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冒険の書 X3

調理したグリフォンは明日の飯用を少し残して全部食べた。特にアイがよく食べる。見ていて気持ちいいな。

保存が出来ればいいんだが、ちょうど大きな葉を付けた木があったので葉を頂戴して包んでおく。これなら明日までなら問題ないだろう。


骨は埋めるべきかと思ったが、気がついたらアイがバリバリ食べていた。最初はアイはスライムっぽく溶かして食べる系かとおもっていたが、さっきのご飯もちゃんと口から食べてたし、骨も歯でちゃんと砕きながら食べてるっぽい。歯、あるんだな。

試しに俺も食ってみたが、うん。石よりは美味い。

ただ、骨髄に関してはぷるぷるしててうまかった。

そういえば昔テレビで食べてたのを思い出したが、バターみたいな使い方が出来そうだ。覚えておこう。


地上に出たときはまだ明るかったが、釜まで作って大量の肉を焼いて食っていたからか、気づけば辺りは暗くなっていた。魔王城周辺であまりにも呑気すぎた。


「アイ、暗くなってきたし一旦洞窟の出入り口に戻ろう。あそこなら野ざらしより安全だ。」


『はーい!』


洞窟の出入り口の穴に近づき、風魔法で降りる準備をしようとするが、アイに制止される。


『降りる時はアイに任せてー。今度はキョースケがアイにしっかり捕まってねー。』


アイの言う通りに抱きつくと片方の手でしっかりと身体に固定される。

すると反対の手が肥大化し、地面に張り付いた。

そのままアイは俺を抱えて穴の中に飛び降りた。

ビヨーンと伸びるアイの腕。着地時には足が肥大化して衝撃を和らげていた。


『無事とうちゃーく!!どうだったーキョースケ?』


「アイすげぇー…。」


アイの身体には質量保存の法則というものがないようだ。伸びるし巨大化できる、便利だ。

そもそもこの洞窟を覆うくらいの体積があったのだからこれくらい出来て当然なのか。


『えへへー!この大きくなった手でパンチもできるしー、この手を口にして食べる事も出来るんだよー!!』


上から降りてきた巨大な手を俺の方に向けると、蛇の頭のような形に変化して俺を甘噛みしだす。なんだこれ、めちゃくちゃ可愛い。あ、今ちょっと舐めた。舐めるの好きだなこの子、味見されてる?


