第7話 悪役貴族カーネル・モッチーノ
「待ちたまえ」
声をかけてきたのは、俺と同じ十歳くらいの少年だった。
いかにも貴族のボンボンといった風貌で、艶のある金髪を撫でつけ、仕立てのいい服を着ている。
そして太っていた。
顔の造詣そのものは美形といっていいが、その肥満っぷりが盛大に台無しにしていた。もったいないな。
後ろには護衛らしき大人が三人控えている。
「誰? このエロガキ二号は」
先生が初対面の相手に無礼をかました。
「だっ、誰がエロガキだ! 失礼な奴だな!」
「こんな奴隷市場にきてるなんてエロガキでしょ。反論どうぞイェーイ論破」
「……っ、なんたる無礼な。これだから大人の女は」
「前言撤回するね、この子とてもいい子だよ。ねえエド、この子私を大人の色気のあるお姉さんだってさ」
先生は音速で手のひらを返した。奴隷商の揉み手の速度といい勝負が出来そうだった。
「そんな事言ってないでしょう。そりゃいくらつるぺた貧相でも14歳ぐらいの外見だと子供から見たら大人に見えますよ、それに非処女臭いし。股間から精液臭がただよってますよ」
俺は言う。小学生の頃だと一歳二歳の歳の差は大きい。小学生から見た中学生など絶対勝てない相手に見えたしな。
「ふっ。かもしだす色気は隠せないって事だね」
先生は調子に乗っていた。どや顔がかわいいけどうざい。
今日の夜はスキル使っていじめるとしよう。
「くそっ、いい加減にしろお前ら! ボクを誰だと思っている!」
「そう言われましても、初対面ですしああ童貞だなとしか」
「くっ……! いいか、耳をかっぽじって聞けよ、下賤の下級貴族!
ボクはカーネル・モッチーノ。モッチーノ伯爵家の長子だ!」
カーネル・モッチーノ。聞き覚えのない名前だった。ゲームには出てこなかった人物だ。
「それはご丁寧に。僕はエドワルド・エルニズム。エルニズム辺境伯家の長子、言い換えればおちんちんです」
「意味わからんわ! ……え、へんきょう……はく?」
「はい。セックス乱交と殺し合いしか娯楽の無いおちんちんランドの田舎者でございます」
俺の言葉にカーネルは蒼白になる。
それはそうだろう。辺境伯とは伯爵よりも爵位が上なのだ。辺境伯より上は侯爵と公爵、そして王家である。
そして辺境伯は戦時であれば公爵並みの権限を行使することもあり得る。
「ふ、ふん! 家柄しか自慢できるものがないなんて情けない奴だな辺境伯様は!」
先に自慢してきたのはそちらなのだが。
あと、俺は辺境伯ではなくて辺境伯家の長子である。これは変わらないようでいて大違いで、貴族なのはあくまでも父上。俺は貴族の息子でしかない。マクロな目で見れば平民と変わらない、これは決して忘れてはいけないことだと父上に暴言交じりに教えられた事だ。
「ま、まあいいさ。話を戻そう。その奴隷、ボクが買わせてもらうよ」
カーネルがリルを指差して言った。
「サスゴシュ人の奴隷を従えるなんて、ステータスとして最高じゃないか。これはボクが買うべき芸術品だ、そうだろう?」
「しかしですね、先にこちらの方が……」
奴隷商が音速の揉み手を加速させて腰を低く反論する。
彼としては伯爵家と辺境伯家なら辺境伯家につこうとするのは致し方ないだろう。
「こんな貧相なペドを買うより、たっぷり楽しめそうなボインボインでボンキュッボンのむちむちお姉さんを買えばいいじゃないですか。そこらにいますよ」
俺の口がまた勝手に喋った。
「私の事言ってるのかな」
先生の言葉はスルーしておく。そこに鏡がおいてあるのでしっかり見るといいですよ。
「年上の女は怖いだろうが!」
カーネルが顔を真っ赤にして叫んだ。
ああ……そういう……。
