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冒険の書 X4

ガデアに向けて進み、暗くなる少し前に今日の野営の用意をする。

今日はありがたい事にパンとハムがある。実に4年振りの文化的食事。少し硬めのパンだが、ライ麦パンみたいな物だろうか?

半分に割いてハムを少し厚めに切って挟む。有難いことに小型のペティナイフもバッグの中に入っていたのでこれから色々調理が助かりそうだ。ガデアについたら食器も買わなきゃな。

というわけで今日の夕飯はハムサンド。簡単な物だが、俺にとってはご馳走だ。


「アイ、晩御飯できたぞー。」


『わーい!あ、パンだー!』


アイと二人で並んで座って手を合わせる。

ちなみにアイは結局全身薄ピンクの女の子形態に戻っていた。なんやかんやこの姿が楽でいいらしい。


「『いただきます』」


さっそくかぶりつく。

硬めのパンとスパイスのちょっと効いたハムの組み合わせ。昔ならレタスやトマト、マヨネーズがなければ味気ないと感じていたかもしれないが、今はただただ懐かしさと美味さに夢中でかぶりついてしまう。

美味い、肉や果物や草しか食ってなかった身体に人類の作り出した食べ物が染み入る。

…いや、やっぱりマヨネーズは欲しいかも。


「美味い、しかし喉が渇く…。」


仕方ないので、魔法で水の塊で出来た泡のような物をいくつか作り出して水分補給する。

ふよふよ浮く水を出すだけの魔法なので戦闘ではあまり役に立たないが、生きる上では非常に助かる。

この辺川とかないからな。

ある意味自分から出た物で最初は抵抗があったが、別に問題ないし、脱水症状で倒れるよりよっぽどマシだ。アイも昨日から気にせず飲んでるし。


『んー!美味しいかったねー!キョースケ!』


あっという間に2人とも食べ終わる。


「ああ、でもアイにはちょっと足りなくなかったか?」


必要なら今からでも何か狩れば肉料理なら出せるだろう。だがアイは首を振った。


『昨日いっぱい食べたから全然だいじょーぶ!それに明日にはガデアに着くでしょー。なら今日はもうゆっくり休もー。』


遠慮しているわけでも無さそうだ。栄養やエネルギーを保管出来る体質なのだろうか?

眷属の俺も後々そういう能力が付いたりするのだろうか。

こうして俺達は食事も済ませ、今日もアイの粘液テントの中で二人で眠った。


──────────────────


「おお!あれがガデアか!!」


タルイヌさんの言う通り、翌日の昼頃にガデアに到着した。石壁に覆われた少し大きめの村くらいの規模だろうか。

となりでは俺の提げているマジックバッグに頭を突っ込んで着替え中のアイ。


『よし!着替えかんりょー!!さっそくいこーキョースケ!』


アイに手を引かれ門へと走っていく。

だいぶ前に入ろうとした街は会話出来ないせいで追い返されたけど…。今なら大丈夫だ!!



「おお、冒険者さんが二人だね。ようこそガデアの街へ。ガデアははじめてかい?」


門の前に着くと中から重厚な鎧に身を包んだ強そうな騎士が出てくる。少し緊張するが、その雰囲気はどこか優しげだ。


「えーっと…はい、初めてです。」


「そうかそうか、ここまでよく来たね、大変な旅だっただろう。少し待ってね。…あったあった。この街の地図だよ。

私のおすすめの店なんかも書いてあるからゆっくり休んで行ってね。」


渡された地図を見る。騎士さんの言う通りおすすめの鍛冶屋や飯屋、宿屋なんかがかいてあり非常に助かる。遊園地のパンフレットみたいだ。


「ありがとうございます!あの…なんでこんな親切にして貰えるかうかがっても?」


「ん?ああ、この街は冒険者達の為の街だからね。周囲の強力な魔物の退治や魔王に挑もうという英雄の最後の身を休める場所だから。

私がしてあげられることなんてこのくらいなのさ。それじゃあお二人さん、ゆっくりしていってね!」


ハッハッハッ、と笑いながら中に通してくれる騎士さん。

すごくいい人だ。魔王に負けて逃げてきた俺からすると申し訳ない気持ちもあるが。


中にはいると、やはり大きめな村という印象だった。

行き来する冒険者とそれを相手に商売するお店。

冒険者の人達もかなり貫禄がある。


『キョースケ!最初はどこに行くの?』


「ん、ああ。最初は宿屋かな。情報収集も色々したいし、手持ちのお金でどれくらい滞在できるか確認して今後の事を考えよう。」


地図を見ながら二人で連れ立って街を歩く。

途中で武器屋を見かけた。武器や解体用のナイフなんかも見たいし後でお邪魔しよう。


「お、ここだ。宿屋 【豊穣の森】。

ご飯も美味しいんだって。」


扉を開くと、恰幅のいいおばちゃんがカウンターにたっていた。


「いらっしゃい、おやまぁ。若い冒険者さんじゃないか。よくきたねぇ。」


「お邪魔します。」『しまーす!』


「すいません、しばらく宿泊したいんですが。」


「連泊だねぇ。お、若い2人にちょうどいい部屋があいてるねぇ。料金は1部屋1日500ギルだねぇ。」


この世界の共通通貨、ギル。全て硬貨で数字が書かれており、種類も多く存在する。

そして1泊500ギル、めちゃくちゃ安くないか…?