「よしよし、アイは凄いな。」


俺の身体をハムハムしてる手を撫でるとアイは更に嬉しそうに笑った。

しかし手も口に出来るのか。大型の魔物とか丸呑みにするのかな。


───────────────────────


アイと二人で並んで睡眠を取る。

と言ってもここにも魔物が入ってくる可能性はあるので気は抜けない。

先程のアイの力を見るに戦闘能力もかなり高いとおもうが、それでも寝込みを襲われたらどれだけ強くなっても危険なのは俺自身が1番よく知ってる。


『キョースケ…?寝ないのー?』


もう眠ったとおもっていたアイが、目を擦りながらこちらを見つめてくる。


「あー…ああ。もし魔物が入ってきたとしても対応出来るようにしておこうってな。アイはゆっくり寝ていいぞ。」


アイがこちらをじーっと見つめてくる。寝ろ、という圧を感じるがこればかりは譲れない。

そう思っていたのだが…。


『だーめ!キョースケもちゃんと寝るのー!』


両手で抱き寄せられ、同時に俺とアイの周囲が薄ピンクの半透明な粘液の壁で覆われていく。

想像以上にアイの身体は自由自在みたいだ。


「アイっ…!?流石にこれは!」


『この中なら安全だよー。キョースケのことはアイが守ってあげるから。キョースケはゆっくり休んでね。』


もがこうとするが、優しい声とは裏腹に強い力で抑え込まれた。

ギューっと抱きしめられ、頭をなでられる。

やはり人肌とは違う感触だが、不思議と不快感も恐怖も全く感じない。むしろ安らいで身体の力が抜けてどんどん眠くなってくる。


『おやすみ…キョースケ。アイが傍にいるからね。』


「アイ…。」


気がつけば俺は意識を手放していた。


─────────────────────

──


結局、日が高く登る時間までぐっすり寝てしまった。気を抜いてゆっくり眠るなんて何時ぶりだろう。となりではアイがヨダレを垂らしながら寝息を立てている。


「アイ、もう朝…いや多分昼くらいだぞ。」


『んぁ…?あ、キョースケおはよー。よく眠れたー?』


ズブズブと周囲の粘液の壁がアイの身体に戻っていく。なんか片付けが楽なキャンプ用のテントみたいだ。


「ああ、お陰様でな。アイもちゃんと眠れたか?」


『ぐっすり眠れたよー。キョースケが暖かくて気持ちよかったー。』


そういえば一晩中くっついて寝てたんだな…。

不健全だとはおもうが、やましいことは無いし気にしないでおこう。


『キョースケ、本当にちゃんと眠れた?』


「…ああ、今までで1番よく眠れた。ありがとな、アイ。」



その後は昨日の残りのグリフォン肉を火魔法で温め食べて再び地上へと出た。


『キョースケ、これからどこに行くのー?』


「そうだなー。とりあえず街でもあればいいんだが、ここ魔王の大陸だしな。

神官の居ない寂れた教会はあったけど、街は見かけなかったしどうしようか。」


少し前までは色々嫌になって街にも寄り付かなくなったが今は違う。買物も問題なくできるし、情報収集だってできる。

問題はお金が全く無い事だが、それはまあ道中の魔物の素材を集めて売って金にすれば問題はないだろう。


『街ー?街ならあるよー。場所は…わかんないけどガデアって街だよー。』


「なに、本当か?ならまずはそのガデアを探してみるか。」


こうして改めて俺達二人の旅がようやく開始した。

目指すは多分最後の街 ガデアだ。


───────────────────────


歩き始めて数時間、時々襲ってくる魔物がいるが二人で難無く撃退しながら進む。食わないなら殺す必要はないからな。

特にアイのパンチは確かに凄かった。振り子のように遠心力で伸ばした手が巨大化して魔物をぶっ飛ばしていた。


「しかし…なんか俺1人の時より魔物と遭遇しないな。なんか避けられてるのか……?」


『あー、それはアイがこの辺りで1番強いからかもー?前は色々襲ってきてたけど、最近は昨日来たヘルグリフォンとかベヒーモスとかしか襲ってこないんだー。

ご飯探すのもたいへーん。』


どうやらアイはこの辺の食物連鎖の頂点に君臨しているようだ。人間の俺は狙われやすいのか、はたまた勇者だったから狙われてたのか…。


「ん…?なんか聞こえなかったか?」


狼の鳴き声のような、近くにいるのだろうか。


『んー?あ、あっちで誰か戦ってるみたいだよー。』


二人で周囲を見渡すとアイが指さす方向で、鳴き声の主の狼の様な魔物と戦っている人がいた。

見た感じ1人に対して4.5体いるようだ。しかも1匹はすごく大きいし頭が二つある。


「苦戦してるみたいだ…。俺は援護に行くからアイは何処かに隠れててくれ。」


たまに魔物を連れている人を見かけた事はあるが、アイはちょっと色々特殊すぎる。下手な誤解を与える方が危険だ。しかしアイの反応は予想を上回った。


『大丈夫だよー。』


ポンッと人型からまん丸のThe スライムという形に変化して俺の頭の上に乗ってきた。

まあこれなら大丈夫か、モタモタしてると戦ってる人が死んじまう。しかしアイはなんでもできるな…。


───────────────────────


「いやー!!危ない所を助けていただきありがとうございます!!若いだんなにスライムさん!!

さらに傷の回復までしていただいちゃって!!

まさかヘルハウンドの素材を集めにきたらボスのオルトロスまで居るとは!!

あ、申し遅れました。わたくしタルイヌと申します。以後ごひいきに。」


「はぁ、どうも。俺は京介といいます、この子はアイ。ご無事でなにより。」


なんとか守りながら魔法でヘルハウンドとオルトロスって言うらしい魔物を倒す事が出来た。アイも頭の上からサポートしてくれて助かった。

襲われていたのは商人っぽい見た目のおじさん。

杖の様な武器を持っているが、あまり前線に出て戦うタイプには見えない。

それに手荷物もカバンを1つ持っているだけだ。

荷台を捨ててさっきの魔物達から逃げてきたのだろうか?

傷に関してはアイが頭の上でなんかポワポワしてるなー。と思ってたら光の回復魔法をつかってたようだ。


「キョウスケさんにアイさん!!良きお名前だ!