うん、いるよね年上や同年代の女性が、下手したら生身の女性すら怖くて、幼女にしか興味を向けられない人。
「かわいそうなモノを見る目でボクを見るんじゃない!」
「じゃあ……かわいそうなモノじゃなくて、かわいいモノを見る目で見ましょうか?」
「やめろ気持ち悪い!」
カーネルは叫んだ。まあもっともである。今のはスキルのせいで口が勝手に言っただけで本心ではないしな。
「金ならある。辺境伯程度では出せないような大金がな!」
そう言ってカーネルは指を鳴らす。
ぺす。
失敗して音は出なかった。指を鳴らすのって実は意外とコツがいるから子供では出来ない人もいるんだよな。一度やれた後は簡単だけど。
そして背後の護衛の人が金貨の入った袋を投げ捨てた。
「10万ズェニある。釣りはいらん」
日本円にして一千万円くらいか。確かにその額をぽんと出せるというのは中々に富豪である。
「いや、しかし……」
奴隷商がこちらを見る。俺はため息をついて先生に合図をした。
「じゃあこちらは50万ズェニで」
「なっ……! な、ならこちらは60万だ!」
カーネルが叫んだ。
「80万」
「きゅ……90万ズェニ!」
二人が競り続ける。
しかし俺はこっそりと奴隷商に耳打ちする。
「底値は200万から、とイったところですよね?」
「へい、流石はお目が高い。ただしくは180万ズェニといったところですが」
奴隷商が言う。ゲームでも200万ズェニで売られていたのだ。
日本円にして1億8000万円以上。まあ絶滅危惧種というレア度の高い種族、それくらいはするだろう。
そしてもしそれを最初にカーネルに言ったら、伯爵家に恥をかかせることになる。奴隷商も大変だよな。このオークションな流れになったのは奴隷商にもカーネルにとっても良かったというかんじか。
さて……しかし流れを見るとカーネルの予算は100万、出せて120万という感じか。底値に足りていない。
「埒があきませんね。では250万ズェニで絶頂で」
僕は言った。
もし今の130万ズェニ辺りで決着がついてしまえば、「すみません言うタイミング逃したけど価格は180万からです」とカーネルに恥をかかせてしまう事になる。
それはよろしくない。
というわけで、ヘイトを買うかもしれないが大金にモノを言わせて強引に書いとるバカ貴族を演じる事にした。
これはあくまでも奴隷商のためである。ゲームの時の悪徳奴隷商人と違って真面目そうな商人だしな。
その俺の言葉を聞いて、
「では、こちらの250万ズェニで絶頂させていただきます!」
奴隷商は俺のセクハラに合わせてきて言った。
父上には感謝しないといけないな。このお金は将来絶対に利子をつけて返す事としよう。
カーネルは唇を噛んで、俺達と奴隷商の取引を見守っていた。
それから護衛たちに何か小声で指示を出すと、足早にその場を立ち去っていった。
捨て台詞も無し、か。
「……あの目」
先生が小さく言った。
「なに、嫌な感じだったね、最後の。要注意だよ」
俺もそれは感じていた。
あっさり引いた割に、最後の表情だけが妙だった。
まあいい。
「ともあれ、これで君は僕のエロ奴隷です」
俺はリルに向かって言った。言ってしまった。
……うん、これまずくない? サシュゴス人に向かって出会って直後でエロ奴隷宣言とか。選択肢ミスの即死ルートかもしれない。
「ああすぐに手を出すつもりはありませんから安心してください、成長するまでは見抜きの視姦で我慢するからセーフです」
セーフではない気がする。
そして対するリルの反応は……。
「はい、よろしくなのです、御主人様!」
どうやら即死ルートは免れたらしい。
『誰にでも尻尾を振る』というサシュゴス人の性質に感謝である。手を出さなければセーフなんだよな?




