと怒り心頭でドアぶち壊した後、僕たちエルニズム家の家庭までぶっ壊れますけどね。ですからそのずっこんばっこんあっはんうっふん天岩戸作戦は却下です、僕は妹が大事なので」
「うん、流石に家庭崩壊の原因にはなりたくないね。パトロン無くしたらどうやって生きていけばいいのかわかんないし」
先生は辺境伯家の客分だから魔族でありながら現在この国での立場を保証されている、とのことだ。
最近、人間と魔族は関係が悪化している。故に冒険者ギルドや商工ギルドに魔術師ギルド、そして貴族たちによって身分証明がなされていない魔族たちは捕らえられて奴隷あるいは国外追放となっているらしい。
先生は俺の家庭教師をすることになった時、「へいへいへーいこれでもうギルドに上納金納めてコキ使われる生活から脱却して勝ち組人生だぜひゃっはーざまあみろぷっぷくぷー」と冒険者ギルドと魔術師ギルドを辞めて来たということだ。ノリに生きすぎだろうこの人。後先考えてない。
とにかくそういうことなので彼女はうちをクビになったら奴隷か国外追放しかないので必死なのだろう。
……ゲーム本編に入ればそのうち魔族とこの国との間で戦争が起こるのだが、その時彼女はどうするのだろう。
本編ではメイジーメイ・ブラックは敵だった。しかし敵対はしたくないものだ。
まあ、ぶっちゃけ本編でチュートリアル敵みたいな扱い、エロスチル稼ぎみたいな扱いだった彼女が魔族側にいなくとも趨勢は何もかわらないと思うので説得してこちら側にいてもらうようにしよう。
閑話休題。
さて、どうやってこのドアを開けるか……。
「どうしたんですか、御主人様」
悩んでいると、ふと元気な声が後ろからかかった。
「リル」
そこにいたのは、メイド服を来たリル・フェーンだった。
犬耳メイドか。ゲーム本編の服装より似合っている気がするな。
「可愛いな、似合ってますよ。脱がす時が楽しみだ」
「はい!」
これは彼女が幼いからセクハラを理解していないのか、それともOKの意思表示なのか非常にわかりづらい。
……彼女はヒロインの一人だし、キットのものになるのだろうから前者なのだろう。
「それで何をしているんですか?」
「ああ、妹がこの部屋から出なくてね。どうにかしてドアを開けたいんだけど……」
「わかりました! 開けていいですよね?」
「え? ああ、うん……」
リルが元気な声で言う。おもわず返事した次の瞬間……。
彼女はドアノブを握り、
「えいっ」
捻り壊した。
「開きました!」
力づくであった。
すごいなサスゴシュ人というものは。
「ご主人様のためなら、ボクたちは力がわいてくるんです!」
沸きすぎだろう。
「な、何!?」
トゥーンも慌てていた。まあそりゃそうだよな。
そしてトゥーンがベッドから飛び出て来る。
彼女は、ドアの所にいる俺達を見た。
そしてその視線が、ドアを破壊した幼女、リルに向かい……
「かわいい~~~~~~~っ!」
叫びを上げた。
そしてそのまま、残像を残し――光の速さでリルに抱き着いた。
あまりの速さにリルは反応できなかった。
「おおおおおお兄様、この子超かわいいんだけど! ちっちゃくてかわいい! ちいかわ!」
ちいかわ言うな。
「なに、何なのこの子! 犬耳だから獣人族ですわね、ああもう初めて見た! やっぱメイド服すごい似合う、殺人的可愛さ! お兄様何なのこの子! あ、勘違いしないでよねめちゃくちゃ可愛いから色々知りたいだけなんだから!」
この反応でそれを勘違いしろという方が難しいと思う。
「将来の僕の専用雌奴隷だよ。何なら使うかい?」
「使うわっ!」
……。
俺のセクハラワードに迷うことなくぶっこみ返して来やがった。
初めて知ったが、我が妹にはレズっ毛もあったのか。
「うーわ。近親相姦趣味の上に百合っ娘ケモナーとは業が深いね」
「なっ! か、勘違いしないでよね、今のは額面通りじゃなくてお兄様のいつものセクハラに相手をする余裕がなくてあまりのこの子の可愛さに気が動転してそう言っちゃっただけで、そういうえっちな意味じゃなくてただ単純にこの子が可愛すぎるから悪いってだけなんだからね!」
先生の言葉に早口でまくしたてるトゥーン。
「わかってるよ、トゥーン。お前の性癖は兄である僕が一番」
「わ、わかってないじゃないっ!
と、とにかく……この子、あれよね、お兄様のものは妹のものでもあるわよね!?」
「……まあ、仲良し兄妹なら当然性奴隷は共有されるものだな。仲良し兄妹なら、だけど」
「うっ……」
トゥーンは自分が俺と顔を合わせず引きこもっていた事に気づいたらしい。
そしてその状態が続くなら、リルをかわいいかわいい出来ないということに。
「……かっ、勘違いしないでよね! あくまでもこの子のために仕方なく仲直りするだけなんだからっ!」
そうして。
なんか勢いでなに崩し的に、俺とトゥーンは仲直りしたのだった。




