冒険の書 X6
「おやまあ!女の子が1人増えたんだねぇ。
まあよくある事だから問題ないんだねぇ。」
流石に無断でモノ子も泊まるわけにはいかないので女将さんに報告。「剣が女の子になりましたー。」とも言えないのでこの街で仲間になったという事にしておいた。
…いやなんでよくある事なんだよ。
「よろしくお願いします。」
「礼儀正しい子なんだねぇ。ベッドは…あの部屋なら3人で仲良く寝れば良いんだねぇ。
そんな事よりもう夕飯出来てるから3人ともさっさと食べるんだねぇ!!」
女将さんに背中を押されて食堂に入る。
中は既に多くの冒険者が食事を取っていた。3人で席につくとすぐに給仕の女性が3人分の食事を持ってきてくれる。
「はーいお待たせー、今日はディアタロスのシチューとパンと腸詰めだよー。うちのお母さんのシチューは絶品だからほっぺた落とさないようにねー!!」
お母さん、恐らく女将さんの事だろう。ビーフシチューのようなシチューからは良い香りが立ち込め、パン籠には山盛りに色々なパンが盛られている。鉄板で提供されたこちらも山盛りの腸詰めは熱で時折割れて香りと肉汁が溢れ出す。
「「『いただきます!』」」
右腕での食器を使った食事は慣れないがスプーンとフォークなら何とかなりそうだ。剣だけじゃなく箸の練習もしなきゃな。
まずはシチューの肉を一口。……美味い、美味すぎる。ディアタロスといったか。食べた感じ恐らくだいぶ前に食べた牛っぽい魔物の事だろう。
前食べた時は脂っぽく感じたが、このシチューの肉はよく下処理されているのか全くくどくなく、脂の旨味が最大限に生かされている。噛めば簡単に解ける肉は圧力鍋でもないと早々ここまで柔らかくはなるまい。
続いてフォークを手に取り腸詰めを刺す。プシュッと肉汁が溢れ出して期待値が高まる。
かぶりつけばパキっと良い音がなりながら皮がさけてスパイスやハーブ、肉の美味さが爆発した。
溺れてしまうのではないかという錯覚をしてしまう程の肉汁も美味い腸詰めでしか味わえない。
「うっっめぇぇえ……。こんなうめぇ飯初めて食った……。」
二人も頬を緩ませ美味しい美味しいと言いながら一心不乱に食べている。アイは元よりモノ子も食べるのが好きそうで良かった。
俺はパンを1つ手に取る。少し柔らかめのフランスパンのようなパンだ。それをシチューに浸してかぶりつく。
瞬間、口の中にパンに染み込んだ肉と野菜の旨味が溶け込んだシチューがジュワッと溢れる。やはりシチュー系の料理はこの食べ方が1番美味い。
「まあまあ!ずいぶん美味しそうに食べてくれるじゃないか!
おかわりもあるからいっぱいたべるんだねぇ!」
俺達は3人同時、いや、店内にいた客のほとんどが同時に「おかわり!!」と叫んだ。
駄目だ、こんな美味いもん食ったらもう焼いただけの肉の生活なんて戻れるわけがねぇ。
「ご飯、美味しかった。」
『お腹いっぱーい!ごちそーさまでしたー!!』
「まあまあ、いい子達だねぇ!明日も腕を振るうから楽しみにしてるんだねぇ!」
食事を終えて部屋に戻る。宿泊する4日間これだけ美味い飯が毎日食えるなんて最高だ。
もっと泊まってもいいな。…いや流石に他の所も見て回りたいしダメか。
ガデアの街の地図を開き、この4日間何をするか思案する。アイとモノ子は美味しいご飯で満足したのかベッドで寝ている。見た目の変化の無いアイに対してモノ子はお腹ぽんぽこりんになってる。いっぱい食べたんだな。
精霊って言ってたけど、基本的には普通の小さい女の子と変わらないようだ。
「マジックバッグがあるからな…。食器や調理器具なんかも持ち運べるし買いたいな。」
雑貨屋…魔法道具屋なんてのもあるのか。シャワーがあるくらいだから旅に役立つ物が色々売ってるかもしれない。
食材に関しては朝と夜はここの食堂で食べれると言っていたから後回しで大丈夫だ。マジックバッグの容量も分からないからある程度厳選もしなきゃいけないしな。
「…ギルド。」
地図の中でも一際分かりやすく書いてある施設、冒険者ギルド。冒険者にとっては必須なのだろう。イメージ的には依頼を受けたり魔物の素材を買い取ったりを想像するが、買取屋にかんしては他にあるようだ。
今後の事を考えると、ギルドに登録してお金を稼ぐ事も考えなくてはなるまい。
手持ちもずっと遊んで暮らせるような額ではなし、買取屋の相場を見てどうしても必要なら…かな。
