第18話 決闘
決闘の場所は砦の中庭だった。
石畳の広場。周囲を城壁に囲まれた、適度な広さの空間。
騎士や兵士たちが輪を作って見守っている。
リンセ王女は侍女たちと共に少し離れた場所に立っていた。興味津々な顔をしている。トゥーンはその隣で腕を組んで難しい顔をしていた。先生は輪の外で腕を組んでいた。
「ローズ、本当にやるのか」
隣の騎士見習いの少女がローズクッコに小声で言った。
「当然だ。辺境の地では実力がものを言う。この私が侮辱されたまま引き下がれるか」
「でも相手は辺境伯の息子で……」
「関係ない。力が全てなのは辺境伯閣下自身の方針だ、まさか息子に危機が及ぶからと撤回などすまいよ」
ローズクッコはそう言いながら、真っ直ぐ俺と父上を見た。
なるほど、実力主義の辺境らしい考え方だ。勇猛である。
ゲーム本編でも彼女は実力一本で王女の護衛騎士になったキャラだった。
「ルールは?」
父上は聞いた。
「シンプルに剣技だけで決めましょう。魔法やマジックアイテムなどの使用は無しで」
「だそうだ。それでいいな、愚息」
「ええ、受けましょう」
魔法なし。
なるほど、それならばこちらとしても都合がいい。
リンセ王女の前で俺のセクハラエロ魔法を披露してしまいそれがどういうものなのか理解されてしまうほうが俺にとっては致命的である。破滅エンド一直線だ。
なら……ここで剣技で負けておくくらいがちょうどいいだろう。
「まあ、この決闘そのものをやめておいた方がいいと思いますけどね。恥をかきますから」
俺がな。
癪ではあるが、魔法専門のエドワルドが騎士見習いに敗北したところで問題はあまりないだろう。
恥はかくかもしれないが……いやむしろ恥をかかされて王女との婚約者である資格なしと刻約破棄に至るのもいいな。今婚約破棄なら主人公キットに公衆の面前で倒されて破滅するという展開は回避されるだろうし。
「知ったような口を……殺す!」
ローズクッコはやる気満々だった。
「頑張ってください、御主人様!」
「がんばれー、我がエロ弟子」
「ふ、ふん! お兄様の応援なんかしてあげないんだからね!」
三人が声援を送って来る。
「どちらも頑張ってください」
リンセ王女が静かに声をかけてくる。
そしてその背後で侍女さんたちが『負けろ、負けて死ね』というオーラを全開にしている。
「それでは……始め!」
砦長の声が響いた。
◇
「はあああああっ!」
ローズクッコは速かった。
最初の一歩で間合いを詰めてくる。
俺は辛うじて最初の剣を躱した。
「……っ!」
見極めていたわけではない。半ば偶然に近いものだった。
――速い!
「ふっ!」
返す刃で二撃めを振るって来る。俺はそれを今度は木剣で受け止めた。
……腕がしびれる。俺はたたらを踏みながらなんとか体勢を取り戻す。
「その程度かっ!」
ローズクッコは大きく剣を上段に構えた。
――ここだ。
ここで一気にやられて倒されて降参すれば無事に収まる。
……いや、しかし無防備に何もせずやられるというのはそれはそれでかっこうがつかない。
せめて一撃。
一度反撃して、それで倒されよう。そうしよう。
そう思い俺は適当に、あてずっぽうに剣を振った。
そして――
剣と剣が、互いの身体が交差する。
次の瞬間。
からん、と音を立て――ローズクッコの鎧が、胸当てが地面に落ちた。
「な……!」
「何をしたんだあのガキは!」
「まさか――防具破壊!」
「あの一撃で的確に胸当ての金具を突いて破壊し、鎧を剥いだというのかよ!」
「よほどの目と腕がないと無理な芸当だ――!」
「大将の息子……もしかしてもしかするのか」
騎士や兵士たちがざわめく。
ああ、確かに傍から見たら一瞬にして的確な剣技によって防具破壊をなしとげたように見えるだろう。
だけどこれは偶然だ。
いや――偶然のはずだ。
俺にそんな剣技の腕は無い。
しかし――心当たりがあるとすれば。
いや、そんなはずはない。
「……まさか、ね。あのエロガキ」
先生のつぶやいた声が聞こえる。先生も俺と同じ仮定に至ったようだ。
……その展開は俺としてはごめんこうむりたい。
頼む、杞憂であってくれ。
「くっ……偶然は二度続かんぞ!」
ローズクッコき身体を反転させ、そして再び突撃してくる。
――まずい!
