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悪役イケメン王子に転生しちゃったおじさん  作者: 天城


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第13話 【閑話③】メリア






『お前はその存在が神への冒涜(ぼうとく)


 怖い顔した男の人はいつも私にそう言い聞かせた。


『まさに穢れそのもの。決してその姿を他人に晒してはなりません。……この部屋で大人しくしていなさい』


 大きな男の人はみんな臭くてうるさくて、手がガサガサで怖くて痛くて、大嫌い。

 女の人はみんな悲しそうに私を見る。かわいそうねって言って涙を流した。


 違う。メリアは『かわいそう』なんかじゃない!!







 ――私の目には嘘が見える。

 その人が口に出した言葉と、思っていることが違うとぼんやり青いもやがかかって見えるんだ。


 でも見えた通りに嘘だと言うと、相手は怒り出した。

 だから、私はそれを口にしないことにした。


 そんな風にすべてが青に沈んでいた世界に、優しい暗闇が現れた。


「――メリア、私と行くかい?」


 あの日から、おじちゃんに青いもやが見えたことはない。

 だけどその声は、おじちゃんとおにーちゃんのふたつの声が重なって聞こえた。


 おじちゃんはいい匂いがして、心地よくて優しいから大好き。


 美味しいお菓子をくれたからじゃない。

 あの部屋から外に出してくれたからでもない。

 お母さんと一緒に暮らせるようにしてくれたから、でもないよ。


 その優しい目に嘘がないってわかったから、ついていくと決めたんだ。


 私の目に映るおじちゃんの身体は傷だらけだった。

 魂もツギハギだらけで、まるで一度砕かれたものを乱暴に繋ぎ合わせているみたいだった。


 ある日のお祈りの時間、女神様は私に言った。

『あの人はお前たちの救世主よ。大事になさい』


 神託だって言われても。

 私が未来の聖女だって教えられても。

 

 むずかしいことはわからないけど、おじちゃんのことは好きだから、大事にするに決まってるじゃないの。


『メリア? どうしたんだー?』


 ルルが絨毯にひっくり返ってお腹を出したまま、こっちをキョロリと振り返った。

 首が変なほうに曲がっているけど猫はこれが普通みたい。


「おじ……ゼファル様とお昼寝したいの」

『おお。あいつまた紙の束で遊んでんだろ? 誘いに行こうぜ』

「うん」

『……治療、上手くいきそうか?』

「まだ、わからない。たましいをふたつ、足りない部分を繋ぎ合わせて、傷を塞ぐのに大変」

『そうだよなあ。オレもそんなの見たことないわ』


 私たちは、昼寝といってはおじちゃんにくっついて、魂の割れ目が広がったりそこから砕けたりしないよう神聖力を注ぎ続けている。



――おじちゃんは、()()()()が女神様に願った救世主だ。


 世界を救った後の聖女の『私』は、女神様から「何かほしいものはないか」と聞かれてこう答えたらしい。


『優しいおじさんに過去の自分を助けてほしい』


 父親ではない。

 血縁でもない。

 ただただ、優しいおじさまに拾われて助けられて、甘やかされて育ちたかった、と。


『足長おじさんなだけじゃないの。細かい除外項目があったのよ。怒鳴る人はイヤとか堅苦しい人もヤダとか、でも落ち着きのない人はイヤだとか……貴女のオーダー、もの凄く厳しかったのよ?』


 げっそりした声で女神様はいった。


『それに合致する人は異世界探してもたった一人しかいなかったの。見つけた時は嬉しかったわ。この人ならいける! って。だからうきうきしながらこちらに引き寄せようとして――うっかり砕けちゃったの』


 ……失敗したのだと女神様は言った。

 異世界中探したってたった一人しかいなかったのに。


 慌てた女神様は、その欠片を拾い集めて、たまたまこれから数年後に死ぬ運命の人物の()()()()()()()()へと命を繋げた。


 それが、今のおじちゃん……ゼファル様である。



『はあ、無茶したわ。あんな魂のキメラはじめてなのよ。でもまあ、謝っておいたから大丈夫でしょ。ちゃんと貴女たちも救ってくれそうだし! 災い転じて福となすって言うしね!』


 この場合、おじちゃんにとっての災いは女神様ではないだろうか。

 私はそう思ったけれど、何も言わずにいた。


 おじちゃんをこの世界に連れてきてくれたことに関しては、女神に感謝したっていいと思っていたんだもの。



 ――だから今日も私は、




『ゼファルー! 天気がいいからお昼寝しよーぜー!』

「枕もってきたよー」


 ばぁん、と扉を開け放ちルルと私はおじちゃんに突撃していった。

 腰のあたりにひしっと抱きつけば、朱色の瞳が困ったように見下ろしてくる。



 私はにんまり口の端を上げた。


「お昼寝よ、ねんねよ」

「はいはい、メリアには敵わないな」


 ……そう、おじちゃんは私にとーーーーっても甘いのだから、しばらくはこうして好きにさせてもらおう。


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