「絶対面倒事ありそうだよなぁ…。下手したらまた魔王と戦う事になりかねない。」
正直、思い出すだけで未だに身体が震える事がある。
上げすぎ位にLvを上げたと思ってた。モノ子はああ言ってたけど、光の魔力を纏った斬撃もこの辺の強力な魔物を一撃で真っ二つにする程の威力だ。実際四天王も難なく倒していた。
それでも…魔王には敵わなかった。
「……あー!!やめだやめ!」
地図を置いてベッドに腰掛ける。すると両側から身体を捕まれ押し倒される。
「二人とも!?起きて」
『すぴーすぴー』「…むにゃむにゃ」
下手くそな狸寝入りをする二人。そうだった、今の俺には二人が居てくれるんだった。
…魔王の事はもう忘れよう。二人と幸せに生きることだけ考えよう。
二人にくっつかれながら、俺も眠りについた。
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朝食はベーコンエッグとパン、コンソメっぽいスープだった。
元の世界でも食べ慣れたメニュー、食べ慣れた味だったが、それゆえに身体にも心にも染み入る物がある。
少し泣きそうだったが、突然現れた女将さんに「昨晩はお楽しみだったねぇ!!あっはっは!!ベッドは出かけている間に綺麗にしとくんだねぇ!!」と言われて涙も引っ込んだ。
してないしてない。アイもモノ子も首を捻っていた。うちの子達純粋なんだから変なこと教えないでくれよ。
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「た…助けていただきありがとうございます!!」
赤髪の少年が頭を下げてくる。
先程リザードマンの集団を叩き潰したが、どうやらこいつが襲われていたようだ。気が付かなかった。
どうせ喋れないので無視して壊れた斧の代わりにリザードマンの使っていたカトラスの様な剣を拾う。
これならちょっとはもつだろう。
しばらく少年は着いてきて話しかけてきたが、風の魔法で飛び上がって振り切ることにした。
構っている暇は無い。
「す…すげぇ…。あれが上級の冒険者かぁ!!
何も言わずに助けてくれて無言で立ち去る…。
くーっ!!めちゃくちゃかっけぇ!!」
どうもストーキングでもされているのか、それからちょくちょくあの少年が目の前に現れるようになった。
方向も分からずさまよいながら旅してんのになんでこのガキは俺の居場所が分かるんだ。そういう能力や魔法でもあるのか…?
「あっ!【無声の狂戦士】様!!良かった会えた!!今日こそ僕の事弟子にしてもらいますからね!!」
なんだ【無声の狂戦士】って…。俺の事か…?
小っ恥ずかしい渾名を付けられて頭を抱えた。
【いいえ】
仕方なく拒否するために声をだす。これしか喋れない事を嫌でも意識するから出来れば喋りたくないのだが、付き纏われても面倒だ。
「うおおおお!!狂戦士様喋れるんですね!!?無視から1歩前身!!これ来月には弟子にして貰えるんじゃないですか!?」
するわけねぇだろ…。
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植物型の魔物の攻撃で脇腹を抉られる。
毒でも持っていたのか、身体の自由がどんどん効かなくなっている。
手持ちの武器ももうメイスと棍棒のみ。魔力も残り少ないので後のことを考えると火の魔法を武器に付与する余裕もない。
一旦ここで死んでリスタートするか、そう諦めかけたその時、背後の茂みにあのガキが居るのが見えた。
半泣きになりながらも決意をたぎらせた表情をしている。まずい。下手したら俺を助けようと突っ込んで来かねない。
俺は武器に炎を纏い、死に物狂いで植物の魔物を叩き潰した。
「狂戦士さまぁ…。ごめんなさい…僕回復魔法使えなくて…。こんなにボロボロなのに…。ごめんなさい…。」
ズタボロで倒れた魔物に寄りかかる俺に泣きながらかけてくるガキ。んな事してる暇あったらさっ
さと逃げろよ。他の魔物が来たらどうするんだ。
毒のせいで血反吐を吐いてしまう。
死んだ時は俺の死体も消えるみたいだから、そうすればこのガキも逃げるだろ。
俺は静かに目をつぶった。
あれからしばらく経つ。そういえばあれからあのガキを見ていない。
まあ死んで消えた奴を探すもの好きなんてそうそう居ないか。
