第19話 忍び寄る凶刃
砦の視察で廊下を歩いていた時だった。
「数々の非礼、申し訳ありませんでした」
いきなり、ローズクッコ・メイキーシが俺の前に現れて頭を下げた。
俺は思わず周囲を見回した。
誰かと間違えていないか確認するために。
「……俺ですか」
「他に誰がいるというのですか、エドワルド様」
様、が付いていた。
「あのような巧妙にして苛烈な剣技。そして私への配慮――完敗です」
「配慮?」
先生が聞き返す。俺も聞き返したかった。
「私を実力で叩きのめす事は容易だったはずです。しかしあのような流れを演出して、私に敗北という恥をかかせまいとした――実に紳士的な騎士道精神! 完敗です、戦士として、騎士として」
頭が湧いてんのかこのくっ殺騎士。
なんという勘違いをしているんだ。
いや、さっきの決闘を見物していた騎士や兵士たちもそうだったが、この砦の連中全員、脳筋をこじらせて認識能力をバグらせているのか。
これでよくこの国の盾をやってられるな。いや、これだから出来ているのか?
「このローズクッコ・メイキーシ。騎士として叙勲されたあかつきには、エドワルド様に忠義を尽くしたく存じます」
お断りします、と思わず口から出そうになった。
しかし俺はすんでのところで堪えた。
今俺が口を開けば絶対に「では主従としての相性を確かめよう、ベッドの上で」とか「ではその証として処女を捧げてもらおうか」とか言う。俺の口なら言ってしまう。これは確信だった。
「素敵なお話ですね。まるでおとぎ話の騎士道物語のよう。では、その誓い――この私が証人となりましょう」
俺が黙っていると、リンセ王女がにっこりと言った。
「姫様……有り難き幸せ」
ローズクッコが感激して頭を下げた。
何言ってくれてんだこの無知王女。
ゲーム正史ではこいつはあんたの護衛騎士になるんだよ。
これじゃシナリオが色々変わるだろうに。どうリカバリーするか悩む。
「……よかったね、エロガキ」
先生が小声で言った。
「何がですか」
「将来の部下が出来たじゃないか」
「いりませんよ、こんなくっ殺肉奴隷」
「でも忘れてるでしょ、君……君と【おねショタ】したら起きる魔力増強効果、あれを私以外でも起きるのかの実験、まだしてないよ」
色々あって結局それは進んでいなかった。
妹と【レッツ背徳】するわけにも、五歳児のリルと【さすごしゅ】するわけにもいかないし。
「彼女を実験オナホとして使えっていうんですか」
「半ドンは君に任せる」
「今の所性欲処理はロリ先生だけで充分ですので」
二人に聞こえないよう小声で話つつ、俺はため息をついた。
不安だ。
◇
その夜。
砦に一室を借りて就寝の準備をしていた時だった。
結界に何かが引っかかった。
王女に割り当てられた砦の貴賓室、そこに仕掛けられた結界が――すり抜けられた。
それは防犯結果だった。侵入されると音が鳴る結界だ。
それを巧みに解除した――だが、俺が重ねがけしていたとある魔法にまでは気づかなかったらしい。
その魔法とは――【盗撮魔法】である。
対象のエリアを覗き、記録する魔法。
光景が浮かび上がる。
王女の寝室。静かに寝息を立てているリンセ王女。
そして天井から降りてくる、黒い人影。
人影は小さかった。
俺よりも小さい。妹と同じぐらいの背丈か。
年齢は同じくらいか、あるいは少し上か。
全身黒い装束に身を包み、顔も覆っている。
しかし動きは素人ではなかった。
音もなく降り立ち、そして――暗殺者は結界を張った。これは防御障壁結界だ。暗殺者が術者ではなく、アーティファクトによるものか。
気づかれても逃がさない、そして外からも助けられない――そういうことだろう。使い捨てだがかなり高価だったはずだ。
そして暗殺者は手に持つ短剣を振り下ろし――
「んひぃいいいいいいんっ!?」
黄色い悲鳴をあげた。
暗殺者の前には――眠りにつく王女の寝台を覆う桃色の光の膜。それに触れた暗殺者は声を上げたのだ。
声からして暗殺者は女のようだった。
さて、もういちいち説明しなくてもわかるだろうが――これは俺が万が一のためにあらかじめ張っていた結界だ。
俺が張ると通常の結界魔法も、触れると絶頂してしまうエロ結界になってしまうが、まあそこは勘弁してほしい。
「んんっ!? なっ、なにこっ、んふっ! あひっ♡」
彼女はびくんびくん震えている。
ともかく急がねば。俺は詠唱して、転移魔法――いや、『夜這い魔法』を使用した。
夜這い魔法。
意図した、マーキングした場所に転移できる移動魔法だ。
それを俺のスキル【エロワード・エロリズム】を通せば、夜に女性の居場所に転移するという夜這い魔法になってしまう。
マーキングした場所ではなく、知っている女性の居場所に転移できるのは転移魔法より便利だが、夜に女性の居場所にしか転移できないという弱点もある。しかしまあ今回の場合は非情に有用だった。
なにしろ――
「な……っ!? んっ♡」
暗殺者が身体を振るえさせながら驚愕に目を見開く。
そう、この転移は通常の転移魔法とは違う。
すなわち、防御結界魔法の中にでも夜這いできるというすぐれものなのだ。
俺のスキルによって改変されたエロ魔法は既知の魔法でないため、既存の魔法では対処していない事が多いというのがメリットだ。
それはともかく。
「なっ……♡ なぜっ♡」
「さあ、僕は夜這いに来ただけですよ。王女様の寝室に侵入する不埒者には、ナニをやっても許されますからね」
「くっ……!」
慌てて後ろに跳躍する暗殺者。そして窓から逃げ出そうと走り……先程暗殺者自身が張った結界に阻まれた。
「っ……!?」
どうやら俺が入ってきたことで、何らかの方法で結界を解かれたと思ったのだろう。しかしそうではない、ただ俺が結界をすり抜けて来ただけだ。
「えっちな探し物はこれですか」
結界の基点となるアーティファクトは、俺の手にあった。先程地面に置かれていたそれを拾ったのだ。
そして俺は、それを自分のパンツの中に入れた。
「欲しいならとってごらん、ほれほ~れ」
俺は何をやっているのか。断じて言おう、これはスキルのせいである。俺の意志ではない。
「……っ!」
そして暗殺者の少女は一瞬逡巡し、そして俺の股間に手を伸ばす。
確かに無防備に股間を突き出している俺は無防備である。そう、わざとらしいほどに。
そして――
「んぐんんんんんんんんんんッッッッッ!!!!♡♡♡♡♡♡」
俺に張られた淫乱ドピンク絶頂結界に全力で触れた少女は、叫び声をあげた。
そしてそのまま倒れ、身体を何度も痙攣させる。
――勝った。
空しい勝利である。
「……」
俺はベッドの上で静かに寝息を立てている王女を見る。
嗚呼、彼女がこの暗殺者の嬌声で目を覚まさないで良かった。
「何の音だ!」
「悲鳴!? まさか――あのエロガキが姫様に夜這いを!?」
寝室の外から声と足音が響いて来た。
さて、どう説明したものか。




