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悪役イケメン王子に転生しちゃったおじさん  作者: 天城


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12/22

第12話 おじさま、ようやく現状把握③


『ゼファルー。忙しいの? ねえ忙しい?』


 白猫のルルが膝に飛び乗ってきた。

 こちらが見ている書類など気にもせず、ごろんと横になって腹を見せている。

 半分机に乗せた頭で、書類を持つ宗一郎の手に耳と鼻先を擦りつけていた。


 完全に邪魔するモードに入った白猫を片手で撫で、宗一郎は穏やかに微笑んだ。


「大丈夫だよ。もうすぐ終わるからね」

「そう言いながらずっと続けていらっしゃいますよ、殿下。昼食を運ばせますから、休憩されては?」


 ギルバートがいつもの糸目で困り笑いをしながら、新しい荷物を運び込んできた。その木箱に入っているのは過去の取引記録や帳簿などだ。

 宗一郎は新しい紙の束を手に取る。


「そうだね、この一冊が終わったら」

「殿下~? さっきも聞きましたねぇ、それ」

「そうだったかな……?」


 今現在、宗一郎が作戦の拠点としているのは、アデルバーグ商会の借りている物件だった。

 王都の端にある二階建ての屋敷である。


 ここを使うことになった理由は単純で、フォルヴァイン公爵が立て続けにゼファルの宮に押し入ろうとしてきたからだ。

 そんな状態ではおちおち聖獣と昼寝もできないので、カモフラージュの護衛騎士を数人だけ配置して、全員で大移動をしてきた。

 ルードもメリアも聖獣も、そしてラフィセルも一緒である。


『なぜゼファル様がご自分の宮を追われるのですか!』


 ラフィセルは涙を滲ませて怒ってくれたが、宗一郎はいま、リヒャルトの悪事の詳細をかき集めている所だ。

 本人がどんどん墓穴を掘ってくれるのであれば、『日時・場所・行動』の記録をとらせて、(きた)るべき時まで保管しておくだけだった。


(セクハラパワハラの対処は記録がものをいう。これに音声記録なんかもできれば完璧なんだけどねぇ……)

 

 そして王の暗殺を企てた者たちのあぶり出しもそろそろ終盤だった。


「本当に助かるよギルバート。これだけ集めるのは大変だっただろうに……」

「いえいえ、殿下のためなら火の中水の中。アデルバーグ商会が新薬の利益を独り占めできるのは殿下のおかげですから!」


 糸目のギルバートが言うと、どことなく胡散臭さが漂う。

 しかしふざけてみせるもののそれが彼の本音であるのは宗一郎もよく知っていた。


 ギルバートは原典でも、妹の治療薬を手に入れるため、裏で情報屋のようなことをしていたのだ。

 そもそも商人という立場上、表の情報だけではなく近隣諸国の裏事情にまで精通している必要があったのだろう。


「あの、失礼します。お昼をお持ちしました」


 ひょこ、と扉の向こうから金髪の女性が顔を出した。二十代くらいの女性の横には、ジト目のメリアがぴったりくっついてお盆を掲げている。


「さすがはライラ! 今頼もうと思っていたところだよ。ささ、殿下にお持ちして」


 極度のシスコンであるギルバートは、彼女を絶賛しながら中へと促す。

 黒瘴症が完治したライラ・アデルバーグは利発そうなお嬢さんだった。今は兄の手伝いをして、商会の経理を担当しているという。


「おひる、たべよー」

「ああ、これは敵わないね。うん、食べようかメリア」


 ギルバートの策略には違いないのだが、メリアが甘えてくるとどうも逆らえない。

 宗一郎は資料を置いて席を立った。


 もちろんルルは腕に抱いている。

 長く白い尻尾がくるりと巻いた。


「そういえば、神殿のほうはどうかな」


 食事の席につき、パンに手を伸ばしながら宗一郎が問う。

 ギルバートは待ってましたとばかりに手を打った。


「よくぞ聞いてくださいました! 実は首尾良く大神官を隠居に追いやりまして」

「おや」

「大神官の失脚によりその周囲のお偉い方の派閥も空中分解しましてねぇ。一人ずつそそのかしていきましたら、ほぼ会議の決定権が得られるくらいの数抱き込めています」

「それはすごいな」

「殿下が直接お話ししたのは神官長ですよね。あの方、実は娼館に借金がありましてぇ……」


 にこにこと上機嫌で話すギルバートの横で、ライラは他に三つの皿を用意していた。

 ハシビロコウの聖鳥でも食べやすいスープの皿。

 モモンガが直接乗って果物が食べられる皿。

 そして猫用の深めの器にミルク粥がたっぷり。


『いただきまーす』

「はい、めしあがれ」

 

 ここで世話になる上で彼らが聖獣だということは説明してあるが、ギルバートもライラも動じる様子はなかった。


(肝の据わった協力者がいるのはありがたいな)


「おじちゃん、あーん」

「あーん」


 宗一郎の膝に乗ったメリアは、これが仕事だと思っているのか、せっせと宗一郎にちぎったパンを運んでくれる。


「スープもあーん」


 零しそうになる皿をさりげなく支えながら、宗一郎がスプーンに向けて口を開くと――

 バァンッ! と大きな音を立てて部屋の扉が開いた。


「メリアァァ! ずるい! 給仕は僕のお仕事なのに!」

「うるさぁい! ラフィセルがいないのがいけないの~」

「しかもまた膝に座って! ゼファル様の、お膝にッ!」


(そんなことで泣かなくてもラフィセル……)


 黒いフードに革の装備。

 隠密スタイルで現れたのはルードとラフィセルだった。




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― 新着の感想 ―
カクヨム版から読んでます。 ところで、ギルバート(糸目商人さん、めちゃめちゃ好き)さん?の妹ちゃんの名前はアンナだったかヨナだったかだと思うんですけど、カクヨム版でも途中からライラになってませんでしょ…
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