第4話 魔力増加
「私は悪くない。重ねて言うね、私は悪くない。ていうか処女返せ」
「50歳の処女に価値はありませんよ。むしろ僕のショタ童貞返してください、その身体使って」
おおよそ色気のない会話だった。
しかし冷静に考えると、俺のスキルが現実のエロ改変ではないかという仮説を立てながら不用意に強化魔法を使わせた先生が実にうかつだったと思う。未知のスキルへの好奇心と知識欲に目が曇っていたのだろう。
うん、俺は悪くない。
「笑うなよエロガキ」
「すみません中古ロリ先生」
しかしまあ……魔族の美少女の初めてというものは、正直言うと……まあ、あえて言及はしないでおこう。
ただ言えるのは、やはりゲームとは違うな、ってことだった。
とりあえず微妙な雰囲気になったので、今日の訓練はこれで切り上げになった。
身体も洗わないといけないしね。
◇
夜。
寝ていると、不意に身体を揺さぶられた。
「へい、起きろエロガキ。すごい発見したよ」
「……なんですかロリ先生。昨日の今日で身体が火照って収まらなくて夜這いですか」
「火照ってるのはむしろ頭だね。すごい発見があったんだよ」
先生は興奮冷めやらぬといった感じだった。何があったんだろう。
「あの後なんと無しにね、自分の魔力値を鑑定してみたんだよ。
そしたら……上がっていたんだね。
前は72だった私の魔力値が、今は79になっている」
「……それは、おめでとうございます。エロくなったわけですね」
確かに昨日よりもエロくなっている気がする。やはり処女脱したからか、それとも俺が卒業させられたからか。
いやそれはどうでもよくて。
魔力が……?
「君はどうなんだろうね。ちょっと測ってみようか」
「そのために夜這いに来たんですか」
「知的好奇心はすぐに解消しないとね。ほられっつごー」
俺は先生の持ち出した水晶玉に触れ、魔力を込める。
そこに浮かんだ数値は……。
「……やっぱりね」
先生が得心を得た、という顔で言う。
64。昨日は57だった。
「それがそんなにエロいことなんですか、ロリ先生」
「すごいことなんだよ。通常は魔力値ってのは中々変動しないんだ。よっぽどな何かがない限りね。
魔術師が魔力を強化する訓練は、長い修行や、臨死体験やそれに類するパラダイムシフトを経ての疑似的生まれ変わり、あるいは危ない薬でのドーピングなどなんだよ。
ましてや、ああいう【おねショタ】で魔力が増加するなんて聞いた事がない。【おねショタ】でパワーアップするならみんな【おねショタ】してるよ」
先生が言う。
前世の知識では、日本の古い呪術の立川流というものでは性行為で霊力呪力を強化するという伝説はあったけど。房中術……だったっけ。
しかしこの世界、というか魔法にはそういった概念は無いのだろうか。
この先生が知らなかっただけかもしれないけど。50年処女の新古品だったわけだし。今は中古だけど。
「つまり、この私と君の魔力増加は……君のスキル、【エロワード・エロリズム】の効果だってこと」
「魔法の効果だけじゃなくて魔力の値そのものまで変えるとかエロすぎるでしょう……」
これは冷静に考えると、ものすごいスキルなのかもしれない。
魔法が変な方向にねじまがるのは頭が痛いが、しかし魔力が強くなるというのは正直ありがたい。俺は強くならないといけないわけだから。
そして先生はぽつりと言った。
「……魔力が上がるなら……研究を続ける必要があるね。うん、これは研究だから。魔術師として見過ごせない現象だから。研究し追求するのは魔術師として当然だね、うん」
先生の顔は赤かった。心なしか息も荒い。
「興奮してるのはわかりますがそれは知的好奇心ですか、それとも恥的好奇心ですか」
「両方だね」
「素直ですね」
先生は間違いなく性的に興奮していた。これだから処女卒業したばかりの万年喪女は。
しかし、俺も俺で破滅回避のために強くなる必要がある。魔力が上がるというのは強い。ならばそれを行わない理由は無い。手段は選んでいられない。うん、仕方ない。これは必要な事なのだ。
「わかりました。研究をヤり続けましょう、ロリ先生」
「……うん。これは研究だからね、エロガキ」
そういう結論に達した。
しかし――
俺、このスキルに影響されてはいないよな?