この世界に来て城を出る時渡された金がたしか1万ギルだったからあの時点で20日は泊まれるぞ。

その上今あるお金、昨日確認した所10万ギル。

贅沢こそ出来ないが、しばらく何の問題も無いだろう。


「わかりました。では4日程お願いします。」


「わかったねぇ、はい、これは部屋の鍵だねぇ。

夕方頃からそっちの食堂で晩御飯を出してるから食べたかったら早めにくるんだねぇ。大食らいの冒険者が多いから油断してると無くなっちゃうんだねぇ。」


『わーい!ご飯ご飯ー!』


「ふっふっふ、腕によりをかけて作るんだねぇ。」


部屋の鍵を受け取って部屋に向かう。

扉を開けるとやたらデカイキングサイズのベッド。

部屋の家具もしっかりしており、なんと別の部屋にシャワーまで付いていた。


「いやどう考えても500ギルの部屋じゃねぇだろ…。というか下手したら現実のそういうホテルじゃねぇか…。」


というかシャワーとかあるんだ…。

確認すると部屋に説明書きがあり【魔法都市バルタス帝国開発部の新商品!魔石に魔力を流す事で温水が出る魔法シャワー!!お楽しみの前に、しっかり綺麗にするんだねぇ!!】と書かれている。やかましいわ。


『すごいねこれー!キョースケ!後で一緒に水浴びしよー!!』


「……スライムの姿ならいいぞ。」


えー、といいながら俺の体をツンツンするアイを無視して魔法シャワーを眺める。タルイヌさんが言ってたマジックバッグを作った国と同じ所製だ。

シャワーなんて異世界物であまり見るものじゃないし俺以外にもこの世界に来た人が居てその人が作ったんだろうか?