そうだ、お礼をしなくてはですね!見た所お召し物もボロボロですし何かとお譲りさせていただきます!」


そう言うとタルイヌさんはバッグに手を突っ込むと、中から屋台のような物が出てきた。

いや、ようなじゃない。屋台そのものだ。


「…すげぇ、マジックバッグってやつか。」


アイテムが見た目の容量に反して大量に入る魔法のカバン。優馬おすすめの本でもよく出てきたし、ゲームのアイテム欄もほとんどこれみたいなもんだが、実物をみると驚くな。

確かにこれなら身軽に商売も出来るだろう。


「ほっほ、これはバルタス帝国の魔法職人が作った1級品でしてね。これのお陰でどこでも商売出来て助かっておりますはい。」


そう言いながらあれもこれもと小さなカバンに詰めていくタルイヌさん。


「お待たせ致しました。着替え数着と食料他なにかと詰めさせていただきました。小型ですので容量は少ないですがマジックバッグもオマケでさしあげます。」


ズイっと小型マジックバッグを押し付けてくるタルイヌさん。


「いやー、流石にそんな貴重な物まで受け取る訳には…。」


「いえいえ!代わりと言ってはなんですがこのヘルハウンドとオルトロスの素材をお譲り頂きたくおもいまして!!その分の代金も詰めさせていただいておりますはい!」


圧がつよい。しかしなるほど、取引も含まれていたと。

そもそも相手は商人だ。これも損得をしっかり考えたやり取りなのだろう。


「そういう事なら有難く頂戴します。お礼に必要でしたらナイフさえ貸していただけたら解体もお手伝いしますが。」


「それは非常に助かります!!ではこちらのミスリルナイフをお使い下さい!」


そうして二人で手早く解体する。あんまり呑気に解体してると他の魔物が寄ってくるからな。


────────────────────────


「しかしキョウスケさんは片腕なのにお強いですな。見た所剣士の様でしたが先程は魔法で戦われていましたし。」


「いえ、まだまだですよ。腕は…ちょっとドジっちゃいまして。

タルイヌさんこそ商人なのに、こんな危険な所にお1人なんて。」


解体を終え素材を回収し、少し歩きながら話をする。


「ほっほ、いやこう見えてわたくしも冒険者の端くれでしてな。

ダンジョンなんかにも1人で潜ったりもするんですが、いやはや油断しましたなー。

ここいらの魔物複数体だとまだまだわたくしでは危険でしたようで。」


どうやらタルイヌさんは結構な実力者だったようだ。

少し前に1匹で襲ってきたヘルハウンドは難無く倒していた。


「そうだ。タルイヌさん、俺達ガデアの街を探してるんですけど。何処かわかります?」


「おお、ガデアですか。それならあちらの方に真っ直ぐ進んでいけば明日には着くとおもいますよ。

現在地がこの辺りで…、ガデアがここになりますね。その地図もさしあげますよ。ここまで護衛して下さったお礼ですはい。」


バッグから地図を出して印をつけてくれる。

有難く地図を頂戴すると、タルイヌさんは別の目的地があるのかここで別れることとなった。


「今度はちゃんと客としてお世話になります!」


「おまちしておりますねー!!」


『…じゃーねー。』


アイもバレない程度に小さな声で言いながら手を振っていた。


「……はぁ。俺、やっぱりちゃんと喋れてるんだな。

良かったぁ…。」


実はアイにしか聞こえないんじゃないかとか内心すこし思ってたんだ。制約が無くなったとはいえ、不安はあったが、これで街に行っても大丈夫だろう。


『キョースケ!さっき貰ったカバンの中見せてー!!』


「ん?ああ。そういや中身確認してなかったな。

服も入れてくれたって言ってたし着替えもするか。」


よくよく考えたら今の今までボロ切れみたいになったインナーで過ごしていた。

前にダンジョンで手に入れた何か効果ありそうなインナー装備だったが、ここまでズタボロだとその効果もあるか分からん。


「えーっと中身は、お金、服がインナー合わせて4セット、ブーツ1足、なんかのポーションが何個か、それに食料…おお!!パンやハムかこれ!ありがたいな!!」


加工食品なんて長らく食べてない…。タルイヌさん、本当にありがとう。


『キョースケ!みてみてー!!ジャーン!!』


俺が食料で盛り上がっていると、隣でゴソゴソしていたアイが嬉しそうに叫ぶ。

そこに居たのは、薄ピンクの髪、肌色の肌、タルイヌさんがくれた服に身を包んだアイだった。


「アイ!?その姿…。」


『えへへ、キョースケと一緒みたいでしょー?

服までしっかり再現するのは無理だけど、身体だけならなんとか出来たよー!!

これなら一緒に街の中も歩けるねー!』


先程もそうだったが、アイは自分の特異性をちゃんと理解しているようだ。

大切な仲間だから気にしないようしてたけど、やっぱりちょっと気になる。アイは、何者なんだ?


「…ああ!そうだな!一緒に色んな所見て回ろうな!」


まあいいか、そのうちわかるだろ。

そうして俺達は二人、ガデアへと歩みを進めた。



『うーん、やっぱりこのカッコちょっと疲れるー!!』


服を脱いでバッグに押し込んで、まん丸スライムモードになると再び俺の頭の上に乗るアイ。


『これが一番楽ちーん!!』


「こらこら、自分だけ楽するんじゃありません。」


『えー、キョースケはアイの眷属なんだからアイを労らなきゃ駄目なんだよー!!』


そういえばそうだった、いや眷属がどういうものなのかもよくわかってないんだけどな。


「はぁ、はいはい。それじゃ行きますよアイ様。」


『しゅっぱーつ!!』


しかし…さっきのアイの姿。どこかで見たような気が…。気のせいか?



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