俺はとっさに剣を突き出し――
「え?」
再び剣と剣が、互いの身体が交差する。
そして俺の木剣の先にあったのは――
ぶらさがっていたのは――
「……なっ!」
ぱんつだった。
ローズクッコが履いていたとおぼしき、白いぱんつだった。洗濯したばかりなのだろう、汚れも染みもひとつもない、綺麗な、陽光に照らされて純白に輝くおぱんつだった。
いや、ちょっと待て。
確かに彼女はエロゲ世界の騎士にふさわしく生足の出ているスカートタイプの服を着ている。
だけどそれでも。
流石に剣を突き出しただけでどうやってばんつ脱がせられるんだよ!? しかも脱がされた相手は体勢は変わっていない、俺と同じように剣を振り抜いた大勢だ。
本当にどうやったんだ俺。これは神業としか言う以外にはない。
「み、見たか今の!」
「どうやったらあんなことが――」
「見ろ、あの抜かれた下着も、そして騎士見習いの衣服も……」
「切られた痕もない……」
「ただ脱がしたというのか、振り抜きざまに!」
「剣聖でも出来るんどうか……」
「姫様、見てはいけません!」
騎士たちがざわめく。侍女さんも叫んでいた。
……間違いない。
この芸当、偶然ではない。俺の実力でもない、というか俺の意志じゃない。
これは……スキルだ。
忌まわしきあの、【エロワード・エロリズム】による現実のエロ改変の力だ!
……なんてこった。
口に出した言葉によるものだけじゃなく、行動の結果までエロ改変されるのかよ!
「き……貴様!」
ローズクッコが顔を紅潮させた。それは怒りか、それとも羞恥か、両方か。
「殺す!」
そして彼女は再び俺に向かって走る。
俺は流石に、後方に跳んで逃げた。
ダメだ。これ以上やってしまえば、俺は彼女を――!
「し、審判! さすがにこれは僕のちょっとえっちな反則負けになるんじゃないかなって!」
俺はそう叫ぶ。しかし――
「魔法使用の反応はなし、ゆえに反則にはならない!」
そう審判の騎士が言う。ええい融通が利かない!
なら――
「負けました! 僕の負けです! この僕の淫乱負け犬ショタボディを好きにしてください!」
四の五の考えてはいられない。降参の声を上げた。
しかし。
「ふざけるな! 降参など認めん! 殺す!」
他ならぬローズクッコがそれを拒否した。ええいこの脳筋!
ローズクッコは怒りにまかせて剣を振るう。
その太刀筋は単調で、先程よりも稚拙。俺はなんとか目で追えるようになったが――どういすりゃいいんだこれ!
よし、剣を捨てよう!
流石に剣を持たない相手を一方的にボコるようなことは騎士道精神に反するだろうし、それを周囲の騎士たちが止める事もあるだろうし!
よしんばボコられて負けても、それはまあそれでよしだ! 防御に徹したら死なないだろうし!
そう思い俺は木剣を捨てた。
捨ててしまった。
剣はからんと音を立てて地面に落ちた。
――ローズクッコの足元に。
「――え?」
そう間の抜けた声を上げたのははたしてどちらか。
ローズクッコの足が、転がる剣に当たり、からまる。
足を取られたローズクッコの体勢がくずれ――転倒した。
ぱんつを脱がされた、スカートの下はなにもはいていない状態で。
それだけならまだいい。いやよくないが――彼女はそのままの勢いで俺にぶつかって。
もんどりうって絡まって。
「……うわぁ」
見ている誰かが言った。
俺は、なんといいますか。
ローズクッコ・メイキーシの股間に顔をうずめている格好で転倒していた。
そう、ぱんつをはいていない女の子のスカートの中に。
汗のいいにおいじかした。じゃなくて。顔面にやわらかい感触があった。この感触、なるほど彼女は生えていないようだ。いやそうじゃなくて。
「――――い」
ローズクッコは震えながら言った。
「いやああああああああああああああ!!」
そして叫び声をあげ、立ち上がり、そのまま走り去った。
「……えー場外。試合放棄として、エドワルド様の勝利」
審判の騎士がそう言った。
「……すげえな」
「ああ……」
「あの小僧、流石は辺境伯様の息子だな」
「ああ、すげえ剣の技量だった」
「防具破壊……それどころか」
「こいつぁ将来すげえ騎士になるぜぇ……」
騎士たち兵士たちがざわめく。
ごめんなさい、めっちゃ買いかぶりですそれ。
そして父上は頭を押さえていた。ええ、まじですんません。
いや、どうすんだよこれ。