シャワー室を出て椅子に座り地図を見る。

魔法都市バルタス…。今俺達が居る大陸【ヘルヘイム】から海を渡った先の大陸【マリーシア】にあるみたいだ。

そんな名前だったのか。あとあの辺にこんなすごい都市あったんだな。知らなかった。


「…俺はちょっと知らない事が多すぎるな。アイを守るためにもこれからは戦い以外を学ばないとな。」


『キョースケ!!シャワーきもちいいよー!!』


少しドロッとした半人型形態でシャワー室から手を振ってくるアイ。

うん、まずはアイに羞恥心とか学んでもらう方が先かもしれない。


───────────────────────


べちょべちょになったアイを綺麗に拭いて俺も軽くシャワーを浴びたあと、ガデアの街に着いてからずっと気になっていた武器屋に行くことにした。

ホーリーヘイロー以外の剣を使う気は無かったが、まだ修復が完了しない以上繋ぎの武器があった方がいいかもしれない。

魔法でも全然戦えるが、早めに右手で剣を振るう練習もしたいし、やはり武器屋というのは気になる物だ。


「騎士さんの地図によると何ヶ所かあるみたいだが…。おすすめはここか。」


おすすめされていたドワーフの武器屋 【石髭】の店の前に立つ。召喚された国は人族ばかりだったが、旅先では色々な種族の人を見かけた。まあ話した事はないんだけどな。

中でもドワーフはイメージ通りの職人気質なのかこの店も鍛冶屋を併設しているようだ。


『キョースケ、武器買うのー?』


「いいのがあったらな。予算次第だがアイも何か武器使ってみるか?」


『えー、殴った方が早いからアイは要らないかなぁー。』


ごもっとも過ぎる。使い所が無い。杖なんかはあったら魔法の範囲とか広がったりしそうだけど、そんな効果あるかまだわかんないからな。


「まあいいか、お邪魔します。」


扉を開けると、所狭しと武器が並んでいる。

ショートソード、ロングソード、パルチザンやモーニングスターまである。どれも魔王城前の街だけあって強そうだ。

店の奥にいる新聞のような物をよんでいる小さめのおじさんがおそらくドワーフの職人で店長と言ったところか。


「おう、らっしゃい。

…兄ちゃん、あんたその剣どこで手に入れた。」


「え…?2年前くらいにダンジョンでですが…。」


入ってすぐにも関わらず、鋭い眼光をむけられ思わず答えてしまう。


「ダンジョン産か…。にしても禍々しい魔剣だ。呪いの武器ってわけでも無さそうだが…その腕もそいつに持ってかれたのか。」


「魔剣…?この剣は聖剣のはずですが…。腕は違います、これは自分が弱かっただけなので。」


聖剣 ホーリーヘイロー。基本的にはアイテムや武器の名前が分からない中、この剣だけは違った。

手に取った時にその名前が思い浮かんだんだ。

まるで剣が教えてくれたみたいに。だから間違いなくこの剣の名前は聖剣 ホーリーヘイローのはずだ。

今でこそ黒いオーラのような物を纏ってしまっているが、元々は光り輝く聖剣だったし。


「……確かによく見ると聖なる力も感じるな。

おっと、急にすまねぇな、儂はダイモン。この店の職人でオーナーだ。

変わった武器をみるとつい血がさわいじまっていけねぇわな。」


「俺は京介、よろしくダイモンさん。」


『こんにちはー、アイだよー。』


ニカッと笑うダイモンさん。ドワーフは気難しいイメージだったが、なんやかんやこの人は優しそうだ。


「んで、今日はどうしたんだ?嬢ちゃんは丸腰みてぇだからその子の武器でも買いに来たのか?」


「いえ、俺の武器を見にきたんです。以前の戦いで剣がボロボロになってしまったので、直るまで別の武器をつかおうかと。」


「直る…?わりぃがその剣ちょいと見せてくれねぇか?」


「構いませんが」


鞘ごと腰から外し、ダイモンさんに渡そうとする。

が、受け取ろうとした次の瞬間ダイモンさんの腕が弾かれるように仰け反った。


「ダイモンさん…?」


ダイモンさんが驚愕の表情を浮かべている。


「おめぇさん…。こりゃやはりとんでもねぇ代物だぞ。武器がおめぇさん以外に触れられるのを拒絶してやがる。」


『やっぱりそうなんだー。アイもねー。その子に触れなかったんだー。』


そういえば確かに魔王城から落ちた所に落っこちたままになってたな。今思えば粘液もまわりには無かった。

あれはアイも触れなかったからなのか。


「悪い事は言わねぇ、他の武器を使うのはやめとけ。

たまにあるんだよ。使い手に惚れ込んで他の奴には触らせねぇし、使い手が他の武器使うのも許さねぇ嫉妬深い武器がな。

お前さんが他の武器なんか手にしたら下手したらその武器に食われちまうぞ。」


物騒すぎる。しかし付喪神的なやつだろうか。よくよくかんがえたらホーリーヘイローを手にしてから他の武器を使う事も無かったし、一晩経てば自動修復されて新品同然だったから気づかなかった。


結局、俺達は武器は買えなかったが、魔物解体に便利そうなミスリルナイフを2本ほど購入させて貰った。

ゲームでもかなり上位に位置する鉱石であるミスリルが使われたよく切れそうなナイフだ。

それによくよくみるとタルイヌさんが貸してくれたナイフによく似ている。もしかしたらここで購入したのかもしれない。

使いやすかったし、これなら今後の解体作業も楽だろう。


「お邪魔しました。」『またねー。』


「おう、またこい!その剣についてなんか分かったら教えろよー!!」


店先まで出て手を振ってくれるダイモンさん。しかしほんとにこの街の人は親切だし気が良いな。


───────────────────────


宿に戻って腰を落ち着かせる。

アイは部屋に入って早々ベッドで跳ねていたが、疲れてたのかすぐに寝息を立て始めた。

アイにとっても初めての体験が多くて疲れたのかもしれない。


「…ホーリーヘイロー。」


魔王との戦いでは相当無理をさせてしまった。そのせいで自動修復の力が弱まってしまったのかもしれない。

椅子に腰掛け、鞘から抜く。

するといつの間にか欠けていた部分や消耗していた部分がほとんど綺麗に直っていた。

黒いモヤのような物も出なくなってたが、代わりに刃の部分に黒い模様が浮かび上がっている。


「……やっと、直った。」


どこからともなく声がした。一瞬アイかと思ったが、そうじゃない。部屋に他の誰かがいるのか。

そう思った瞬間、握っていたホーリーヘイローから白と黒のオーラが発され、剣は白と黒の髪と服の少女に変わっていた。


「京介、待たせてごめん。京介の相棒、聖剣 ホーリーヘイロー…いや混沌剣 カオスヘイロー完全復活。」


膝の上に乗っかり、首に両腕を絡めて抱きついてくる少女。

俺は驚きのあまり口をパクパク開けることしか出来なかった。

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