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悪役イケメン王子に転生しちゃったおじさん  作者: 天城


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第17話 おじさま、反撃開始①




「殿下、翡翠宮に宰相補佐が訪ねてきたそうです」


 せっせと種をまき続けて数日。

 ルードの報告を聞いて宗一郎は手元の書類から顔を上げた。


「やっと呼び出しかな」

「急ぎ王宮まで足をお運び頂きたいとのこと」

「邪魔者扱いしておいて都合の良い」

「まったくです」


 ルードの渋面を見て宗一郎は穏やかに笑った。


(宰相本人ではないものの、宰相補佐か)


 相当追いつめられているのだろう。

 それもそのはず、宰相は王命にて騎士団を動かせと貴族たちにせっつかれているはずだ。


 宗一郎はここ数日の報告メモを確認した。

 馬車の汚損事件は一日に四、五件ほどだが日数が経つにつれ被害者の数は増えている。高位貴族もいるので彼らはすぐに犯罪者の取り締まりを要求してきたはずだ。

 捕まえたら即刻打ち首レベルの怒り心頭ぶりで。


 ――が。

 たかが馬糞である。洗えば綺麗さっぱり落ちてしまう。


(人が死んだわけではなく、怪我人もいないのにね)


 平民出身の多い警邏(けいら)の騎士では「打ち首にするほどか?」という感覚だろう。メンツの問題なので、貴族社会に詳しい者にしかその酷さがわからない。

 当然、犯人捜しには身が入らないだろう。

 そして被害は拡大していく。


 王命で騎士団を動かすには、王の代行をしているゼファルの一言が必要だ。

 それを発するためだけに呼ばれたのである。


(昨日の夜の時点で、原典の赤い文字は確認済み……だいぶ改変部分が増えたな)


 宗一郎は毎日寝る前に、読書の時間を設ける。

 原典を開き今日進んだ部分をすべて復習するのだ。見逃しがないように進捗を確認するのも管理者の務めだった。


「では明日にでも行こうか。知らせを出しておいて」


 今すぐ慌てて出て行っては向こうの思う壺だ。

 少しは(あせ)らせてやらなければ。


「護衛はルードに頼むよ」

「はっ」


 宗一郎は、神殿に行く話をしたとき以来あちらの仕事場に近づいていない。


(さて、いないほうが仕事がはかどるという認識は改めてくれるかな)


 貴族たちが直談判してくれば、身分の低い文官では対応しきれない。

 そして宰相が出て行って宥めたとしてもなかなか納得は得られないだろう。

 そもそも宰相には、騎士団を直接動かす権限はない。独断でやれば罪人なるのは宰相側だった。


(トップがいるのに、自分たちですべて解決できると考えてしまう体制こそダメなんだよねぇ)


 宗一郎はにこにこしながら文官の業務改善計画を頭の中で練っていた。


      ‡


「ゼファル様! どうかこの者たちの処罰を!」


 数日の後に、謁見の間にて貴族たちの訴えを聞くことになった。


 ここに至るまでに、宗一郎は文官たちにしっかりと立場を認識させ、これから彼らの業務にメスを入れることを約束してきた。脅しではない、必要なのでやっているだけだ。


(さて、捕縛された人たちは誰だろうな……レナードの仲間ではないようだけど)


 縄で縛られた一般市民が罪人のように跪いている。まるでラフィセルの断罪時のような、土下座の集団を前に宗一郎は内心でため息をついた。


 彼らは適当な市民を捕まえて犯人をあぶり出そうとしているらしい。罪のない者たちが次々に処刑されれば、市民が一丸となって犯人を売るだろうと考えているのだ。


「お待ちください! 殿下!」


 バンッ、と扉が開く。

 近衛に案内され、神官長とメリアが謁見室へと入ってきた。


「その者たち、冤罪であったなら女神がお許しになりません。罪状は明らかなのですか? 神に誓えますか?」

「な、なんだ突然! 神殿の者など呼んでおらんぞ!」


 神官長の横でメリアは神官の衣装をまとい、お盆を捧げ持っていた。


「ここに女神へ祈りを捧げた聖水をお持ちしました。偽りを口にする罪人は、飲むと酷くもがき苦しむといいます。……まず効果をご覧にいれましょう」


 連れてきたのは二人の食い逃げ犯と店主だった。

 店主は食い逃げ犯が相席していたどちらかなのを疑っていて、二人はどっちも「自分じゃない」と叫んでいる。


「……」


 二人をジト目で眺めていたメリアが動いた。

 スッ、と男たちにそれぞれ聖水のカップを差し出す。


「……!」

「ごふっ! ぐふぁっ!!」


 片方の男は白目を剥いて泡を吹き倒れた。

 もう一人は呆然としつつ聖水を飲み干している。


「ご覧ください! 女神のお力です!」


 神官長は高らかに声を響かせた。貴族たちも恐ろしげに慄いている。

 

(なかなかの演技派だなぁ、彼)


 宗一郎は以前と同じく王座に腰掛けたまま、なりゆきを見守っていた。

 偽りを言うと苦しむ聖水?

 そんなものあるわけない。この茶番を笑えないのは、本物の罪人だけだ。


「がん、ばる。おじちゃんのため」


 聖眼を使ってメリアが男たちの言葉の真偽を確かめ、苦い薬か普通の水を渡している。

 ちなみに無色透明で飲むと失神するほど酷い味の薬は、ギルバート作だ。


 彼が嬉々として「こんな味でどうですか~!」と持ち込んだ薬の味見で、被害を被ったのは主に近衛騎士たちである。


「……――ッ」


 今も控えている部屋の隅で、青い顔をして聖水の瓶を眺めていた。


「ではその聖水を、捕らえた者たちに飲ませよ」


 宗一郎が指示すると、全員が「馬糞など投げておりません!」と叫んで聖水を飲み干した。


……。

…………。

もちろん誰一人、倒れないのである。


「無罪のようだが?」


 ため息交じりの声が響き、ピリッと空気が緊張した。


「――お待ちくださいゼファル様!」



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