第16話 幾多もの襲撃
モンスターは倒した。
話を聞くに、幸いにも襲ってきたモンスターはこのキメラ八匹だけだったらしい。
「ふっ。つまり私たちは大活躍の大金星ってわけだね、いぇーい」
「流石です先生!」
ドヤる先生をリルがほめる。
しかし……妙ではある。
今まで結界が壊れたことはなかった。それがなぜこのタイミングで?
……何か、裏があるかもしれない。
「私も、気になります。何が起きているのか――知りたいです」
「尻たい、ですか」
俺はリンセ王女に答える。
音声だけ聞いてればセーフである。音声だけなら。
「そうだね。ひとまず結界装置の所までいこうか」
先生が会話に割り込んでくる。正直ありがたい。ここは先生に任せよう。
そして俺たちは結界装置のある場所に移動した。
「あ、姫様、ご無事でしたか!」
そこにいたのは、侍女さんの一人だった。
「ウーラ!」
リンセ王女が呼ぶ。ウーラ、というのが彼女の名前のようだ。
「姫様とはぐれた後、結界が消える気配がして……その気配を追ってみたら、結界装置か壊されていて……」
ウーラはそう語る。
彼女の前には、破壊された彫像がある。あれが結界装置のひとつだ。
「ひどいな、完全に性的に壊されている」
性的ではないが。
ともあれこれはあきらかに人為的なものだった。
「せいてき……ですか?」
「静的動的の静的だね。ようするに静かにこっそり壊されているってこと」
王女の疑問に先生が答えた。というか誤魔化した。ありがとうございます先生。
しかしこれは……調べておく必要があるな。
◇
それから。
何度か、いや……何度も魔物の襲撃があった。
魔法訓練の時。
散歩の時。
村の視察の時。
結界装置の修理が完了する翌日まで、実に五回だった。
まあ、全てを返り討ちにはしたのだが、そのうち半分は地獄絵図みたいなことになっていた。主に俺の魔法で。
ゴブリンがゴブリン同士で乱交始めた上にびくんびくんとアヘ顔晒して痙攣して倒れたり、一角ウサギがその角を他の一角ウサギの尻に突き刺して連結してぐるぐる回る姿とか、もうなんというか。
地獄絵図である。
侍女さんたちは必至に王女の目と耳を塞いでいた。俺が言う道理はないと思うが、お疲れさまである。
「うん、ひどすぎたね」
「御主人様、さすがのひどさです!」
「か、勘違いのしようがないほどひどいんだからねっ!」
「おい愚息、お前は絶対に人前で魔物退治すんじゃねぇぞひどすぎるわ」
みんなからひどいと言われた。はい、俺もそう思います。
◇
リンセ王女の滞在三日目のことだった。
「魔族領に隣接しているトゥナーリ砦への視察に行ってもらいたい」
バカ王子、ヴァーカスがそんなことを言い出した。
「本来は僕が行く予定だったのだがな、ちょっと予定が入ってね」
急用が入ったので王子の代理で父上と俺、そしてリンセ王女に視察に行ってほしいのだという。
その急用とやらが何なのかは教えてもらえなかったが。
そして、
「わかりました兄上。私、魔族領に隣接する砦というものを見てみたいです」
このリンセ王女の言葉で、行動は決定したのだった。
……そろそろわかってきた。
リンセ・スプー・ウェンロッゲ王女。
彼女は無知である。
そして無知ではあるが決して愚かではなくむしろ聡明であり、そして無知が故に知識欲が旺盛なのだ。
一言で言うと、知りたがりなのだ。
王宮で守られて純粋培養で育てられた。故に、知らない事を知りたいのだ。
その好奇心は、俺にとっては多少困りものではあるが。
下手にセクハラエロワードを口にして、それは何ですかと問われれば説明に困る。もし説明の結果、彼女がセクハラを理解してしまったら――
俺は即破滅である。
故に、彼女との付き合いは慎重にしないといけない。
そんな彼女は砦への視察に興味津々なようだ。
そしてそれを断る事は俺には出来ない。
父上も、バカ王子の命令を無下には出来ないからな。何しろ砦の視察は国境を守護する辺境伯として当然の仕事であるからだ。
……父上の顔は露骨に嫌そうではあったが。そりゃそうだ。
「逃げるなよ愚息」
「逃げませんよ、姫様の処女ゲットのチャンスですから」
俺は父上の言葉にため息をついて答える。無論言葉は意図と違っているが、父上はスルーしてくれた。
「やれやれ。お姫様の護衛ならこの天才魔術師も必要だね」
「か、勘違いしないでよねっ、お兄様と姫様を二人きりにするのは危険だからお目付け役としていくんだから!」
先生とトゥーンも言ってきた。
先生は頼りになるがトゥーンは……まあ、王女の相手役としては適任だろう。確かに俺と王女と二人でいたら不安しかないのだから。
「皆様、お願いします」
リンセ王女が優雅に頭を下げた。
そうして俺たちは、トゥナーリ砦への視察に行くこととなった。




