第14話 奴隷と王女と先生と
というわけで、俺とリンセ姫、そして侍女さんたちの計六人は魔法修練場へとやってきた。
「な、なんでお姫様がここにいるの!? か、勘違いしないでよね、私がここにいるのはお姫様を出迎えるためじゃなくて、魔法の勉強してただけなんだからねっ!」
「うん、普通にそうだね。で、君たちは何しに来たの。見学?」
トゥーンと先生が言ってくる。
さてどう答えるか……。
「はい、魔法の先生がいると聞きまして。初めまして、ウェンロッゲ第一王女、リンセ・スプー・ウェンロッゲです」
リンセ王女は可憐に会釈をする。
「ふっ、初めましてだねお姫様。エルニズム辺境伯家お抱えの秘密兵器、天才美少女天才魔術師、メイジーメイ・ブラックです。以後お見知りおきを」
びしっ、とポーズを決める先生だった。
「わ、私はエルニズム辺境伯の長女、トゥーン・エルニズムですわ! 王女殿下にはご機嫌うるわしく。でも勘違いしないでください、私は王女様をお兄様の婚約者だなんて認めませんから!」
トゥーンは王女に敵愾心を抱いているようだ。
まあ、彼女はちゃんとしている子だから変な事にはならないだろう。俺の口と違って。
「ふむ」
先生がリンセ王女をじっと見た。まるで珍しい標本を観察するような目だ。
「魔力はあるね。それも大したもんだね。ふーむ、王族だからかな。訓練は?」
「宮廷魔術師から基礎を習っております」
「基礎か。じゃあ実際にやってみてよ。何でもいい」
王女は少し考えてから、すっと手を伸ばした。
「光の精霊よ、我リンセ・スプー・ウェンロッゲが命ずる。我が手のひらに集いてその輝きを灯せ」
掌の上に、柔らかい光の玉が生まれた。
淡く温かい、綺麗な光だった。
「……へえ」
先生が目を細める。
「光魔法か。珍しいね。ライトトーチだね。しかも光に揺らぎがない……かなり安定してるね、うん、筋がいいよ王女様」
「ありがとうございます」
光魔法は確かにレアな魔法体系だ。
ゲーム本編では、使用できたのは王女リンセのみだった。
「この魔法、エドワルドは……やっぱやめとこうか、ひどいことになるね」
先生が言う。俺も同意だ。俺が試したらきっとドピンクの光が部屋を染め上げるとかそんなかんじになりそうだ。
「じゃあ、王女様もいるし、改めておさらいと確認も兼ねて基礎理論からやっていこうか。
ああ、エドは外で自主訓練でもしとけ、勝手にロンリーに」
先生はしっしっ、と手を振る。
その態度に思う所はあるがしかし俺は先生に素直に従う事にした。
変に俺が授業に混じったらスキルのせいでややこしいことになりかねない。
今日の俺はなるべく無口で行くのだ。
俺は黙って外に出た。
「あ、ご主人様!」
外にはリルがいた。俺を探していたようだ。
「ああ、なんですか僕の未来のエロ奴隷」
「朝から見なかったので、さがしていました!」
「僕の将来のエロワイフが来たので挨拶と案内をしていたのですよ」
「そうだってんですね、さすがです!」
会話が成立しているのかしていないのか。
ともあれ、さっきまでは極力言葉を出さないようにしたり、必死に言葉を選んだりで疲れたから自由に話せるのは安心する。
そういう意味では、この子を買ってよかったと思う。ストレスが無いというのはよい。
まあ、それもゲーム本編シナリオが始まるまでのことだけど。
「? どうしたんですか、ご主人様」
「いや、こうやってリルと猥談できるのもあと五年くらいだな、と思いまして」
「五年たったらついに抱いてもらえるんですね! 楽しみです!」
五歳児の言葉ではない。ませすぎだろう。
「そうシたいのは山々なんですけどね。でもリル、君の運命のエロご主人様は僕じゃないんですよ」