うん、俺は普通だ、正常だ。
何度も言うが、破滅回避のため、生きるために仕方ない事なのだ。
というわけで、また俺たちは【おねショタ】した。
魔力が64から70に上がった。
◇
翌日。
結局先生は俺の部屋で朝まで過ごした。
窓から差し込む朝日に照らされた先生の身体は、なんというかとても綺麗だった。
俺は転生者で、前世の記憶がある。精神年齢は大人のそれだ。まあ前世は童貞だったけど。
とにかくだから大丈夫だけど、これが肉体年齢と精神年齢が同じ子供だったなら、きっとエドワルド・エルニズムは性癖が捻じ曲がり、この先生の肉体に溺れていたに違いない、猿のように。
しかし俺は大丈夫だ。誰がなんと言おうと大丈夫だ。
このクソ外れスキルにも、このロリ先生にも振り回されない。
「ロリ先生、起きてください。もう朝――」
「お兄様、朝ごはんの時間よ! まったく、私が起こさないとお兄様はいつも――」
先生を起こす俺の言葉を遮るように、扉が開いた。
我が妹、トゥーンだった。
「……」
「……」
俺とトゥーンの視線が絡み合う。
そしいトゥーンの視線は、ベッドに。
「ん~……何、エロガキ。昨日は寝かせてくれなかったんだから……」
そして先生がまた空気を読まない爆弾発言をする。
身体を起こした先生の裸体があらわになった。
三者の間に、沈黙が流れた。
「………」
トゥーンの顔が、みるみる赤くなっていく。
「トゥーン、これは――」
まずい。大丈夫だ大丈夫だ言っておきながらこれは全然大丈夫ではない。
さあ、言い訳をしよう。この場面を収めるたったひとつの冴えたやり方、それは――
「トゥーン、ここは三人で楽しもう」
このクソスキルは絶好調だった。
次の瞬間。
ドアの横にあった花瓶が俺の顔面に直撃した。ナイスピッチ、妹よ。痛い。
「お兄様のバカああああああああああ!!!!!!」
大きな音を立てて扉が閉まる。廊下をドタドタと走る音と、嗚咽が混じっているような声が遠ざかっていく。
沈黙。
……やってしまった。最悪だ。
「……説明しに行かなくていいの」
「イきたいのはやまやまですが」
俺はため息をついた。
「僕のこの口から出る言葉で、何を説明しろというんですか。何をどうやっても近親相姦レッツ背徳ヒァウィゴウですよ」
先生は少し目を伏せた。
「……それは、そうだね。大変だねそのスキル。君の父上も昔随分と苦労してたみたいだし」
「言葉だけなら、トゥーンも自分のスキルにふり輪姦されてるからそこから納得してもらえそうなんですけどね。
今回は実際に言い訳出来ないほど【おねショタ】してましたから」
流石に【おねショタ】最中を見られなかっただけましかもしれないが。
……しかし放っておくわけにはいかない。
このまま放置して研究にかまけ、家庭崩壊ルートなどあってはいけない。それは俺が回避したい身の破滅に外ならない。
「……ともあれ、イってきます」
「おう、イってこいエロガキ」
「……ロリ先生も少しは反省してくださいよ、もとはと言えばロリ先生の夜這いが理由なんですから」
「うん、反省する」
俺は立ち上がって扉に向かった。廊下に出て、トゥーンの部屋の前まで歩く。
扉の向こうから、小さな嗚咽が聞こえる。
俺は扉に手を当てて、深呼吸した。
言葉を選ぶ。丁寧に、慎重に。伝えたいことを頭の中で組み立てる。
トゥーン、俺はお前のことをちゃんと大切に思っている。あれは事故みたいなもので、お前が思っているようなことじゃない。お前は俺の大事な妹だ。
「トゥーン。聞いてくれ。俺はお前のことを――」
俺は言った。素直な言葉を。お前が大切なんだ、傷つけたくはない。
「――世界で一番エロい目で見てる」
次の瞬間、扉を突き破った蹴りが俺の顔面に炸裂した。
「死ね!!! エロ兄貴!!!!!!!!」
――すごいな。この年齢でこの破壊力。将来はさぞや強い戦士になるだろう。
というかよく俺死ななかったな。
壁に突っ伏して俺は思った。
クソ。
言いたいことが、何一つ言えない。
やはり疫病神だ、このスキルは。