さてと、それじゃあ5回目のトライ、行くか。
前回は聖騎士の群れに滅多刺しだったが、今回はどんな死に方する事になるかな。
まあいいや、今度こそボスの面拝んでやる。ダンジョン…神聖神殿 エヴァーラスト。
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「って事が昔あってな。
いやー、あの時は結構荒んでたな。あのガキんちょ元気してるかな?」
朝食を食べ終えた俺達は早速街で買い物する事に。
だが急に2人に自分達と会う前はどうしてたのか聞かれたので歩きながら記憶をたどり昔話をしている。ちょうどホーリーヘイローを手に入れるちょっと前くらいだ。
「…京介、聞いてるだけで胸が痛くなる。
もう命を粗末にしないで。」
『そうだよー。この間もボーって燃え上がってたしー!むちゃくちゃな戦い方するよね。アイ達が居るんだからもっと頼ってね。』
2人に釘をさされる。それはもちろん、もう制約がないんだから蘇生できないしな。
死ぬのは真っ平ごめんだ。あんな痛くて怖い体験もう二度としたくない。
「わかってるわかってる。二人を置いていくような事は絶対しないから安心してくれ。」
「とかいって私達のピンチには間違いなく命を捨ててでも助けてくれようとする。京介はそういう男。そこがかっこいいけど…、残される私達の事も考えて行動して欲しい。」
耳の痛い話だ…。自己犠牲なんて自己満足でしかないか…。心に刻んでおこう。
『アイが2人とも守ってあげるから大丈夫だよー!ぶい!』
両手でピースしながら笑うアイ。俺よりよっぽど安心感があるし頼りになるな。
「……狂戦士…様…?いやそんな訳…ないか。」
なんかやけに聞いた事のある声とあまり言われたくない呼び方をされた気がする。
振り返らない方がいいなーと思いつつも、思わずゆっくりそっちを見てしまう。
赤毛にがっしりとした燃えるような鎧を着た青年としっかり目があってしまった。
「あ、あんときのガキんちょ…?」
「きょ…狂戦士様ぁ!?!?いてっ!?」
思わず頭を引っぱたいてしまう。いや仕方ないだろ狂戦士とか小っ恥ずかしい。
「ご…ご無事だったんですね…!!自分はてっきり…。」
「あー…うん。君は…めっちゃデカくなってるね…。」
やっぱりあの時のガキだ…。無事で良かった…。
あの時はせいぜい140cm位だっただろう少年の身長は180cmくらいになっている。俺より高い…。
童顔な顔つきが変わっていれば気が付かなかっただろう。
「っと言うか狂戦士様普通に喋れるんですね!?俺に喋ってくれたの1回だけだったのに…。」
「あー…まあ俺にも色々あったんだよ。後狂戦士やめろ、俺の名前は京介。君は?」
「キョウスケ様!!あっ、そういえば名乗ってませんでしたか!!申し遅れました!自分はアラン・バルティッシュ・キングヴェーヌ・ホルキンス・ハルトマンと申します!!
長いので皆アランと呼び出す!!」
ほんとにめちゃくちゃ長い、この世界の貴族とか王族だったりするのかこいつ。なんで俺のストーキングなんてしてたんだ。
『アイはアイだよー。よろしくねー。』
「モノ子。」
「アイ殿にモノ子殿!よろしくお願いします!!お二人はキョウスケ様のお仲間ですかね?」
「おい…あれ炎豪剣のハルトマンじゃねぇか…?」「え…Sランク冒険者の…?」「Sランクが下出に出てるって…何者だ…?」
周囲の冒険者達が指をさしてボソボソと言い合う。
おいなんか嫌な予感してきたぞ。なんだよ炎豪剣って、Sランク冒険者って。
「っと言うかキョウスケ様!?その腕は………。
いやいや、積もる話もありますので是非ギルドに来ていただけますか!キョウスケ様!皆さん!!」
「やだ、絶対厄介事の気配がする。アラン君が元気で良かったよそれじゃ!!」
Uターンして宿に帰ろうとするが即座に腰にしがみつかれる。こいつ速え…。
「嫌です!!キョウスケ様も自分のしつこさ知ってますよね!!話を聞いてくれるまで付きまといますよ!!」
嫌すぎる。こんなのにストーキングされてたらおちおち美味い飯も食えない。
「はぁ…分かったよ。アイとモノ子もそれでいいか?」
『大丈夫だよー。』
「問題ない、でも京介にしがみつくのは問題、離れろ。」
アランをゲシゲシと蹴るモノ子。周りのヤツらもアタフタしてるしこいつ結構良い立場の人間だろ…。