そう、彼女の運命の主はキットだ。
俺はそれまでの中継ぎにすぎない。
もっと言うなら、俺が彼女を手元においているのはいずれ円満にキットに渡すことでキットの心証をよくして破滅回避を……という下心にすぎない。
どう見ても俺は、エドワルド・エルニズムはリル・フェーンの真の主にはふさわしくないだろう。
「うーん……」
しかしリルは納得していないようだ。
「これは、運命って奴なんですよ。誰もが受け入れなければならない性癖のようなものです」
「でもですね、ご主人様」
リルは言った。
「サスゴシュ人の言葉で、こういうのがあるんです。人は皆運命の奴隷だって」
「……そうですね」
「だけど、ボクたちは眠れる奴隷なんです。目覚めることで、意味あることを切り開いていく……眠れる奴隷」
何か黄金の風が吹きそうなせりふを言い始めた。
「そしてボクは、初めてご主人様を見たときに……目覚めたんです」
宗教じみたことを言い出した。
しかしサスゴシュ人って五歳児でこれだけのことを喋れるのか。基本スペック高いとは子聞いていたが知能も高いんだな。
しかし……こうまで思いこんでいるならこれ以上何を言っても無駄か。ここは話を合わせておこう。
とうせキットに出会ったら彼に運命を感じるだろう。要するにこれは、雛の刷り込みや幼稚園児が先生や親に初恋するのと同じうん、絶対に手を出さないようにしないとな。流れで手を出して後で主人公と二人がかりで襲われたら目も当てられない。
「ええ、わかりましたよ。じゃあリルが大人になったらたっぷりと仕込んであげますね」
「はい!」
そういう話をしていた時だった。
「……エドワルド様、その子は」
後ろから声がかかる。
リンセ王女だった。
「ああ、紹介します。僕の将来の雌奴隷です」
「はじめまして、リル・フェーンです」
リルがメイド服のスカートをもってお辞儀をする。
それを見て三人の侍女さんたちの顔が軽蔑の色に染まる。
「こいつマジか五歳児を……」って顔だ。ええ、わかりますよすごく。でも「将来の」という枕詞に注目してください。
そういや一人足りないな、さっきは四人だったけど。トイレだろうか。
「……もしかして、サスゴシュ人でしょうか」
「流石は姫様、お目がえろい。よくわかりましたね」
「それは、まあ。色々と聞き及んでたので」
まあサスゴシュ人は伝説だからな。
「リルさん、あなたはサスゴシュ人なのですか?」
「はい、ボクはサスゴシュ人です。見抜くとは流石ですね、御嬢様!」
「お姫様です」
横から侍女さんの一人が口を挟んで来た。
俺以外には会話するらしい。
「あ、申し訳ありません、お姫様!」
「よろしい」
侍女さんはそう言った。
リンセ王女が特に咎めていないとの、腐っても辺境伯家長男である俺の所有奴隷ということで無礼討ちということはないようである。
「よろしくお願いしますね。私はリンセ・スプー・ウェンロッゲ、あなたの御主人様の婚約者です」
「! そうなんですか、流石です!」
何が流石なのだろうか。
「御主人様はすごいんですよ奥方様!」
奥方様て。
やめて、侍女さんたちの顔がものすごいことになってる。
「御主人様は見た事も無い魔法も使えるんですよ!」
「……それは見てみたいですね」
やめて。
そうならないように先生たちの所から避難してきたのに。
「……あきらめるな我が弟子よ」
先生が言ってきた。
「見せてやるのじゃ、そなたの術を」
「ロリ先生……」
何を言っているのか。
とにかくここは頷いては駄目だ。断固として断らないと。
「わかりました、最高の露出プレイを見せてあげようじゃないですか」
セクハラ変換を越えて意図と別のことすら口走るこの口を本当にどうにかしたい。




