冒険の書 X7
面倒事がありそうだし、素材買取の店なんかは他にあったのでなら寄らなくても良いか、と思っていたギルド。
正式名称は【冒険者支援ギルド】。
冒険者を必要とする依頼の仲介や素材の買取、パーティーの斡旋なんかをしているらしい。割と想像どおりだ。買取はちょっと高めに買い取ってくれるとか。
普通の街なら大体1つはこの組織の建物がある上、組織として独立しているため冒険者の立場もかなり守られるらしい。普通この世界にきて最初の方にに来るところなのに初めて入ったわ。
受付でアランが話すとすぐに奥に通される。VIP待遇じゃないか、あの時のガキんちょが立派になってる。
「外では何かと話しにくい事もあるかと思いまして…。ご迷惑だったらすいません。」
「いいよ、俺も知りたいことあるし。悪いけど俺からも色々聞かせてくれ。」
もちろんです!!と嬉しそうに笑うアラン。なんかめちゃくちゃ爽やかイケメンになってる。顔はショタっぽいけど。
アイとモノ子は暇そうに俺の身体を跨いで指遊びしている。君ら仲良いね、いい事だけど。
「早速で申し訳ないですが…。キョウスケ様はあの時自分の目の前から消えました…。
自分はてっきり…。」
遠慮がちだが話題は豪速球だ。まあ気になるよな…。
少し悩むがここはある程度正直に答えてみようと思う。今後の事も考えると魔王に負けた元勇者というポジションはどうなるのか知っておかなければならない。
「一応、あの時俺は死んでる。だが【勇者の制約】で生き返った。」
さあ、どういう反応がくる。俺はそもそも勇者という立場がどういうものかも知らない。出来るだけ情報が欲しい。
「…キョウスケ様が…勇者……?あ…勇者の生き返る力…。」
「その通り、あの時は情けない所見せたな。
それで最近魔王に戦いを挑んだんだけど、ボロ負けしたんだ。腕はその時にな。」
アランが椅子からひっくり返る。忙しいやつだな。明らかに動揺してプルプルしている。
「さ…さすがキョウスケ様。お強いとは思っていましたが、勇者な上まさか魔王と戦って生きて帰ってくるとは…。自分が知る限り魔王の城に赴いて生きて帰った者はいません。」
「やっぱりそうなのか。あいつクソ強かったからな…。絶対死んだと思った。流石にもう一度挑む勇気はないな。」
表情を曇らせるアラン。この街にいるということは恐らくアランも魔王に挑むつもりだったのだろう。
「…ここまで大事だとは。すいませんキョウスケ様。流石にここまでだと自分1人で聞く訳には行きません。ギルドマスターを同席させても?」
面倒事の気配PART2だが、俺も情報が必要な事に変わりはない。
そのギルドマスターとやらに入って貰う事にした。
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「私がこのガデアのギルドマスター、アルバフだ。よろしく。」
「京介です。よろしく。」
アルバフと名乗る初老の男性と握手をする。
どこか警戒された気配を感じるな、まあ当然か。
アイとモノ子は飽きたのか俺の左右で昼寝を始めてしまった。自由すぎる。アイは難しい話とか興味無さそうだが、モノ子もクール系にみえて結構自由人よね。
「軽くは先程私を呼びに来たアラン殿から聞いている。
キョウスケ殿、貴殿が【勇者】であるというのは本当か?」
「…正確には今は違います。魔王に敗れた際に勇者としての加護と制約は失いました。」
どちらかと言うとアイに会ってから失ったっぽいがまあ嘘は言ってない。正直俺よりアイやモノ子の方が今はよっぽどヤバそうな存在だろうからな。
出す情報は俺のだけに絞ろう。
「ふぅむ…、ではあの国が勇者召喚を行ったというのは本当だったのか。なんせ勇者は単独行動、情報がほとんど入ってこんのだよ。
だがかつて勇者で今の貴殿は勇者ではないと、それを証明出来る物は?」
「…勇者の証明は出来ません。もう勇者ではないですから。ただ、今俺がこうして話せている事、隣にいるこの2人の仲間がもう勇者では無いことの証明…ですかね。」
「ギルドマスター、自分がキョウスケ様に以前お会いした時おひとりでしたし、会話も【いいえ】しかおっしゃいませんでした。自分はキョウスケ様が嘘を言っているとは思えません。伝承通りならそうでしょう?」
アランが助け舟をだしてくれる。制約については知れ渡ってるぽいな。勇者について載ってる本があるんだっけ?後で確認しておくか。
「うむ…。アラン殿がそういうなら今は信じるしかないか…。
それではキョウスケ殿。魔王についてお聞かせ願いたい。」
「……情報提供する事自体は構いません、しかしこれは俺が死にかけて腕を失って得た情報です。
はい分かりましたで話す程こちらもお人好しでは無いつもりです。」
これに関しては本気の本心だ。なにも無しにベラベラ喋ってたら死ぬ思いしたのにただのつかいっぱしりすぎる。
「……いいでしょう。何をお望みですかな。」
「話が早くて助かります。1つはこちらにも情報提供を、この施設で閲覧出来る情報を可能な限り提供いただきたい。もう1つは金銭。これから旅をする予定なのでその資金を。」
「…渡せない情報もあります。ギルドの機密などはお渡し出来兼ねます。金銭は可能な限り言い値を用意いたしましょう。もちろんそちらの情報次第ですが。」
「ありがとうございます。ならばこちらも可能な限り情報を提供しましょう。」
そうして俺は魔王との戦いについて話した。
四天王に関しては半年以上前に倒した事を告げると目撃情報と見なくなった時期が一致するのか安堵していた。
被害状況としては1番は魔物による被害、次が四天王を名乗る強力な魔物による被害、実は魔王本人による被害は報告されていないらしい。
まあ目撃者が死んでたら報告もないんだろうけどな。でも魔王は外に出てあまり活動してない可能性はあるか。
「そういえばアラン、聞いていいか。アランは今Lvいくつなんだ?」
俺が魔王に挑んだ時は確かLv150位だった気がする。魔王に挑もうとしているこの世界の上澄みはどのくらいのLvなのだろうか。
「はい!自分は先日ようやく限界値のLv99になりました!」
「え?限界値?なにそれ。」
ポカンとした顔をするとアランとギルドマスターが顔を見合わせる。
「…キョウスケ殿、まさかとは思いますが…。
Lvはお幾つですか?」
「……今はちょっとステータスがおかしくなってしまってて確認出来ないが。ただ魔王に挑んだ時は…Lv150程でした。」
明らかに目の前の2人の顔が強ばってる。
他人のステータスを知ることが無かったがゆえの弊害。実は今まで一切恩恵を感じなかった【勇者の加護】。
本に載ってるらしい歴代勇者に関しても制約に関しては案外分かりやすかったが、Lvに関してはわからなかったのだろう。
ゆえに誰も気づかなかった事実。
「なるほど…。【勇者の加護】の力、Lv上限解放だったのか…。」
「は…ははっ…キョウスケ様、冗談キツいですよ…。
キョウスケ様のLvが150で、それでも魔王に負けたなんて…。」
明らかに顔色が悪いアラン。そりゃそうだ。自分より1.5倍Lvの高いやつが勝てなかったんだ。RPGだとしたらクソゲーにもほどがある。
「ステータスやLvが全てではない…が、Lvが上がれば強くなるのは道理。キョウスケ殿、1度貴殿の実力、拝見させていただきたい。」
面倒になってきたが仕方ない。なんか魔物でもぶちのめしてこれば納得してもらえるかな。
「アラン殿と1体1で模擬戦をしていただきたい。」
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ギルドの訓練場、冒険者が訓練したり試験の際に使うらしい。
刃引きのされた片手剣を掴み、振るう。
一時期は二刀流だった為、右手でも使えないことは無いがやはり少しぎこちないな。
「浮気浮気浮気…。」
隣で恨めしそうな顔で俺の持ってる片手剣を睨むモノ子。仕方ないだろ、モノ子が話した通りならモノ子を振るったら下手したらアランが真っ二つになっちまう。
『キョースケ、大丈夫?』
「ん、大丈夫だ。終わったらまた宿で美味しいご飯食べよう。」
右腕だけになって初めての剣を使った戦闘。片手だけでは受けでは無く流すような戦い方を要求されるだろう。
武器を2つ使った二刀流スタイルの時には必要に駆られてそういう戦い方もしたことがあるが上手くいくだろうか。
あとはLv差も考えると直撃を当てるのもやばいかも…。刃引きされてても大怪我させてしまうかもしれん。
「キョウスケ様、よろしくお願いします。」
剣を構え、アランの前に立つ。
この戦い、下手な負け方でもしたらアランがすぐにでも魔王に挑む事になる。アランが俺より強いなら問題ないが、中途半端な強さなら命を無駄にするだけだ。
少なくとも知り合いを見殺しにするわけにはいかない。
「試合、開始!!」
号令と同時にアランが前に出る。正面からの袈裟斬りの軌道を剣でずらして回避する。
速いし重い…が右手でも対応可能圏内。
続け様の連撃も打ち払い、ずらして回避していく。
「…あの時とは違いますね!あの時のキョウスケ様はもっと暴力的で圧倒的だった!!Lv150はこの程度ですか!!」
「無茶いうなよ、こっちは利き手無くしてるんだからさ。」
「二刀流…だったでしょう!!【フィジカルブースト】【エンチャントフレイム】!!」
アランの剣が燃え上がり、剣を振る速度もかなり上がる。なんとかこれもずらす事に成功するが、少し腕が痺れる。
片手じゃ受けれないとはいえ、慣れない逸らしをするのはなかなか心臓にわるいな。
というか強化魔法ってそんな名前なんだ。
そこからどんどん加速していくが、なんとか全て無効化する。
「ずいぶん強くなったな。同Lvなら俺が負けてるかも。…なら【オーバードライブ】!!」
剣を弾きながら全身に巡らせていた魔力を水と火の魔力に別々に変換する。
血が沸騰するような感覚を味わいながら、踏み出す。
そのままアランの背後に回り込み、首に剣を当てた。
全身から蒸気のように湯気が出、熱さと痛みに耐えながら勝利宣言する。
「俺の…勝ちだ…。」
アランはゆっくりと剣を落としてこちらに振り返った。
「【オーバードライブ】。俺のオリジナル魔法。前に名前も付けたんだ。魔法の名前言ったのは初だけどな。」
水の血流操作と火の体温上昇で無理やりリミッターを外す自作の強化魔法。
使うと体の中がボロボロになるし、無理してもせいぜい使用時間10分が限界だが、めちゃくちゃ早く動けるしパワーも上がり多少無理な動きも出来る。
「これに別の強化魔法を重ねがけして10分間持続した上で魔王にボコボコにされた。
アラン、キツい言い方するけど、今の俺の動きが見えてなかったならもっと強くなってから魔王に挑んだ方がいい。」
「…はい、ありがとうございました。師匠。」
弟子にした覚えはないが、まあいいか。
アランに対応出来る手があったのならまだ食らいついてきただろうが、あの時点で敗北に納得していた。引き際を理解しているのは相当立派だと思う。
これでアランも無駄に命を捨てるような戦いに挑むことも無いだろう。
「……京介。」『…キョースケ。』
振り返ると、めちゃくちゃ睨んでる二人。
「…その魔法は死んで生き返る前提の魔法。二度と使わないで。」
『キョースケの身体ボロボロになってる。次したらもう治してあげないからねー。』
抱きついて回復魔法をかけながら絞め技をしてくるアイと溝打ちに拳を叩き込んでくるモノ子。
やばいめっちゃ怒ってる。
「痛い痛い!!今回はこれが必要だとおもったから」
「京介。」『キョースケ。』
「…はい、二度とつかいません。」
こうして俺のオリジナル強化魔法 【オーバードライブ】ともう1つ、【オーバーブースト】もお蔵入りとなった。デメリットありの必殺技ってかっこいいと思うんだけどなぁ…。
「キョウスケ殿、大変失礼致しました。まさかアラン殿が一太刀も入れられぬとは…。」
近寄ってきて頭を下げるギルドマスター。
「あ、いえ…。正直勇者を名乗る不審者とか怪しいと思うので、正当な対応かと…。」
「…そう言っていただけるとこちらとしても助かります。貴方のお陰で、若い命を散らせずに済む。ありがとうございます。」
聞く話によるとアランとそのパーティーは明日出発し、魔王に挑む予定だったらしい。
だが現状の四天王の不在や魔物への対応、直接被害に関して情報の無い魔王の事を考えると予定は変更する事になった。
よくよく考えたらこんな魔王城に近い所に街があるんだから魔王の脅威って配下がメインなのか。
アランなら四天王にも苦戦はしそうだが勝てそうだし。
「パーティーメンバーを納得させるのは骨が折れそうですね…。今の試合を観てもらえば納得して貰えたでしょうが。」
「魔王に挑むよりは楽だろ。仲間達と俺を軽くハッ倒せるくらい強くなったら胸張って挑んだらいい。」
「っと言うことはまた手合わせを!?」
少し落ち込んでいたが途端に目をキラキラさせるアラン。魔王に挑むのはごめんだが、これくらいはしなきゃバチが当たる。
「俺は今後この子達と色んな所を見て回るつもりだ。お前の魔法か能力か根性なのか知らんが、俺の事探せるなら会いに来い。いつでも相手してやる。」
「し……師匠ー!!!!」
泣きながら抱きつかれる。
だから師匠じゃ……。あーもういいや。




